表彰:俺
その後、俺は表彰を受けることになった。
闘技場のグラウンドの中央だ。
パグスと同い年ぐらいの国王が、金貨がたっぷり詰められた袋を、俺に渡してくる。
剣闘祭優勝の賞金に加え、国を危機から救った功績に対しても、報酬が支払われるということだった。
ちなみに国王様、今大会中、ずっと観客席の主賓席にいらっしゃいました。
王妃やお姫様らしき人も、ずっと同じ場所におりました、はい。
ただ、正直モブ同然だったので、俺が気にしていなかったというだけで。
国王ならぬ、モブ王である。
ともあれ、そのモブ王から、じゃらっと音のする金貨袋が手渡された。
結構な額だ。
結構な額だが……そろそろ、金額を意識するのが面倒になってきたな。
魔獣の森で魔獣を退治しまくった報酬もあって、今や普通には使い切れないぐらいの金額を手に入れている気がするし、その気になればさらにいくらでも稼げる気がする。
何ならこの王都に、新しく家とか買ってもいいかもしれない。
……いや待てよ、家を買うには、ひょっとしたら全然足りなかったりするのか?
やっぱり、あとでちゃんと計算してみよう、うん。
と、そんな小市民的なことを考えていると、そんな俺に向かって、モブ王が何やらお言葉を発してきた。
「偉大なる冒険者カイルよ。このたびの戦い、まことに素晴らしきものであった。そなたこそ、英雄と呼ぶにふさわしき男じゃ。……どうじゃろう、もしお主さえ良ければの話じゃが、この国に仕官するつもりはないか? 将軍、近衛長、顧問──必要ならば、お主が望むいかなる地位でも用意しよう」
そう提案してくる。
何かこう、腫れ物を扱うみたいな物言いだが、それもまあやむを得ないだろうなぁと思う。
今、モブ王の周りには、何人かの衛兵がいる。
彼等に関して、ちょっと『ステータス鑑定』でレベルを見てみたところ、どうやら全員がAランク冒険者の水準──つまりアイヴィと同格程度の実力者であることが分かった。
王族直属の近衛騎士とか、そんな感じの精鋭たちなんだろう。
が、彼らは一様に、今の状況に冷や汗を垂らしているようだった。
おそらくは、魔族のフェリル一人で、この場にいる全員を圧倒してしまえるだけの力を持っているという現実。
そして、そのフェリルをいともたやすく屈服させた俺、という力関係である。
なので万が一、俺が国王に何らかの危害を加えようとしたとき、彼らが国王を守るという務めを果たすことができないのは、わりと明白だ。
そりゃあ気が気じゃないわな。
別にこっちにそんなつもりはないが、俺の内心なんて向こうの知るところではない。
ちなみに、当のフェリルは今どうしているかというと、再び人間の姿に変身させた後、観客席のティトたちのところに連れて行って「待て」を言い渡してある。
隷属の首輪の力で俺の命令には絶対服従のフェリルは、犬のようにそれに従うしかない。
なお、そうすると逆にフェリルの身が危険な気がしたので、その場にいた赤いのには「襲うなよ。破ったら──分かってるだろうな」と言い渡してある。
……今考えると、我ながら指示の出し方をミスった気もするが、観客席を見ると、どうやら今のところはまだ無事のようだ。
──まあ、それはともかく。
今は、仕官するかどうか、という話だったな。
「悪いですけど、俺、国に仕えるつもりはないですので」
答えとしては、まあこうなる。
そもそも、将軍とか近衛長とか言われても、いまいちピンと来ない。
この世界の住人にとっては、誰もが憧れる地位と栄誉なのかもしれないが、正直魅力を感じないというのが本音のところだ。
だいたい、国に仕えるようになったら、要はどれだけ偉くてもサラリーマンってことだ。
わざわざ自分から、束縛されに行く意味が分からない。
俺はそんなものよりも、自由がいい。
自由にティトたちと毎日だらだらイチャイチャしたい。
で、そんな俺の返答を聞いて、モブ王は最初から分かっていたというようにかぶりを振る。
「……じゃろうな。一応聞いては見たが、お主はそのような枠に収まるような器ではないじゃろう。英雄と呼ぶべき男の進む道がどのようなものか、いずれワシも、吟遊詩人の唄う詩として聞くことになろう。楽しみにしておるぞ」
……何かちょっと違う想像をされたようだ。
えー、やめてよ、そういう方向でプレッシャーかけてくるの……。
──まあ、それはともかく、そんな具合で表彰は終了した。
そうして、長かった俺の剣闘祭が、ようやく幕を閉じたのであった。




