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RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第五章 剣闘祭、あるいはセクハラ無双と奴隷の首輪
75/121

英雄

 さて、人類にとって大いなる脅威であった魔族、フェリルたんを倒した。

 倒し方がちょっとアレだった気もするが、気にしたら負けかと思う。


 それはいいとして、問題は……だ。

 俺は視線をあげ、闘技場の観客席を見渡す。


 観客席には、どうやらまだ動きはないようだった。

 群衆が、この事態にどう反応していいか、誰も彼も迷っているという状況なのだろう。


 ……まずいなー、嫌な予感がするなー。


 ネットか何かの記事で見たことがあるが、こういうとき群衆っていうのは、何か一つの方向性を与えられると、全体がそっちに傾くものらしい。

 だから例えば、誰かが俺に向かって、「女の敵! 死ね!」みたいな感じで石でも投げてくれば、観客席全体がそういう流れになりかねない。


 もしくはフェリルを見て、「キャー、魔族よ! 死ね!」みたいになって、フェリル目掛けて石が投げられても、それはそれで面倒くさいことになる。


 ……えーと、ちょっと整理してみよう。

 観客から見た今の状況は、多分こうだ。


 決勝戦で、めちゃくちゃ強い二人が戦う。

 どうなるんだろうとワクワクしていたら、二人が何か会話したかと思うと、一方の女のほうが木製の武器を捨てて氷の大剣──どう見ても人を殺せそうな武器を突然どこからか取り出した。


 まずここで、観客はポカーンである。


 剣闘祭というイベントは、あくまでも実力の競い合いであり、殺し合いではない。

 そこで真剣を持ち出すということのポカーンと、「一体あの剣どこから出てきたの?」という意味での二重のポカーンだ。


 と思ったら、相手の男の方も、木剣を捨てて、猫型ロボットのスペアポケットみたいな袋から真剣を取り出した。

 これまたポカーンである。


 で、ポカーンしている間に、戦闘が始まる。

 どう見ても殺し合い、という戦闘が始まったのを見て、審判がようやくそれを止めに入る。


 が、そこで女のほうが、審判を殺そうと魔法攻撃を放つ。

 でもその魔法攻撃が、バリアみたいなもので弾かれる。

 何度放っても弾かれる。


 それを見て、女が対戦相手を睨みつける。

 観客的にはここで、そのバリアを俺が仕掛けたものだと気付くだろう。


 人智を越えた領域の戦いには見えるんだろうが、少なくともこの段階で、「正義と悪」の構図がほぼ確立する。

 正義が俺で、悪がフェリルだ。


 なおここで、観客席と内部とで、一切の音声が遮断される。


 それからまた男と女がチャンバラし始める。


 ここで俺はフェリルたんに不覚にもセクハラ攻撃を仕掛けてしまうのだが、多分この辺は、観客からは「早すぎて見えない」ラインだと思う。

 何かお互いびゅんびゅん動き回ってるな、ぐらいにしか捉えられていないだろう。


 で、そうかと思ったら、女のほうが魔族の姿に変身した。

 その魔族の女を、俺が尻尾を握ってくっころ……じゃない、屈服させた。


 その後、何だか分からない首輪を嵌めたら、魔族の女が正義のヒーロー(=俺)に服従。

 そして今ココ、というわけだ。


 よし、だいたい見えた。


 っていうことは、だ。

 あとは「どうやったら観衆が満足するか」を考えて、実践してやればいい。


 俺は決闘結界デュエルフィールドの音声遮断効果を解き、観客席に向かって声を張り上げる。


「聞いてくれ! どうも選手の中に、魔族が混じっていたらしい。でも安心してくれ。こいつはもう──俺のペットになり下がった」


 俺はそう言って、地面に倒れたフェリルの背中を、靴の裏で踏みつけにする。


「ぐぅっ……よ、よくも……」


 憎々しげに睨みつけてくるフェリルたん可愛い。


 ……ごめんよフェリルたん。

 個人的な恨みはないんだが、これも演出の一環なんだ。


 そしてそうすると、俺の狙い通りに、観客席から一斉に歓声が沸き起こった。


 正義が悪を退治し、完全に屈服させた。

 観客が欲している構図は、間違いなくこれだろう。


 今この場に限り、英雄を演じる。

 性に合わないが、頑張って疲れた分はあとでティトに癒してもらおう。


 ああそうそう、定番として、これは言っておかないといけない。

 俺は肩をすくめつつ、一人つぶやく。


「やれやれ、あまり目立ちたくはないんだがな」


 ……いや、本心なんだけどね。


 にしても、これからどうなるんだろう。

 困ったけど、まあ、出たとこ勝負するしかないよなと思う俺なのであった。


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