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RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第五章 剣闘祭、あるいはセクハラ無双と奴隷の首輪
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少女の正体

 ──剣闘祭、決勝戦。

 ヴァイスとパグス、Sランク冒険者の二人が予選や準決勝で倒された今回の大会は、大番狂わせということになっているのだろう。


 しかし俺にとってみれば、俺の決勝進出自体は、驚くべき出来事ではない。

 ただ問題は、もう一人、規格外がいたということだ。


 俺は控え室から、闘技場のフィールドへと出て行く。

 盛大な歓声が湧く中、観客席の一角へと目を向ける。


 ティト、パメラ、アイヴィの三人が、観客席からこっちを見ていた。

 俺がちらっと手を振ると、三人とも思い思いに手を振り返してくる。


 ……うん、美少女たちの応援団って、いいものですね。

 ちなみに一名、少女と呼ぶには少々憚られる年齢の人もいるが、彼女にはパメラに手出しをしないよう厳重注意してある。


 まあともかく。

 彼女らの応援で、ちょっと気分が上がった。

 よーしパパ頑張っちゃうぞー。


 ──なんて思っていると、正面のもう一つの出入り口から、一人の少女が歩み出てきた。


 水色の髪をツインテールにした美少女。

 背には、身の丈ほどもあると思しき木の大剣を負っている。


 その水色の瞳は、冷たくまっすぐに俺を射抜いてくる。

 彼女の世界に引き込まれるような、そんな錯覚。


 お互い歩み寄った少女と俺とが、闘技場の中央で、十メートルほどの距離を置いて立ち止まり、対峙する。

 少女が、口を開く。


「──あなた、何者?」


 グラスを弾いたような涼やかな声。

 少女の第一声は、俺に対する誰何すいかの言葉だった。


 だがそれを聞きたいのは、お互い様だ。


「そっちこそ何者だよ。Sランク冒険者を瞬殺とか、ちょっと普通じゃないだろ」


「…………」


 ……だんまりか。

 まあ俺も話す気はないし、その辺もお互い様か。


 ──と、そう思ったのだが。


「……知りたい?」


 少女がそう言って、口元をスッとつり上がらせた。

 少しドキッとする。


「まあ……知りたいかと聞かれれば、知りたいな」


「……そう。あなた、『ステータス鑑定』のスキルは?」


「持ってるが」


「そう、よかった。じゃあ……あなただけ、あなたにだけ──『ステータス隠蔽』を解いて、私を見せてあげる。……さあ、どうぞ」


 そう言われた。

 何だ、何を企んでいる、この女──とか思ったのだけど、なんかエロい言い方されたから、見たくてしょうがなくなった。


 以前ティトから、ステータスを見るのはエッチだと言われたことがある。

 それを思い出すと、何だかとてもエロい気がしてくるから不思議だ。


 ──ごくり。


 俺は目の前の少女の、『ステータス隠蔽』を解いた無防備な体に対し、エロい気持ちで『ステータス鑑定』を試みた。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 名前:フェリル

 種族:魔族

 性別:女

 レベル:25


 HP:365

 MP:120


 STR:72

 VIT:73

 DEX:87

 AGL:91

 INT:59

 WIL:60


 スキル

 (UNKNOWN)


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 別段エロいことは何もなかった。

 しょぼーん。


 それはともかく──レベル25とな。

 なるほど、このステータスならヴァイスを凌駕しても無理はない。


 でも、スキルは見せてくれないのか。

 ちょっとそこにほのかなエロスを感じてしまうのだが、俺は一度エロスから離れたほうがいいと思った。


 ──それよりも。


 何だ、この種族の欄。

 「種族:魔族」って何ぞ?


 俺が疑問に思っていると、少女が俺に、薄い笑いを向けてくる。


「……見た?」


「『見た』って、この種族のことか?」


 俺がそう反応すると、少女は少し怪訝そうな表情を見せる。


「……そうよ。あまり驚いてないのね」


「あいにくと田舎者でね。魔族って言われても、ピンと来ないんだわ」


 観客席はざわついており、このやり取りは当事者以外には聞こえていないだろうという会話。


 ……にしても、魔族か。

 ゲームとかではよく聞くけど、この世界で聞いたのは多分初めて……だよな?


 それがこの世界においてどういうものか、よく分からない。

 この場にフィフィでもいれば、聞けば一発なんだろうけど、さすがに連れてきていないしな。


 一方少女は、あてが外れたというように、小さくため息をつく。


「……ふぅん。人間どもの危機感も、そこまで落ちるなら大したもの。……じゃあ、もっと端的に教えてあげる」


 少女は背から木の大剣を抜く。

 そして──今までで最もはっきりと、口元をつり上がらせた。

 獰猛な笑み。


「あなたがこの戦いで負けた瞬間より、私はこの場にいるすべての人間を殺しにかかるわ。──あらがってみなさい、人間」


「……は?」


 えっと、ごめん。

 展開が急すぎてついていけないんだが。


 だがそのとき──ゴォォオオオン。

 狙いすましたかのように、試合開始の銅鑼が鳴った。


 マジか……。

 しょうがないので俺も、木剣を構えて応戦を決める。


 ちらと観客席を見ると、ティト、パメラ、アイヴィの三人の姿が見えた。

 えっと、この魔族さんは今、この場のすべての人間を殺しにかかると言ったわけで……


 ってことは……やっぱり、あの三人もってことだよね?




 ──何言ってんだこいつ。




「……おい」


 俺が腹の底から絞り出した声に、飛びかかってこようとしていた少女がびくりと震え、慌てて後方へと大きく跳躍した。

 そして着地した先で、少女が困惑する。


「なっ……どうして私は、下がったの……?」


 その後退は、彼女の意思によるものではなく、身の危険を感じた本能が行なったもののようだった。


 俺はその少女に向け、一歩前へと踏み出す。

 少女は気圧されたようにまた後退しようとするが、どうにかその場に踏みとどまる。


 俺は少女に向け、言い放つ。


「人間とか魔族とか知らないけどな。俺んちの娘たちに手ぇ出そうとすんなら──容赦しねぇぞ」


 俺は木剣を一振りしてから、無造作に少女へと向かって行った。


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