準決勝
Dグループの予選は、特に何の変哲もなく、そこそこのやつ同士で戦って、そこそこのやつが勝ち残った。
そうして予選が終わると、昼食休憩を挟んだあとに、準決勝となった。
一人控え室にいた俺は、係の人の案内で、闘技場のグラウンドへと出て行く。
予選と違い、今回の対戦相手は、別の入口から現れることになっている。
俺が闘技場のフィールドに出て行くと、正面の別の出入り口から、筋骨隆々たる爺さんが現れた。
木製の大斧を、肩に担ぐように持っている。
この王都の冒険者ギルドのギルド長、パグスだ。
俺とパグス爺さんは、ともにフィールドの中央部あたりまで歩を進める。
そして十メートルほどの間を取って、対峙した。
「おう、小僧。──お前さんひょっとして、ものすごく強いんかの」
俺の予選を見ていたのだろう。
パグスは空いているほうの手で髭をしごきながら、そんなことを聞いてくる。
「まあ、そのつもりですが」
「はんっ、ほざきよるわ。──Cグループの予選は見とったか」
「ええ」
「あれに勝てるか?」
「実際にやってみないと何とも」
「まったく……世界は広いのぅ」
パグスはそう言って、木の斧を構えた。
そして試合開始の銅鑼が鳴ると同時、俺に向かって真っすぐに、巨体を唸らせ走ってきた。
「うぉおおおおおおおおっ!」
空気を揺らすような気迫の叫びとともに、大斧が振り下ろされる。
遅い。
俺は横にステップを踏み、振り下ろされた斧を難なくかわす。
「──無限狂乱斧じゃあああっ!」
パグスの斧はさらに、縦横無尽の連打を繰り出してきた。
だが、これも一撃一撃は遅く、たやすくかわせる。
俺は身を屈め、あるいは横に身を逸らせ、斧による連打をぶんぶんと空振りさせてゆく。
そして、その連続攻撃の五撃目を、斧の柄の部分を手でつかんで受け止めた。
「……ふんっ、バケモノめが」
パグスが吐き捨てるように言ってくる。
その腕が、斧の柄をつかんだ俺を押しつぶそうと、筋肉を膨れ上がらせる。
しかし──
「あんたみたいな、バケモノ爺さんにだけは言われたくないですよ」
この世界の筋力──STRの値は、筋肉の力だけで決まるわけではない。
パグスがいくら力を込めようと、斧の柄をつかんだ俺はびくともしない。
「ぐぬぅううううっ……小童が、これほどとはな」
それでパグスは、ふっと力を緩めた。
そして斧から手を放し、両手を上げた。
「降参じゃ。ワシじゃこの小僧には、逆立ちしても勝てんわ」
パグスがそう宣言すると、試合終了の銅鑼が鳴った。
歓声と湧きおこる。
しかし同時に、パグスに対する罵声がいくつか飛んできた。
「情けねーぞ!」とか「ギルド長やめちまえ!」とかいうヤジの類である。
そのヤジ、パグスの爺さんは甘んじてそれを受け入れていたが、俺はちょっとムカッとした。
なので観客席に向かって、声を上げる。
「おい、今パグスの爺さんにヤジ飛ばした奴、全員降りて来い。──お前らは『情けなくない』んだろ? まとめて相手してやるから、掛かって来いよ」
俺がそう言うと、飛び交っていたヤジは一瞬にして消え去った。
まったく……。
「……おぬし、妙なところで人情みたいなもんを見せるのぅ」
パグスが意外そうな顔で、俺を見ていた。
「いや、別に。俺がムカついただけなんで」
「はっはっは、そうかそうか! そういう所まで、ワシの若いころにそっくりじゃわい!」
バンバンと背中を叩かれた。
そう言われると、年取るとこの爺さんみたいになるようで嫌だった。
そうして、準決勝での俺とパグスの決着がついた。
そして一方のCグループとDグループの勝ち抜きで行なった準決勝はというと、当然のように例の少女が勝ち進んだ。
──いよいよ、決勝の舞台。
俺はこの段になって、「あれ、どうして俺は自らこんな目立つことやってるんだろう?」と首をひねるのだが、今更あとには退けないのであった。




