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RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第一章 異世界と冒険者生活、あるいは残念妖精と山盛りのチート能力
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はじめてのおしごと

「──ラッシュ鳥? って、今からラッシュ鳥討伐に行くのか?」


 街の入り口の門。

 ギルドでクエストを受けた俺が、ロリっ子門番……もとい、ドワーフ門番のリノットさんに声を掛けて外に出ようとすると、彼女はそう言って少し渋い顔をした。


「はい。……何か問題ありますかね?」


「いや、問題はないが……ラッシュ鳥討伐は、朝から夜まで出張っても、二、三体狩れるかどうかってあたりが相場だからな。今からだと、最悪一体も狩れないってこともありうるぞ?」


「そんなに強いんですか」


「いや、強くはないんだが……」


 見つけて、狩りに行くまでが大変なんだ、とリノットさんは続けた。

 ……ふむ、よくわからないが、とりあえずやってみるしかないな。


「まあ、一体でも狩れれば、今日の宿代と飯代ぐらいにはなるから、行くだけ行ってみな。夜の八時には門を閉めるから、それまでには戻って来いよ」


 そう言って送り出してくれるロリっ子門番に軽く頭を下げて、街を出る。


 冒険者ギルドの受付嬢の話では、ラッシュ鳥の主な棲息せいそく地帯は、街の西に広がる平原らしい。

 俺は街の門を出て左手、西側へと歩を進める。


 そもそもラッシュ鳥がどんな生き物なのかというと、どうも外見は、鶏を大きくしたような感じらしい。

 どのぐらい大きいかと聞けば、体長にして二倍かそこらだというので、まあ人間より大きいということもない。

 人間で例えるなら小学校低学年ぐらいの子ども、犬で例えるなら中型犬、というぐらいの大きさのようだ。


 ただラッシュ鳥には、近くに人間を見つけると猛烈な勢いで突進してくる、という性質があるらしい。

 まあ大きさ的にも、その突進に大した威力はないのだが、戦い慣れしていない旅人や商人などは、運悪く群れに襲われると、大怪我をしたり、最悪のケースでは命に関わることもあるのだとか。


 そんな理由と、その肉が食肉としてなかなか美味であるという理由もあり、新米冒険者への討伐・捕獲依頼が、わりと頻繁に出されているらしかった。




 しかし、実際に西の平原に向かってみると、リノットさんが言っていたことの意味が分かった。


「だだっ広い……」


「だだっ広いっすね……」


 俺と、俺の服の中から外に出てふよふよ浮いているフィフィが、平原を見渡して途方に暮れていた。


 視界には、なだらかな起伏があるだけの、一面の草原が広がっていた。

 遠くの方には山や森が見え、後ろを振り返れば、これまた遠くの方に小さく、外壁に囲まれた街の姿が見える。

 街を出てここまで三十分ほど歩いたから、街までの距離は二キロかそこらだろうか。


「このだだっ広い中から、ちょっとでかい鶏を見つけて、倒して持ち帰れと……」


 なるほど、一日がかりで二、三体が相場という話になるわけだ。


 よく晴れた空を見上げると、そろそろ日が沈んできたなーという頃。

 もう一時間もすれば夕焼け空に変わりそうだから、今は午後三時過ぎとか、そのぐらいだろう。


「あ、あっちのアレ、違うっすかね?」


 フィフィが指さして、一方の方角を示す。

 俺は目を凝らしてそっちを見てみるが──


「あー、アレか? あの小っちゃく見えるやつ」


「違うっすかね?」


「……いや、分からん」


 ん、無理。

 ラッシュ鳥の姿を描いた絵は、冒険者ギルドで見せてもらったが、そういう問題じゃない。

 一メートル先の米粒みたいな大きさのものを見て、「あれは何の動物でしょう?」と聞かれているようなもんだ。


 確認のために近づいてみてもいいが……十分歩いて近付いてみてやっぱり違いました、とかいうのもショックが大きいしな。


 んー……しょうがない、アレ行っとくか。

 汎用性は微妙な気もするが、取って損をするというほどでもないだろ。


 俺はステータスを開き、「ホークアイ」というスキルを選択、取得する。

 チートポイントを1ポイント消費。


「──お、フィフィ、正解。あれラッシュ鳥だ」


 ホークアイは、言わば双眼鏡のようなスキルだ。

 スキルをオンにすると、百倍の倍率で、遠くのものがハッキリと視認できるようになる。


 しかし、もう一つ課題がある。

 見つけたラッシュ鳥までの距離が遠い。


 遠すぎて距離がよく分からないが、ざっくり数百メートルから一キロぐらいはある気がする。

 あそこまで歩くと、十分ぐらいかかりそうで、正直かったるい。


 さて、ここでまたスキルを切るというのも一つの手なのだが……うーん、ここは一つ、地力を試してみるか。


「フィフィ、走るから、服の中入って」


 準備体操をしながら、フィフィに声をかける。


「あ、ご主人様がやる気っす」


 フィフィは例によって、俺の胸元にもぐり込んだ。

 俺はフィフィが服にしっかり捕まったのを確認して、よーいドンで走った。


 一、二、三、四……頭の中で秒を数えながら、全力疾走。


 速い──気がする。

 地面を一蹴りするごとにぐいぐい速度が上がるし、足の回転速度そのものも、忍者か、とセルフ突っ込みしたくなるような速さだ。

 擬音で言えば、しゅたたたたた、である。


 結果、遠くに米粒のようにしか見えなかったラッシュ鳥がぐんぐん近付く。


 すぐ近くまで来たところで、ずささーっと急ブレーキ。

 数メートルに渡って足元の草がえぐれ、茶色い土肌が露出した。


 そこまでに数えた秒数は、ざっと二十だった。


 なお、それだけ全力疾走したというのにほとんど息切れもしていない。

 これはVITを上げた効果によるものだろうか。


「コケーッ!」


 ラッシュ鳥の頭上に、ピコン、とびっくりマークが点灯した気がした。

 こっちの姿を認めて、ドドドドドっと突進してくる。

 彼我の距離は、十メートルぐらい。


 ──が。


「お、遅い……」


 思わずつぶやいてしまうぐらい、その突進してくる速度は、遅く感じられた。


 いや、冷静に見れば、絶対速度はそこそこ速いという気もする。

 全速で駆け寄ってくる犬、というぐらいの速さはあるかもしれない。


 しかし体感速度は、なんかものすごく遅かった。

 こんな突進、よそ見でもしてなけりゃ、どうやったって当たらんだろうという感じ。


 剣を抜くのもアホらしくなって、俺は目の前まで来たラッシュ鳥を、グーで殴った。

 ラッシュ鳥の横っ腹に直撃。

 ラッシュ鳥は三メートルぐらい吹っ飛び、放物線を描いて地面に落下、そのまま動かなくなった。


 ラッシュ鳥を倒した!


 バトル?

 何それ、おいしいの?

 そんな結果だった。


「圧倒的な勝利とは、空しいものだな……」


「そのどーでもいい言葉も、美少年が言うと、なまじ絵になるからやめてほしいっす」


 胸元からフィフィのツッコミ。

 さいですか。


 ともあれ、俺は冒険者ギルドで受け取っていた、サンタクロースが持っているようなずだ袋に、ラッシュ鳥を詰め込む。

 口のひもをきゅっと結んで、それを背負う。


 ──さて、これで一体は確保した。

 次行ってみよう。


 俺はホークアイを起動して、辺りを見渡す。


 ……んー……ざっと見、見当たらないな。

 平原と言っても、地味に起伏があるから、完全に全方位の全距離、まるっと見えるわけでもない。


「それなら──」


 俺はさらに、飛行能力も発動させて、上空に浮かんでみた。

 地上十メートルぐらいまで浮かび上がると、だいぶ見晴らしが良くなった。


 が、必然的に下を見ることになって、ちょっとゾクッとする。

 建物の三階から下を見るぐらいのものだが、足場が何もないと、どうにも寒気がする。

 怖いよー。


 まあそれは我慢して、ラッシュ鳥は、と──あ、いたいた。

 お、あっちにもいる。

 向こうには三体、群れでいるぞ。


 飛行能力とホークアイを掛け算したら、入れ食い状態でラッシュ鳥が見つかった。

 遠くまで見渡せば、ざっと数十体が視界に入った。




 ──ん、とりあえずしばらくの間、飯のタネには困らなさそうだな。


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