バトルロイヤルですよね?
「おいおい──これ、バトルロイヤルだろ」
俺は周囲を見渡して、苦笑する。
試合開始と同時に、六人の男たちが俺の周囲を取り囲んだ。
バトルロイヤルのはずが、完全に六対一という様相だった。
「はっ、なぁに、安心しろや。テメェを全員でボコって潰してから、あらためてバトルロイヤルは始めるからよ」
モヒカンヘッドが答える。
モヒカンは木製の巨大な棍棒を肩に担ぎ、悠然と俺を見下ろしていた。
ほかの男たちも、それぞれ木剣や、槍代わりの木製の六尺棒など、思い思いの木造の武器を手にしている。
それらは大会側から支給された武器で、俺も今は木剣を手にしていた。
……うーん、しかし何だな。
こう俺だけ悪者扱いされると、本当に悪役を演じたくなってくるな。
うずうず。
いいか、やっちゃうか。
「へぇ、そうか──ってことは、六人掛かりなら俺に勝てると、あんたらはそう思ってるわけだ」
「……ああ?」
俺の思い切った挑発に、モヒカンはじめ周囲の男たちが色めき立つ。
俺の背後にいたスキンヘッドの男が声を上げる。
「……おいおい兄ちゃん、俺たちをその辺のチンピラか何かと勘違いしてんじゃねぇのか? ここにいるのは全員、Bランク以上の冒険者だぜ」
そう言って、六尺棒をこれまた肩に担いで、へらへらと俺を見下ろすスキンヘッド。
……いや、見た目はどうにも、その辺のチンピラにしか見えないんだけどな。
俺はステータス鑑定のスキルを発動して、周囲の男たちのレベルを見て回る。
すると、そいつらのレベルが、軒並み7~10程度であることが分かった。
確か、アイヴィやターニャのレベルが11だったから、確かに粒揃いではある。
あのどう見てもザコっぽいモヒカンヘッドでも、8レベルある。
人は見た目によらないもんだな。
だが──
「いや、勘違いなんかしてないさ。ただ、その上で言ってんだよ──俺にとってお前らは、その辺のチンピラと変わらないザコだってな」
そう言って、ニヤリと笑ってやる。
やばっ、悪役プレイ超楽しい。
クセになりそう。
しかし男たちはあきれた様子で、俺をあざ笑った。
「……はっ、ダメだこりゃ。おいお前ら、このガキには、現実ってものを思い知らせてやらなきゃ、分からねぇみてぇだ」
「そうみてぇだな」
そう言ってどっと笑う男たち。
……あ、いかん、ちょっと自信がなくなってきたぞ。
ホント俺勝てるのかな、こいつらに。
数字上は大丈夫だと思うんだが……。
うーん、よくないな。
とりあえず、強そうなこと言って自分を奮い立たせよう。
「御託はもういいから、そろそろ掛かって来いよ。俺さ、こんなのさっさと終わらせて、早く観客席に戻ってまたイチャイチャしたいんだよ。──それともアレか、お前ら全員、本当に口だけのチンピラか?」
その俺の挑発は、主に真ん中に挟んだ言葉が効果的だったらしい。
ビキビキと額に青筋を浮かべた男たちが、一斉に雄たけびを上げた。
「おいお前らぁ! こいつぶっ殺すぞ! 半殺しだ! 二度とイチャイチャできない体にしてやれ!」
「おぉぉおおおっ!」
男たちの息は、なぜだかピッタリだった。
俺を取り囲んだ男たちが六人全員、同時に俺に向かってくる。
だが──
それは、スローモーションだった。
男たちの一歩が、戦闘モードに入った俺の体感では、二秒ぐらいに感じる。
あ、良かった。
やっぱり雑魚じゃんこいつら。
俺は、ぱぱぱっと走って回り、全員の首筋に背後から手刀を入れてゆく。
万一に殺してしまわないように、攻撃制御のスキルを乗せるのを忘れない。
俺が緊張を解くと、体感時間が正常に流れ始めた。
「がっ……!」
「ぐはっ……!」
男たちが全員、バタバタと倒れて行く。
そうして、フィールドに立って残ったのは、俺だけになった。
沸いていた闘技場が、一気にしんと静まり返った。
そのとき俺は、はたと気付く。
「あ、しまった……これじゃ木剣の意味ないじゃん」
俺のつぶやきと同時に、試合終了の銅鑼が鳴った。
割れんばかりの歓声が巻き起こった。




