恨まれるようなことをした覚えはあった
しばらくするとパグスの爺さんが戻ってきた。
そしてそのあとに、六人の男たちがばたんきゅーした状態で、担架に乗せられ運ばれていった。
「いやぁ、歳は取りたくないもんじゃわい。体が思うように動かんわ」
そう言いながら戻ってきたパグスはまったくの無傷で、ごきんごきんと首を鳴らしていた。
Aグループでは、やはりというか、パグスが勝ったらしい。
そして次に、Bグループが呼び出された。
俺は準備運動を終えて、フィフィを胸元から取り出す。
「ご主人様、ファイトっす! うち、ご主人様が優勝するほうに天界プリン一年分賭けたんすから、絶対負けちゃダメっすよ!」
「バカな。俺の日常が、いつの間にか賭けの対象になっていただと……?」
フィフィが所属する天界という場所は、そんなアレなところなんだろうか。
どうやら女神通販センターには、一度苦情を言いに行かないといけないらしい。
さておき、そうこうしているうちに、俺と同じBグループと思しき男たちが、薄暗い控え室から両開きの大きな扉をくぐって、まぶしい光の向こうへと消えてゆく。
俺もそれに倣い、控え室に残るフィフィに手を振って、その狭く薄暗い雑魚部屋を出て行った。
──グラウンドに出て行くと、観衆から割れんばかりの歓声が降ってきた。
周囲を見上げれば、すり鉢状になった観客席から、たくさんの観客がこちらを見下ろしているのが見えた。
……こうして見ると、すごい人数だな。
軽く二千人……いや三千人ぐらいは収容しているように見える。
えっと、ティトたちは……あ、いたいた。
俺は観客席の一角に、三人の少女たちが陣取っている場所を見つけた。
パメラが立ち上がって両手を振り、ティトは座ったまま緊張の面持ちでこっちを見ている。
アイヴィはと言うと、パメラの背後に立ってその少女を捕獲するように腕を回しつつ、俺のほうににこにこと笑顔を向けていた。
……状況がよく分からんが、パメラは大丈夫だろうか。
蜘蛛に捕食される直前の昆虫のようにしか見えないんだが……。
まあいい、今は自分のことだ。
俺は三人に手を振りつつ、自分の周囲に立つBグループの男たちへと目を向けた。
すると、ある事実に気付いた。
俺以外の六人の男たちが全員、俺の方を憎々しげに睨みつけているのだ。
……あれ、何だこれ?
俺、こいつらの恨みを買うようなこと、したことあったっけ……?
そう疑問に思っていると、男たちのうちの一人、モヒカンヘッドの大柄の男が俺のもとに歩み寄ってきた。
そして俺の目の前に立つと、俺を指さして見下ろし、こう言ってきた。
「よう兄ちゃん、よくこの場に来れたな。だが五体満足で無事に帰れると思うなよ? ここにいる全員、お前に日頃の恨みをぶつけたくてしょうがねぇんだ。腕の一本や二本は、覚悟してもらうぜぇ?」
「いや、あの……俺、あんたたちに、何かしましたっけ?」
日頃の恨みと言われても、心当たりがないのだが。
そう思っていると、目の前のモヒカンヘッドは額に青筋を浮かべ、憎しみのこもった目で俺を見下ろしてきた。
「何かしましたっけ……だと? テメェ……あれだけ毎日毎日ギルドで可愛い女の子たちとイチャイチャイチャイチャ見せつけやがって、ふざけんじゃねーぞ!?」
激怒の声だった。
モヒカンヘッドは、涙を流していた。
ほかの男たちも、うんうんと、しきりにうなずいている。
……あー、えっと。
なるほど、左様でございましたか。
確かにここ数日、ギルドでもどこでも所構わずに、ティトたちとイチャイチャしていた気がしないでもない。
周りの冒険者たちなんて、風景ぐらいにしか思っていなかったので、完全に頭から抜けていたが……。
「あー、わりぃ、見せつけるつもりはなかったんだ。ただほら、そのときの気分でイチャイチャしたくなることとか、あるだろ?」
俺がそう正直に白状すると、目の前のモヒカンさんの額の青筋がパワーアップした。
周囲の男たちからも、ビキッ、ビキビキッという血管の浮かび上がる擬音が、聞こえてくるような来ないような。
えっと……何だかわからないが、火に油を注いでしまった模様?
「い、いいぜぇ……今日は合法的に、テメェをボッコボコに叩きのめせる日だ……俺たちの怒りと悲しみの大きさ、思い知れぇっ!!」
モヒカンヘッドさんがそう言ったちょうどそのとき、試合開始の銅鑼が鳴った。
……え、こんなノリでいいの、この大会?




