観客席でイチャつくのはどうかと思います
剣闘祭当日。
王都のメインストリートには出店や屋台が立ち並び、いかにも祭りらしい雰囲気と喧騒が街じゅうを覆っていた。
しかし祭りと言っても、メインの出し物は神輿でも、踊りの行列でもない。
王都のメインストリートを少し外れたところのとある一角には、円形の闘技場が設えられている。
俺たちは今、その闘技場に来ていた。
ちなみに「俺たち」というのはもちろん、俺とティト、パメラ、アイヴィの四人のことである。
なお闘技場は、ざっくり言ってプロ野球の球場のような構造だった。
中央部にグラウンドがあって、その周囲にすり鉢状に観客席がある。
俺たちが今いるのは、その観客席の一角だ。
「なぁ、ダーリンって選手として出場するんだろ。ここにいていいの?」
俺の隣に座ったパメラが、出店で買ってきた焼き鳥をかじりながら聞いてきた。
確かにそろそろ準備しないといけない時間だった。
それはそうと、パメラの持っている串がおいしそうだったので、俺は首を伸ばしてそれにパクッとかぶりつく。
「あーっ! ダーリン何すんだよ! あたしのー!」
「もぐもぐ……うまいな」
「うまいなじゃねーし! じゃあダーリンの持ってるオーク豚の串焼き、あたしももらうぞ!」
「あっ、こら!」
「もぐもぐ……うまひ」
俺が持っていた豚串の、四つ刺さっていた肉のうち、三つをいっぺんに持って行かれた。
くそっ、パメラのやつ、やってくれる……
そうしてパメラといがみ合っていたら、逆側からくいっくいっと、ティトに袖を引っ張られた。
「カイルさん、私とも、食べさせ合いっこ……」
拗ねたような上目遣いでそう言ってくるティトに、俺のハートはがっちりつかまれた。
むしろティトを食べてしまいたかった──いや、そうじゃなくて。
俺は残っていたオーク豚の串焼きの最後の一切れと、ティトの持っているイカ焼きとで、お互いにあーんで食べさせ合う遊びをする。
リア充だけに許される、高度で至高な遊戯であった。
「うん、うまい」
「えへへ……おいひいです」
にこにこしながら肉を頬張るティト。
やっぱりティトを食べちゃいたいと思うけど、どうにか我慢。
すると今度は、俺の背後の席にいたアイヴィが、何やら身を乗り出してきた。
「ね、ねぇカイル、ボクもそれ、やりたいなー、なんて……」
身を乗り出しながら、もじもじしている。
器用だなおい。
「いや悪いけど、俺の豚串、今ティトが食べたのでラストだわ」
「がーん!」
「パメラが三つ食ったのが悪い。文句ならパメラに言ってくれ」
「うううっ……こうなったら、パメラちゃんから口移しでもらうしか──」
「うわっ、ちょっ、アホかお前! やっ、やめろっ……!」
横でパメラとアイヴィが格闘を始めた。
アイヴィが少し優勢で、パメラが徐々に押し倒されてゆく。
頑張れパメラ。
骨は拾ってやる。
俺は隣のバトルを無視し、何となく寄りかかってくるティトの肩を抱きながら、闘技場のフィールドのほうを眺める。
……幸せだなぁ。
もう剣闘祭なんて、出場しなくてもいいんじゃないかな。
きょうはここでずっと観戦していたほうが、よっぽど充実してる気が──
なんて思っていたら、視界の上から蜘蛛の糸を伝うように、ジト目の妖精がすーっと下りてきた。
「最近のご主人様はどーしてそう、ちょっと目を離すとイチャコライチャコラしだすっすかねぇ」
フィフィだった。
俺の目の前の空中で、あぐらをかくような姿勢でふよふよと静止する。
俺はそのフィフィの姿を見て、率直な感想を述べた。
「フィフィはもうちょっと、妖精の愛らしさというものをキープする努力をすべきだと思う」
「う、うるさいっす! 怠惰の権化であるご主人様にまで、努力とか言われたくないっす!」
反応がガチだった。
結構気にしていたようだ。
「怠惰とは失礼な。ここ一週間は、毎日ずっーと魔獣の森でバトルして、レベル上げをしていただろうが」
「そ、それはそうっすけど……あれ、ひょっとしてうち、ご主人様より怠け者ってことっすか? ……そんな、ありえないっす……」
フィフィはひどくショックを受けたようだった。
Σ(゜д゜ノ;)ノ ←こんな顔になったまま、空中で硬直している。
俺はひとまず、その妖精を引っつかんで胸元にしまった。
「さて──まあ、この一週間を無駄にするのも嫌だし……名残惜しいけど、行くとするかな」
俺は抱いていたティトの肩をそっと離し、ゆっくりと立ち上がる。
「あ、あのっ、カイルさん……!」
そうして選手控え室に向かおうとした俺を、ティトが呼び止めた。
何かと思って振り向くと、ティトが顔を真っ赤にして視線を泳がせ、もじもじとしていた。
「あの、カイルさん……もう一度ちょっとだけ、しゃがんでもらってもいいですか……?」
「ん……? いいけど」
俺はティトに言われるままに、ティトの前にしゃがみ込む。
するとティトは、座ったまま少し背伸びをして、俺のほっぺたに──ちゅっ。
キスをしてきた。
「……い、行ってらっしゃいのキスです。あの、えっと……信じてます」
ティトはそう言って、再びちょこんと自分の席に座った。
うちの彼女は最高だった。
これが家だったら、確実に悩殺されて一直線だった。
この場にあっても、一瞬周囲が見えなくなった。
マジヤバである。
「──ああ、行ってくる。余裕で勝ってくるから、安心して見てろ」
俺は内心最高潮にドキドキしながら、できるだけカッコつけてその場を立ち去った。
取っ組み合ったアイヴィとパメラが動きを止め、ぽかーんとしながら俺を見送っていた。
また長期で更新滞ってしまって申しわけないです。
ちょっとシリアス成分が補充したくなったので、これの更新サボってシリアス系のファンタジー短編作品書いてました。
「シリアスも嫌いじゃないよ」という方は、よろしければこちらもどうぞご覧になってくださいませませ。m(_ _)m
『少年魔術師は男の娘!? いいえ、真面目な冒険ファンタジーです。』
http://ncode.syosetu.com/n8489dj/
この作品も、休んだ分だけいいネタが浮かんだので、自信を持って剣闘祭編をお送りいたします!




