表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第四章 王都と海と魔導船、あるいは巨大蛸と女剣士の相性について
61/121

海上戦闘

 最初に飛んできた水飛沫しぶきは、ちょっとしたあいさつのようなものだった。

 少し間を置いて、どしゃぶりの雨のような海水が、魔導船の甲板全体を含んだ範囲に降り注いだ。


 ジャイアントオクトパスが海上に浮上したせいで空に舞った大量の海水が、時間差で落ちてきたのだ。

 どしゃぶりはすぐにやんだが、俺とアイヴィはずぶ濡れになった。


 海上に出現したジャイアントオクトパスは、俺たちの船に向かってゆっくりと近付いてくる。

 魔導船の先端部とジャイアントオクトパスとの距離は、その船体一個分ほど──およそ十五メートルというところまで近付いていた。


「やつの触手は十メートルぐらいあるよ! もうすぐ射程圏内に入る!」


 双剣を構えたアイヴィが、注意深く周囲に視線を走らせながら叫ぶ。

 そうか、本体があそこにあっても、海中にある脚──触手は、全然別の方向から攻撃してくるかもしれないんだな。


 まあでも、いずれにせよ、初手はアレかな。


「アイヴィ、ちと魔法かけるから、抵抗レジストすんなよ」


「え、あ、うん、いいよ」


 アイヴィに魔法の受け入れを要求する。

 一部の魔法は、対象者に抵抗レジストされると、効果を発揮できないことがあるらしい。

 俺のINTなら、仮にアイヴィに抵抗されてもごり押しで効果を発揮できるだろうとは思うが、まあ念のためだ。


 使う魔法は、この船出を決めた段階であらかじめ取得しておいた、水魔法2レベルで使えるようになる、ちょっとした地味魔法だ。


「──ウォーターウォーキング!」


 脳内選択肢から使う魔法をチョイスし、発動。

 すると、俺とアイヴィの体の周りに、それぞれ淡く光る魔法のオーラのようなものがまとわりつき、そのオーラが各自の体に吸い込まれるように消えてゆく。


「え、これ、何の魔法使ったの?」


 アイヴィが不思議そうに、自分の体へと視線を走らせる。

 俺はそのアイヴィに無造作に近付き、彼女の足をひょっと引っ掛けた。


「うわっ!」


 俺が足を引っ掛けたせいで、後ろに倒れそうになったアイヴィを、両腕でキャッチ。

 膝の後ろと、首の後ろに腕を通した形で、お姫様抱っこを敢行する。


「……えっ、何してんの、カイル……?」


「説明するより、自分で経験してみたほうが早いだろ」


「えっ、なに、なに──うわあああああああっ!」


 そして俺はアイヴィを抱えた姿勢のまま、甲板のヘリまで走って、ジャンプした。

 要するに、海に向かって飛び込んだ。


 そして俺は、海の水面上に着地する。

 水面のぶよんとした感触は、ウォーターベッドのようだった。


「んっ……って、あれ……?」


 水の中に飛び込むものと思って目をつぶったアイヴィは、思っていたのと異なる状況に困惑していた。

 俺は彼女の体を、波間の上にそっと横たえる。


「うわっ、な、何これ? うそ、ボク水の上に寝てる……?」


「武器は手放すなよ。沈むからな」


「う、うん……。うわぁ、不思議……」


 アイヴィは海面の上で慎重に立ち上がる。

 揺れる波の上で、どうにかバランスを取ってみせるあたりは、さすがの運動神経だ。


 水面歩行ウォーターウォーキングは、見ての通り、水の上を歩けるようになる魔法だ。

 右の足が沈む前に左の足を出す、とかいうけったいな事をする必要もない。


 ちなみに、この魔法の効果に関しては、船出した後に誰も見ていないタイミングでこっそり実験して、確認していたりする。

 ぶっつけ本番で、お姫様抱っこダイビングするほどの勇気は、俺にはないのである。


 なお、余談。

 この魔法を水中にいる生き物にかけると、対象は水面上まで一気に浮上するらしい。

 そう考えると、浮力が異常に高くなる魔法というのが、一番しっくりくるかもしれないな。


「アイヴィはウォーターウォーキングの魔法、体験したことなかったか?」


「うん、実際に経験するのは初めて。そっか、話には聞いてたけど、これがそうなんだ」


「おう。──って、アイヴィ!」


「……へっ? きゃあっ!」


 俺は海の上で、アイヴィの手をぐいと引っ張って、その体を自分のほうへと引き寄せる。

 俺がアイヴィの体を抱きとめると同時に、水面下から巨大タコの太い触手が飛び出し、アイヴィが直前までいた空間をぶんとなぎ払った。


「ふええっ……あ、ありがとう。でも、もうボク駄目かも……。なんかカイルの前では、可愛いヒロインになっちゃう……」


「……可愛いって、自分で言うか?」


「あ、い、いや、そういう意味じゃなくて! 自分が剣士であることを忘れて、なんか守られて当たり前みたいになっちゃうっていう」


「ま、俺は別にそれでもいいけどな」


 俺は左腕でアイヴィを抱いたまま、右手で魔剣を振るい、周囲から襲い掛かってくる触手の群れを、次々と切り捨ててゆく。

 切り捨てられた触手の先端が、ざぶん、ざぶんと海に沈んでゆく。


 俺の腕の中のアイヴィはしかし、ぷるぷるとと首を横に振る。


「ううん、それじゃボク自身が、耐えられないかも……。ティトちゃんやパメラちゃんみたいに、可愛くはないんだもん。せめて剣でぐらいは、カイルの役に立ちたい」


 アイヴィはそう言って、俺の腕の中から抜け出してゆく。

 その両手に魔力を宿した双剣を握り、波で揺れる水面に立ち、ジャイアントオクトパスの本体を見上げる。


 ……いや、そう卑下ひげするほど、可愛くなくもないと思うけどな。

 ていうか、自分で三枚目になりに行こうとしなければ、十分美人のお姉さんで通るのになぁ。


 まあ、それはさておき。


 実際にやってみた感じ、大した敵でもなさそうだし、二人掛かりでさっさと倒しちまうか。

 海水で全身ずぶ濡れのべたべただし、早いトコ帰って洗い流したいしな。


 ──なんて、思っていたのだが。


「あっ、カイル、あれ……!」


 アイヴィが言って、左の剣の先で、目の前のジャイアントオクトパスがいるのとは別の方角を示す。


 魔導船の進行方向から見て、左前方という方角の水面。

 それが盛り上がり、海中から何か巨大なものが出現しようとしていた。


 ……いや、何かって言っても、まあ予想通りのものなんだが。

 要集中の生命感知は切ってたから、接近に気付けなかったか。


 再びどしゃぶりの雨を降らせて登場したのは、もう一体のジャイアントオクトパスだった。

 そしてそれは、海上に姿を現したかと思うと、そのまま魔導船に向かって接近してくる。


 二体同時は、ちっと厄介だな……。

 しょうがない、分担するか。


「──アイヴィ! 目の前の一体、一人でやれるか?」


「うん、やってみる!」


 そう答えたアイヴィに目の前の一体を任せ、俺は新たに出現したもう一体のジャイアントオクトパスを迎え撃つべく、水の上を走り出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ