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RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第四章 王都と海と魔導船、あるいは巨大蛸と女剣士の相性について
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海は大きい(小並感)

 潮風の吹きつける、甲板の上。

 俺は船の中央にそびえたつ帆柱に手をかけ、はるか彼方の水平線を眺めていた。


 後ろを振り返れば、海の向こう側に、もうだいぶ小さくなった王都の街並みと、その周囲に広がる陸地が見える。

 航海に出てからまだ数分だと思うが、魔導船は順調に、海の上を進んでいた。


「いやホント、海ってでっかいなー」


 頭上から声が聞こえてくる。

 俺に肩車で乗っかっている、パメラの声だ。


「お前、さっきからずっと海見てるけど、よく飽きないよな」


「えー、だって、生まれて初めて見るんだぜ。さっき港で見たときもすげぇと思ったけど、この海の真ん中で見る海ってさ、また全然違うし。──ダーリンは、海見るの初めてじゃねぇの?」


 頭上のパメラからそう聞かれ、少し考え込む。

 海なんて、子どもの頃に海水浴に行ったり、テレビで見たりしているから珍しいものではないけど、大人になってからはほとんど行ってなかったなと思う。


「この世界では、初めてだな」


 つい感傷に浸って、そんなことを口走ってしまう。

 パメラだし、どうせ意味なんて分からないだろうと、高をくくった。


「……? 『この世界では』って、どういうこと?」


 しかし頭上のパメラは、意外と食いついてきた。

 そして、広い海の解放感が、俺の口をさらに軽くしていた。


「俺が実は、ここじゃない別の世界から来た人間だって言ったら……パメラ、信じるか?」


 俺がそう言うと、少しの沈黙が訪れた。

 それからパメラが、口を開く。


「ダーリン、ちょっと下ろして」


「おう」


 俺は肩車していたパメラを、甲板に下ろす。

 降り立ったパメラは、少しだけよろけてから、俺のほうへと振り向いて言う。


「あのさ、ダーリン。そんなの、信じるとか信じないとか、どっちでもよくね? どこから来ていようが、ダーリンはダーリンだし。今あたしの前にいるダーリンが、あたしのダーリンだよ」


「……そっか」


 パメラの言い分は、分かるような分からないようなものだった。

 ただ俺は、バカなことを聞いたなと自嘲じちょうしただけだった。


 そのとき、甲板の跳ね上げ戸が開き、アイヴィが首から上だけをひょっこりと出してきた。


「ねぇカイル、ジャイアントオクトパスがよく出るっていう海域、そろそろじゃない?」


「お、もうそんな頃合いか」


 階段を上がり切って甲板へと出てきたアイヴィと入れ替わりで、パメラを船室へと下ろす。

 跳ね上げ戸が閉じられ、甲板の上には、俺とアイヴィの二人だけになった。

 ジャイアントオクトパス相手だと、パメラの実力じゃちょっと危ないからな。


 この世界のモンスターには、モンスターの格を表す「モンスターランク」という指標が定められている。

 モンスターランクは冒険者ランクと同じくアルファベットで示され、一般に、同ランクの冒険者と互角程度の実力を持つと言われている。


 例えば、ラッシュ鳥のモンスターランクはHランクで、冒険者になりたてのFランク冒険者より、二ランク格下とされている。

 同様に、ジャイアントアントはEランクだし、ジャイアントスラッグはG+ランク……つまり、Gランクよりは上だがFランクよりは下という微妙な格付けがされている。


 そして、ジャイアントオクトパスのモンスターランクは「B+ランク」だ。

 つまり、Aランク冒険者のアイヴィならば互角以上に戦える相手ということになるが──これは戦場の有利不利などは加味していない、モンスターの純粋な実力で格付けしたものだ。

 ジャイアントオクトパスは、海上での戦闘という不利も加味すれば、アイヴィ級の冒険者でも不覚を取りかねない相手と言えた。


 まして、多少レベルが上がったとは言っても、パメラは元々Dランクの冒険者である。

 いまの実力ならCランクぐらいの強さはあるかもしれないが、だとしても、できればジャイアントオクトパスの前に出すのは控えたいところだ。


 同様の理由で、ティトには船の操縦手を担当してもらっている。

 パメラより1レベル高いとはいえ、メイジだけに耐久力は低いから、やはりなるべく、敵の攻撃が降り注ぐであろう甲板に身をさらしてほしくはなかった。


「何ならアイヴィも、船室の中に隠れてるか? 多分俺一人で何とかなると思うけど」


「よしてよ。カイルには敵わないとしたって、ボクにだって『赤の剣士』だとか呼ばれたなりの矜持きょうじはあるの。これ以上、無様はさらしたくないよ」


 一方のアイヴィは、こんな具合だ。

 そういうことなら、一緒に戦ってもらおう。


 さて、あとは──


「なあフィフィ、この大砲って、どうやって使うんだ?」


 俺は甲板の前のほうに一門備え付けられている大砲まで歩き、胸元のフィフィに問いかける。

 ちなみにフィフィは、この世界での実体は仮の姿で、モンスターに攻撃されて死ぬとか何とか、そういうことは原理的にありえないらしい。


「これはっすね、あらかじめ魔力を注ぎ込んでおいて、撃つときになったら照準をして、このひもを引っ張ればドーン!っす。魔力のチャージには時間かかるから、連発はできないっすけどね。ちなみに威力と射程は、魔力を込めた人のINTに依存するっすよ」


 フィフィは俺の胸元から飛び出して行って、大砲のお尻から出ている紐を指さす。

 なるほどな、あらかじめ魔力を装填そうてんしておくタイプの、魔力砲台か。


 俺はとりあえず、砲台に魔力を注いでおくことにした。

 目標が出てくるまで暇だし、使えるようにしておけば何かしら役には立つだろう。




 そうして、海の上で船を進めながら待つこと、さらに数分。

 俺は「生命感知」レーダーでジャイアントオクトパスの存在を補足しようとしていたのだが、ついにそれがヒットした。


 今の生命感知スキルによるサーチ可能範囲は、ざっくり三百メートル弱といったところ。

 洞窟などでは絶大な力を発揮するが、この大海原で使うには、三百メートル弱というのは少々心もとないサーチ範囲ではある。


 しかしそれでも、何もないよりは百倍マシだ。

 現に見つけたしな。


 生命感知レーダーが捕捉した敵影は、斜め前方の海中から、高速でこっちに近付いてくる。


「アイヴィ、来るぞ」


「えっ? ど、どこから?」


 俺の忠告に、アイヴィは腰から双剣を慌てて引き抜き、構えながら周囲をきょろきょろする。


 そうしていると、船の進行方向から右斜め前方、二十メートルほどの海面が、ずももももっと盛り上がり──


 そして、水飛沫しぶきを派手に──それこそ、その距離から俺のところまで届くほどにまき散らしながら、見上げるような大きさの巨大なタコが、海面上に姿を現したのだった。


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