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RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第一章 異世界と冒険者生活、あるいは残念妖精と山盛りのチート能力
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哀れなる受付嬢

 フィフィは食事を終えると、再び俺の服の中へともぐり込んだ。

 それから俺は、路地を出て大通りへと戻り、その通りを進んで行く。


 しばらくすると、右手に何やら立派な建物が見えてきた。


 西部劇に出てくる酒場を、ちょっと規模を大きくして豪勢にしたような建物で、入り口の上の看板には大々的に「冒険者ギルド」と記されている。


「この街の冒険者ギルドは、わりと大規模っすからね。建物も立派っす」


 フィフィの説明にそういうもんかと思いながら、俺は建物の入り口をくぐってゆく。


 中へと踏み込むと、左手の奥一面が酒場になっていて、まだ昼過ぎだというのに酒を飲んでいる荒れくれ者たちが、ちらほらといらっしゃった。

 そして、入ってすぐの正面には受付カウンターがあって、そこには受付嬢が一人、座って書き物をしていた。


 受付嬢は、くり色の髪をボブカットにした、いかにもモブですよっていう感じの地味めの印象の子だ。

 彼女は俺の姿を認めると、にっこりと営業スマイルを向けてくる。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。初めての方ですよね?」


「あ、はい」


「でしたら、まずは冒険者登りょくてちゅじゅきを……」


「…………」


「…………」


 受付嬢は、んだ。


 彼女は顔を真っ赤にして、口をパクパクさせて俺のほうを見ていた。

 俺は鷹揚おうようにうなずいてやる。

 少し安心した様子の受付嬢は、こほんと一つせきをして、


「……冒険者、登録、手続きをいたしますので、こちらにひちゅよう事項を……」


「…………」


「…………」


 また噛んだ。

 受付嬢は、あわわわわわっという顔になる。

 俺は、大丈夫だから、という意味を込めて、再びうなずく。


「……こちらに、必要事項を、記入してください……」


 そう言って、一枚の登録用紙を、上様にものを献上するかのような姿勢で、丁重に差し出してきた。

 どうやら恥ずかしくて顔を上げられないらしい。


 さておき、俺は用紙を受け取って、記入事項を確認する。

 名前、種族、性別、登録時の年齢、登録年月日……なかなかシンプルだな。


「これ、向こうで書いて来ていいですか?」


「あ……は、はい。あちらのテーブルをご利用ください」


 俺は受付嬢からペンとインクを受け取って、記入用のテーブルに向かう。

 そして、


「俺の名前、なんだっけ? カイト……じゃなくて、ボイル……でもなくて、キャシー? いや……」


「カイルっすよ。キャシーどこから出てきたっすか」


「それだそれ。あと、種族は人間だよな。年齢……俺の歳いくつ?」


「十五歳っす」


「フィフィは?」


「三万飛んで十三歳……って、その情報いま必要ないっすよね?」


 なんて感じで、自分の胸元と密談しながら必要事項を記入していった。

 さすがにこれを受付嬢の前でやるわけにもいかない──と考えて、ふと思う。


「フィフィって、人に見られたら何かまずいのか? 妖精狩りに遭うとか」


「何すかその怖いイベント。別に問題ないと思うっすけど、うちが目立つと、話がややこしくなりそうじゃないっすか?」


「あー、なるほど」


 そんなやり取りをしつつ、登録用紙を記入。

 受付嬢のところに持って行く。


「はい──カイルさんですね。冒険者登録、確かに承りました。それではこれから、冒険者と当ギルドのシステムについて、ご説明しますね──」


 そう言って受付嬢は、冒険者の規則や活動方法について、いろいろ説明してくれた。

 その説明は、噛まなかった。


 というかむしろ、仕事のできる事務員の人、という雰囲気だった。

 どうやらさっきのは、本人にとっても痛恨のミスだったらしい。


 しかし俺の脳には、この人は噛む人だという情報が、すでにインプットされている。

 人の印象の九割は第一印象で決まると聞いたことがあるが、納得である。


「──以上が、冒険者活動に関する、主な注意点となります。──何かご質問はございますか?」


「いえ、大丈夫です」


 説明の内容は、とりあえず頭にたたき込んだ。

 INTを上げたせいか、記憶しておこうと思ったことは、細部まで含めて知識としてストックしておける自信がある。

 あとはその知識を、必要になったときに引っ張り出してやればいいだろう。


「カイルさんの冒険者証は、明日までにお作りしておきますので、明日以降にまた取りに来てください。今日のところは、冒険者証がなくてもクエストの受付はいたしますので」


 最後にそんな説明を受けて、冒険者登録は終了。

 俺は受付カウンターを離れ、クエストが貼り付けられている掲示板へと向かう。


 ギルドの入り口すぐの右手側に、どでかい掲示板があり、クエスト内容が書かれた貼り紙が所狭しと貼り付けられている。

 ただ、さすがに昼過ぎということもあってか、貼り紙の数はまばらだった。


 クエストというのは、冒険者が受けることのできる「仕事」のことだ。

 冒険者はクエストを受注して、達成することにより、報酬を得ることができる。


 しかし冒険者になったばかりの俺が、受注できるクエストの数は少ない。


 冒険者にはS、A、B、C、D、E、Fという七段階の「冒険者ランク」があり、今の俺は最低のFランク。

 この冒険者ランクは、ステータスのレベルとは関係なく、クエストをどれだけ達成したかという実績によって上がってゆく。


 そして、この冒険者ランクによって、受注できるクエストのランクが決まっている。

 クエストにも、やはり七段階の「クエストランク」があり、Fランク冒険者の俺が受注できるのは、最低ランクのFランクのクエストか、その一つ上のEランクのクエストのみだ。


 で、ざっと見た感じ、FかEランクのクエストで残っているのは、以下の二つだけだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 皿洗い補助(ランク:F)

 内容:二番地の食事処、ホワイトブリッジの店長だ。皿洗いの手伝いを頼みたい。クエストを受注したら、ランチタイム前までに、一度店に来てほしい。

 報酬:銀貨五枚


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ラッシュどり討伐・捕獲(ランク:E)

 内容:ラッシュ鳥を討伐し、それを捕獲して、ギルドの受取・支払カウンターまで持ってくること。

 報酬:一体につき銀貨五枚


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 Fランクの方は、冒険者の仕事というより、ただの雑用だった。

 そしてそれ以前に、ランチタイム前までにっていう時点で、すでに終わっている。

 ギルド側のがし忘れ──というか、こんなものいちいち確認して剥がすまでもないってことなんだろう。


 というわけで、選択肢は実質一つしかない。


 俺は『ラッシュ鳥討伐・捕獲』のクエストの貼り紙を剥がし、受付カウンターに持って行った。


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