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RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第四章 王都と海と魔導船、あるいは巨大蛸と女剣士の相性について
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Sランク冒険者

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ジャイアントオクトパス退治(ランク:S)

 内容:王都近海に出没するジャイアントオクトパスを退治・討伐してほしい。なお、同時に二体が出現したという報告もあるので要注意。

 報酬:討伐一体につき金貨三百枚


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 王都の冒険者ギルドは、クエストが張り出されている巨大な掲示板の前。

 その掲示板の目立つ場所に貼り出されているクエストの貼り紙を見て、アイヴィが顔を引きつらせていた。


「ど、同時に二体ぃ? そんな、無茶苦茶だよ……」


 そう言ってアイヴィは、乾いた笑いを浮かべている。

 どうもAランク冒険者のアイヴィから見ても、かなりの無理案件のようだ。


 それはさておき──俺は掲示板から一旦目を離し、ギルドの建物内を見渡した。


 王都の冒険者ギルドは、最初の街の冒険者ギルドと比べて、数倍という規模の巨大なものだった。

 敷地面積、冒険者の数、従業員の数、掲示板の大きさやクエストの数など、どれをとっても規模が違う。


 いまギルド内にいる冒険者だけでも、ざっと見渡しただけで、五十人以上いるんじゃないだろうか。

 すでにクエストを受注して出立した者、まだギルドに来ていない者、今日は休みと決め込んでギルドに来ていない者とかもいるだろうから──この街の冒険者総数は、おそらくはゆうに百人を超え、二百人、あるいは三百人といった規模なんだろう。


 俺だけでなく、ティトとパメラの二人も、田舎者丸出しの顔で物珍しそうにギルド内を見渡している。

 うちのメンバーでは、ただアイヴィ一人が、勝手知ったる様子だった。


 まあ、この環境にも、そのうち慣れるだろう。

 俺は改めて、ジャイアントオクトパス退治のクエストの貼り紙に目を向け直す。


 ……うん、とりあえず、一体につき金貨三百枚っていう報酬はおいしいな。

 別に金に困っているということもないが、とは言っても、ちょっと羽目を外して散財すると、すぐになくなってしまう程度の所持金ではある。

 こういう大金が稼げる案件は、しっかりと頂いておきたいところだ。


 ──と、そんなことを考えていると、


「やあ、アイヴィじゃないか。王都に来ていたのかい?」


 不意に背後から、なにやらキザっぽい男の声が聞こえてきた。

 その声を耳にして、俺の隣で掲示板を見ていたアイヴィが、露骨に「うげっ……」っとつぶやく。


 アイヴィがおそるおそる後ろへと振り向き、それにつられて俺やティト、パメラが一斉に後ろを振り返ると──そこには金髪碧眼へきがんの美男子が立っていた。

 年の頃は、二十代前半から中頃といったところだろうか。


 美男子は、俺たちが振り向いたのを確認して、ふぁさっと自分の前髪をかき上げる。

 そして彼は、左足を半歩引くことによって、俺たちから見て斜め三十度ほどの角度で半身になり、さらに顎に手を当てつつ、口元をつりあがらせて白い歯を見せる。


 彼の見せた歯が、きらんと光ったように見えた。

 どうやらそれが、彼のキメ顔のようだった。


「……や、やあヴァイス、久しぶり」


 アイヴィにも、どうやら苦手な相手というものが存在するらしい。

 赤髪の剣士は、いかにも愛想笑いですよという顔で、自らがヴァイスと呼んだ男に社交辞令っぽいあいさつを返す。


 男──ヴァイスは、再び前髪をかき上げ、芝居がかった口調で応答してくる。


「ああ、本当に久しぶりだね。まるで何万年もっていなかった、そんな心持ちだよ。──ところでレディ・アイヴィ、隣の薄汚い野良犬と、可憐かれんな少女たちは、キミの新しいパーティメンバーかい?」


 …………。


 ……あ、いや、ごめん。

 あまりにも凄すぎて、言葉が出なかった。


 えっと、おそらくは彼の言った「薄汚い野良犬」というのは、俺のことだろう。

 で、「可憐な少女たち」というのが、ティトとパメラのことだと思う。


 けど、一応確認しておくか。

 俺は半歩前に出て、目の前のヴァイスという男に質問する。


「なあ、その『薄汚い野良犬』ってのは、俺のことか?」


「フッ……ほかに誰がいるというんだい? ──おっと、野良犬のくせに人語をしゃべれるんだね。そこは称賛してやろう」


 そうか、良かった。

 これがパメラのことだったら、この場でぶっ飛ばしているところだった。

 うちの飼い犬をコケにしていいのは、俺だけだからな。


 しかし、俺なんかこいつに嫌われるようなことしたかな……。

 そもそも初対面のはずだから、嫌われる要素ないと思うんだが。


「……ちょっと、ヴァイス。いきなり何言ってんの。ボクたちにケンカ売ってるんだったら、表に出る?」


 アイヴィがいつになく低い声で、剣呑けんのんな雰囲気を醸し出す。

 その赤い瞳が、ヴァイスをにらみつけている。


「……ん? 一体なにを怒っているんだい、アイヴィ。それに表に出てどうするつもりかな。──ひょっとして、僕に剣で勝てるとでも?」


「…………」


 ヴァイスに言われ、アイヴィは一瞬頭に血が上ったように剣に手をかけそうになるが、次には悔しそうにうつむいてしまう。


 ……あれ、マジで?

 この男、もしかしてアイヴィより強いの?


 そう思って見ると、確かに目の前のキザ男は、その立ち居振る舞いに隙が見当たらない。

 例えば、俺が今ここで殴りかかったとしても、ちょっとどういう結果になるか分からないというぐらいには、強そうだった。


 ……ふーん、なるほどなぁ。

 Aランク冒険者のアイヴィが敵わないってことは──


「あんた、ヴァイスとか言ったな。──Sランク冒険者か?」


「ああ、そうさ。一度しか言わないから、よく覚えておくがいいよ野良犬。この王都でも三人しかいないSランク冒険者の一人、それがこの僕、ヴァイス・フェルディナントさ!」


 彼はそう言って再び、前髪をかき上げて決めポーズを作る。

 ……最初は微笑ましく見ていたんだが、だんだん鬱陶しく思えてきたな。


 それにしても、Sランク冒険者ってもっとこう、人格的にも優れた人間を想像していたんだが──そうか、これがハロー効果というやつか。

 そうだよな、獲得経験値倍化のスキルを高レベルで持ってさえいれば簡単に強くなれる世界なんだから、なにも人格が伴っている必然性はない。


 まあ、それはそれとしてだ。

 気になることを聞いておこう。


「で、あんたはなんで、俺のこと野良犬なんて言って目の敵にしてるんだ?」


 俺がそう聞くと、ヴァイスは露骨に機嫌を損ねた顔をした。


「──目の敵? 僕がキミのごとき薄汚い野良犬を、目の敵になどするわけがないだろう。思い上がりもほどほどにしたまえ。ただ僕は、美しい女性たちの周りに、小蝿こばえのように付きまとっている羽虫がいることが気に入らないのだよ。分かったらさっさと彼女たちの元から離れたまえ」


 野良犬なのか小蝿なのかはっきりしてほしいものだが、とりあえずこいつが俺にケンカを売ってきている理由は分かった。

 ちょっとだけ腹が立つので、売られたケンカは買っておこう。


「アイヴィ、ちょっと」


「え、なに、カイル──きゃっ!」


 俺はアイヴィを手招きして呼び寄せると、近寄ってきた赤髪の剣士の肩を、右腕でぐいっと抱き寄せた。


「ティト」


「──はい、カイルさん」


 ティトも、目の前のSランク冒険者を不愉快に思っていることはありありと見えたから、俺の意をんでくれるだろうとは思っていた。

 彼女は俺が特に何を言うまでもなく、俺の横に寄り添ってきたので、俺は左腕で少女の肩をそっと抱く。


「……あれ、ダーリン、あたしは?」


「おんぶでもしとけ」


「うん、わかった」


 パメラは後ろからぴょんとジャンプして、俺の背中に張り付いた。


 がちゃーん!

 四身合体、完成。


 周囲にいた冒険者たちが、俺たちの姿を見てざわつき始める。

 まあ、公衆の面前でこんなことしたら、そりゃそうだろうが、最近目立つのにも慣れてきたのでどうでもいい。


「──というわけで、こいつらみんな俺の女なんで、そこんとこよろしく」


 俺は四身合体の姿で、ヴァイスにそう言ってやる。

 再び周囲がどよついた。


 一方のキザ男は、額に青筋を浮かべて、その端正な顔をすごくゆがませている。

 顔芸と言って差し支えのないレベルの、素敵な表情だった。


「ぐっ……野良犬風情が、ハーレム気取りか。──だいたいアイヴィ、キミは確か、自分より強い男にしか興味がないと言っていなかったかい?」


「……強ければ誰でもいいってわけじゃないよ。それにカイルは、ボクより強いし」


 俺の腕の中で乙女になりかかっていたアイヴィも、気を取り直し、目の前の男に対してはっきりと拒絶の意思を示したようだった。

 このヴァイスという男とのれ合いをやめる、いい機会だと思ったのかもしれない。


「──ほう、アイヴィよりも強いと。その野良犬が、それほどのものとはな。ならば一週間後の剣闘祭けんとうさいには、当然出場するのだろうな?」


 ……ん?


「剣闘祭? 何それ」


「え、カイル知らない? 王都で年に一度開催される──平たく言うと、この国の最強戦士決定戦みたいなイベントだよ。ほら、宿がどこも埋まってたでしょ。もうすぐ剣闘祭があるから、王都に人が集まってきてるんだよ」


 俺の腕の中のアイヴィが、上目遣いで俺を見上げながら説明してくれる。

 あ、やべ、結構可愛い……じゃなくって。


「それ、出ると何かいいことあんの?」


「とりあえず、上位に入ったら賞金は出るよ。優勝で金貨二百枚だったかな。あと優勝すれば、冒険者だったら無条件でSランク認定されるし、こっちは人格審査はあるけど、王宮の近衛騎士とかにも希望したらなれたはず。……でも、ボクも何年か前に出場したことあるけど、ちょっと歯が立たなかったよ。ターニャは出場者のステータス鑑定した時点で諦めてた。実質、Sランク冒険者クラスじゃないと、出場しても意味ないかな」


 ふーん。

 賞金とかは置いといても、最強的なものに憧れる男の子としては、ちょっと興味がないこともないな。


「よし、出てみるか」


 俺がそう宣言すると、ヴァイスはニヤリと笑って、こう言い放った。


「ふっ、ならばそのときまで、首を洗って待っているがいい。この僕が直々に、貴様のその鼻っ柱をへし折ってやろう。──まあ、僕と当たるまでに無様に敗退しなければの話だけどね」


 それだけ言い捨てると、ヴァイスは高らかに笑いながらギルドを出て行った。

 うん、騒がしいやつだったな。


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