表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第四章 王都と海と魔導船、あるいは巨大蛸と女剣士の相性について
56/121

布団は一つ、枕は二つ

「やっほーい! 久しぶりのベッドー!」


 宿の案内された部屋に入ると、パメラがさっそく、ベッドの一つに向かってダイブした。

 彼女は、白くて清潔そうなシーツが敷かれたマットレスにぽふっと顔から埋まりつつ、うれしそうにごろごろと転がる。


 唯一残っていた宿の部屋は、ちょっとグレードがお高めのところだった。

 ゆったりとした広さの板張りの部屋には、窓から柔らかな日の光が差し込んでいて、その空間にクイーンサイズのベッドが一台と、シングルサイズのベッドが二台、それにテーブルと、椅子が四脚設置されている。


 パメラがダイブしたのは、シングルベッドのうちの一つで、あの犬っころにも多少の謙虚さは残っていたのかと感心したものだが──しかし、問題はそこじゃない。


「あはは……ベッド、三台しかないね。どうしよっか」


 アイヴィが困ったような笑いを浮かべながら、その禁断の一言を口にする。


 そう、宿の受付のおばちゃんは、確かに四人用の部屋と言った。

 なのに、ベッドは三台だ。


 いや、分かっている。

 クイーンサイズのベッドには、枕が二つ置かれている。

 布団は一つ、枕は二つ、というやつだ。


 つまり、枕の数で勘定すれば辻褄つじつまは合うし、テーブルに付属している椅子も四脚あるわけだから、四人用の部屋であることは間違いないんだろう。


 ……えっと、つまりアレですか。

 家族用の部屋だから、お父さんとお母さんは一緒のベッドでいいよねって、そういうことですか?


 俺は何の気なしに、ちらっと横にいるティトへと視線を走らせる。

 すると、ちょうど同じタイミングでこっちに視線を向けていたティトと、もろに目が合ってしまった。


「……っ!?」


 ティトは頬を赤く染めつつ、慌てて視線を逸らした。

 まあ、俺の方も似たようなリアクションをしてしまったと思うが……。


 ──いやいや、何を意識しているんだ。

 常識的に考えて、女子二人を同じベッドに寝かせるのが普通だろう。

 俺がシングル、アイヴィとティトがクイーンサイズに二人で、というのが順当だ。


 ……いやしかし、アイヴィとティトを同じベッドに寝かせるのも、それはそれで何かこう危険のようなものを感じないでもない。

 ここはアイヴィにはパメラを押し付けてクイーンサイズに寝かせて、俺とティトはそれぞれシングルを使うべきか?


 とか思っていたら、真っ先にベッドに飛び込んだパメラが、こんなことを言いだした。


「あ、ベッド三台しかないんだ。じゃああたし、久々にダーリンと一緒に寝たいな。ねぇダーリン、今日はそっちのでかいベッドで二人で寝ようよ」


「は……?」


 目が点になる、とはこういう心境のことを言うのだろうか。

 その間にもパメラは、ころんとベッドから降りて、今度はクイーンサイズベッドのほうによじ登ってゆく。

 そして、「ねぇダーリン、こっちこっち」とか言って手招きしてきた。


 ……いや、分かってるぞ、パメラだからな。

 他意はなくて、もっと無邪気に、小さな子どもが「パパと一緒に寝るー」とか言っているのと同じノリなんだろう。


 しかし……しかしだ。

 パパとしては、それが不安でならない。

 こいつはそのうち、その辺の悪い男にほいほいだまされて、大変なことになってしまうんじゃないだろうか。


 そうならないように、パパとしては、男は怖いものなんだぞと教えてやるために、今夜パメラに襲い掛かって──あ、いやいや、違う違う。

 なんて、俺が変な方向に思考を走らせていると、俺の横にいるティトが声を張り上げた。


「はあああああっ!? なに言ってるのパメラちゃん、図々しいにもほどがあるんだけど!」


 そう言って、ティトはずんずんとパメラのいるクイーンベッドの前まで歩いて行って、最初にパメラがダイブしたシングルベッドをビッと指さし、立ち退きを要求した。


「このベッドは、私とカイルさんが使います。パメラちゃんはあっち!」


 据わった眼で、そんなことを言い出すティト。

 ……え、お前もなに言ってんの?


「えー、ティトっちばっかりずるい! あたしもダーリンと一緒に寝たい~!」


「ずるくない! パメラちゃんのがずるいし!」


「なんでだよ~。いつもティトっちばっかダーリンとべたべたしてさぁ」


「そ、それは努力の差だもん! パメラちゃん何にもしてないし、ていうかいつもワガママばっかり言ってるし! それで同じ扱いがいいとか、絶対ずるい!」


 ……えっと、なんだろうこれは。

 ヒロインっ面して、私のためにケンカはしないで、とでも言えばいいんだろうか。


「じゃ、じゃあ、間を取ってボクが……」


 俺の隣でアイヴィが、そろそろと挙手しつつおそるおそるといった様子で言うが、ティトからにらまれて「ひっ」と悲鳴を上げ、手を引っ込める。

 ……剣は強いのに、精神戦にはホント弱いなこいつ。




 で、その夜、結局どうなったかというと──


「……さ、さすがに三人で寝ると、狭いですね」


「あ、ああ……」


 左側から聞こえてくるティトの声に、俺はどぎまぎしながら、同意の言葉を返す。


 ランプの明かりが消され、暗闇に閉ざされた部屋。

 そのクイーンサイズのベッドで仰向けになった俺の左右には、それぞれに寝間着姿の美少女が寝ていた。


 左にはティト。

 右にはパメラ。


 いつぞやの、屋敷で朝目覚めたときのシチュエーションを思い出すが、あの時と違うのは、寝る前の今が素面しらふだということだ。


「狭かったら、もっと引っつけばいいんじゃね? えっへへー、久しぶりにダーリンと一緒~、ぎゅううううっ」


 右側からパメラが、俺の右腕にしがみついてくる。

 寝間着越しに、柔らかな肌の感触が伝わってくる。


「ちょっ、ちょっとパメラちゃん!? わ、私だって……!」


 左側からティトが、同じように俺の左腕に抱きついてくる。

 こっちは少し恥じらいがあるというか、控えめな抱きつき方だが、ティトの場合は胸の大きさが結構なお手前なこともあり、柔らかい何かに包み込まれているようなふわふわ感がある。


 とりあえず、一言だけ言わせていただきたい。


 寝れるか、こんなもん!

 いっそ野宿した方が、よっぽどぐっすり眠れた気がするぞ。


 いやまあ、じわじわと広がる幸せ感が、それだけで俺の体と心を癒してくれる気もするのだが。


「……なぁ、ダーリン」


 右側から、耳元でパメラがささやきかけてくる。

 パメラだというのに、妙に官能的に聞こえてくる。


「……な、なに、パメラ」


「んとさ……昼間ティトっちに言われて思ったんだけどさ。……ダーリン、あたしになにか、してほしいことある?」


「……とりあえず、いまそういうこと言うのをやめてくれ」


「なんで?」


「俺の中のおおかみさんが、止まらなくなるからだ」


「なにそれ?」


 パメラは疑問の声を上げるが、左側からティトの息をのむ音が聞こえてくる。

 何この心臓に悪い会話。


 なお、もう一人の宿泊者であるアイヴィはというと、


「うう、いいなぁ……。カイルにもなりたいし、ティトちゃんやパメラちゃんにもなりたい……」


 そんな問題発言をしながら、普通に一人でシングルベッドに寝ながら、寂しさで枕をぬらしていた。

 まあ、あいつは危険人物でもあるし、仕方ないだろう。


 ちなみにもう一台のベッドでは、フィフィが大きすぎるベッドに贅沢ぜいたくに横たわり、すやすやと幸せそうな寝息をたてていた。

 ベッドの使い方がいびつにもほどがある気がしたが、どうにもこれが最適解らしいので、仕方がなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ