表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/121

バカップル

 ──トントントントン。


 俺が家の廊下を歩いていると、台所から小気味よい音が聞こえてきた。

 台所をのぞいてみると、メイド服姿の銀髪の少女が、台所で夕飯の支度をしていた。


 ティトだ。

 彼女は炎魔法や水魔法も織り交ぜながら、実に手際よく調理を進めている。


「──あ、旦那さま。まだ作り始めたばかりなので、もうしばらくお待ちくださいね」


 ティトは俺の気配を察して振り向くと、愛らしい笑顔を俺に向けてから、また調理に戻る。

 そのメイドさんルックの後姿は、なんだかとても煽情せんじょう的に映った。


 俺は、ごくりと唾をのむ。

 すると、ティトがふと料理の手を止めて、俺に背を向けたまま、声をかけてきた。


「──あ、あの、旦那さま」


 ティトの声は、何だか少し上ずっていた。

 何か、興奮しているような響きだ。


「何、ティト?」


「その……えっと、その……こういうとき、ほら、何かあるじゃないですか」


「何か?」


 えっと……何だろう。

 「いい匂いだね」とか、そういう声掛けが必要なのだろうか。


 そんなことを思っていたら、ティトから爆弾発言が飛んできた。


「だから……恋人同士だったら、料理してるところに後ろからぎゅって抱きついてきて、とか、そういうの……あ、いや、その、やってほしいとかじゃなくて、その、だから、えっと……」


 そんなことを言って、メイドさん姿の後姿が、もじもじし始めた。

 メイドさん演技ロールプレイが切れている。

 よっぽどテンパっているらしい。


 ──ごくり。

 このとき俺の脳裏に浮かんだのは、うちの彼女は最高やー、という言葉だけだった。


 俺は、ティトの後姿の目の前まで歩いて行って──その小さな体を後ろからぎゅってした。


「──ひゃっ!?」


 俺の腕の中に収まったティトの体が、びくっと震える。

 俺の目の前には、銀髪が渦を巻くつむじの後頭部。

 ティトのいい匂いがする。


「え、あ、えぇっと……あ、そだ。──も、もう、旦那さま。料理をしているときにそういうのは、危ないからやめてくださいっ」


 ティトは慌ただしく、あらかじめ用意していたようなセリフを言う。


「……え、だって、ティトこうしろって言ってたんじゃないの?」


「そうなんですけどっ。ここまで含めてワンセットなんですっ。ほ、ほらっ、危ないから離れてください旦那さま!」


 離れなきゃいけないらしい。

 しょぼーん。


 しかし俺が離れると、ティトはぼそりとつぶやく。


「……Bコースは、まだ早いですから……」


「Bコース?」


「なっ、何でもないですっ! さー、そろそろお湯沸いたかなっ」


 何だかよく分からないが、ティトはわたわたと調理に向かって行った。

 俺は首を傾げつつ、台所を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ