二人だけの世界
「わ、私は……」
一方、テーブルの上の瓶に手を伸ばしながらも、何かを躊躇っているのがティトだった。
瓶を持つ手が、ぷるぷると震えている。
「何だよティトっち、ダーリンがくれるって言ってんだから、普通にもらっとけば──」
「ごめん、パメラちゃん、ちょっと黙ってて」
「あ、はい」
ティトからいつになく鬼気迫った声で返され、パメラが黙った。
おう、ティト怖えぇ……。
そして少し後、ティトは意を決したように、瓶の中身をぐっと飲み込んだ。
ぷはっと飲み干して、瓶をトンとテーブルの上に置いて──
「私は、カイルさんにずっとついていきます! 私なんかでは至らないところはあるかと思いますが、よろしくお願いしますっ!」
ティトは真摯な目で俺を見てから、頭を下げてきた。
……お、おう。
パメラの後だったから、逆にこっちの心構えができてなかったぞ。
ていうか、本当にパメラの言う通りで、条件なしであげるって言ったんだから、普通に飲めばいいのに、わざわざ義理立ててくるあたり、ティトはティトで真面目だなと思う。
そして、えっと、何だ……いま俺、ティトにすげぇ重い決断をさせちゃった気がするんだけど……。
これだけ真面目な子に、ずっとついて行くという宣言をさせたことの意味は、相当重い気がする。
こうなってくると逆に、まだたくさんあるチートポイントをちょっと使う程度のために、彼女に何を代償にさせたんだろうという気がしてくる……。
──ま、まあいいや。
気後れしていても仕方ない。
こっちも覚悟を決めればいいだけの話だ。
「……ティト」
「はい」
俺が呼びかけると、ティトが下げていた頭を上げて、こっちを見てくる。
えっと、こういうとき、なんて言えばいいんだろう。
えっと、えーっと──
「──これからもずっと、キミをなでなでしたい」
「ふぁっ!?」
俺の我ながらわけわからん告白に、ティトの顔が真っ赤になった。
可愛い。
抱きつきたい。
うん、そうだ。
今二人の間を引き裂いているテーブルをぶん投げて、ティトに抱きつきたい。
抱きついて、なでなでしたい。
そしてそのままゴールインしたい。
「お、おーい……ダーリン? ティトっち?」
どこかから、モブの声が聞こえてくる。
聞こえてくる気がするけど、聞こえない。
俺は席を立ち、さすがにテーブルを投げ飛ばすのはどうかと思ったので、テーブルを回り込んでティトのすぐ横まで行った。
そして俺は、ティトに起立を要求する。
少女は、こくんとうなずいて、立ち上がる。
俺はティトの正面に立つと、彼女の細い肩を抱きよせる。
ティトのほうも、おずおずとその身を寄せてくる。
少女の顔が、俺の胸に押し当てられる。
ティトの頭をなでなでする。
銀糸のような綺麗な髪を、梳くようになでる。
ティトがきゅっと、さらに身を寄せてくる。
ティトの女の子の匂いのせいなのか、それともこれがフェロモンというやつなのか。
俺の中の利知的な部分が、あっという間に吹き飛ばされて──
「……ね、ねぇ、ダーリン……あたし、のけ者?」
モブの声が鬱陶しい。
あれは追い払わないといけない。
「モブはちょっとどっか行っててくれないか? 今いいところなんだ、邪魔しないでくれ」
「うっ……うわあああああんっ!」
モブは泣きながら部屋を出て行った。
うん、これでよし。
「カイルさん……」
「ティト……」
見つめ合った俺たちはその後、二人ですっごくいちゃいちゃした。
とても幸せなひと時だった。




