イチャイチャしてたらAランク
なんかちょびっとだけシェアードワールドっぽい感じで、こんなん書きました。
作品コンセプトが全然違うので、本作を好いてくれている人に楽しんでもらえるかどうかは微妙ですが、よろしければ覗いてみてくださいまし。
とある錬金術師のお財布事情──夢見る少女はお金なんかに絶対に負けない!
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襲ってきた山賊たちは、ロープで縛って街まで連行した。
そして彼らは、街の刑務所の牢に入れられた。
彼らを討伐に行った冒険者たちは、残念ながら大方の予想通り、二組とも全滅したようだった。
その犯人として、山賊たちは全員、しかるべき刑を受けることになるだろうとのことだった。
さらに、後に山中を散策すると、山賊たちが根城にしていたらしき建物を見つけたが、そこはすでにもぬけの殻だった。
ただ、そのねぐらには怪しげなポーションの空き容器がいくつか転がっていたため、それらは事件の手がかりの品として回収された。
ポーションというのは、「錬金術」の技術を用いて作られるアイテムだ。
街に優秀な錬金術師がいるので、その人物に手がかりの空き容器を渡して、鑑定をお願いしてみるとは、ターニャの談だった。
ちなみに、例によってチートポイントを使えば錬金術スキルの取得も可能なわけだが、今のところ必要性を感じないのでスルー。
街に専門家がいるなら、その人に任せてしまえばいい話だ。
──とまあ、そんな街の一大事にかかわるシリアスな事情はさておき。
「旦那さま、痛くないですか?」
「あー、うん、そこそこ。あー、気持ちいいよ、ティト」
一仕事を終えて家に帰った俺は、ベッドの上でティトの膝枕に頭を乗せて横になり、メイド服姿の彼女に耳掃除をしてもらっていた。
可愛いメイドさんを雇ったらやってもらいたい男子の夢ランキングの、上位何位かには絶対に入ってくるであろう、夢の瞬間である。
ちなみに今いる部屋は、最初にティトとパメラとの三人で寝ていた、キングサイズのベッドがある部屋だ。
今はそこに、ティトと二人きりで、至福の時間を過ごしている。
ところで、メイド服を着た美少女による膝枕というのは、おそろしい破壊力がある。
顔を相手のお腹のほうに向けるか、逆側に向けるかでも大きく変わってくるが、今はより凶悪な、お腹側に顔を向けているスタイルだ。
ロングスカートに覆われたやわらかい膝の上に頭を置いているのだが、その膝からお腹にかけてのラインを覆っている布地というのは、妙なエロティシズムがあるように感じる。
洗濯された清潔なメイド服の布地の向こう側からは、ティトの肌の温もりやにおいが漂ってきて、それが少女のお腹の前の空間に凝集されているような感じ──おっとっと、あんまりそんな紳士的な表現をしすぎるものじゃないね。
「んっ、と──はい、終わりました」
そう言ったティトから、最後にふっと耳に息を吹きかけられ、ぞくぞくっとする。
ヤバい、もう限界だ。
俺は辛抱たまらなくなって、身を起こすと、そのままティトのお腹めがけてぎゅっと抱き着いた。
「ティト……っ!」
「ふぇっ……だ、旦那さま……?」
時刻はまだ昼下がり。
窓からは、うららかな日の光が、帯状になって室内に射し込んでいる。
ティトは俺が抱き着いた勢いで、上半身をベッドに倒された形になる。
その上に、俺がのしかかっている。
自分の彼女だと思ったら、これまでかかっていたブレーキが、効かなくなっていた。
こんな可愛すぎる彼女を前に、理性が耐えきれると思う方がどうかしている。
「ティト……俺もう、我慢できない……」
「え、いや、ちょっ、ちょっと待っ……カイルさん、やっ、だめっ……!」
そんな風に、こんな昼下がりから、計らずも大人の時間に突入しかかっていた、そのとき。
「ねぇダーリン、ティトっち、何してんの?」
背後から突如、無邪気な声がして、俺とティトの二人は折り重なったまま、びくびくっと震えた。
慌てて振り返ると、部屋の扉が開き、そこにはパメラが立っていた。
ぜ、全然気付かなかった……。
ちなみにパメラも、例のミニスカメイド服姿である。
どうも気に入ったらしく、家にいるときには、頻繁に着用している。
「な、何って、あれだよ、耳かき。な、ティト?」
「は、はい、耳かきですよねっ」
俺が慌ててメイド姿の少女の上からどき、その当人と口裏を合わせると、パメラが訝しげな表情で俺たちのほうを見つめてくる。
「……二人して、なーんか隠してねぇ? ──ま、いいや。用意ができたから冒険者ギルドに来てくれって、ギルドから使いが来たよ」
ああ、そう言えば。
呼ばれたらギルドまで来てくれって、ターニャから言われていたっけ。
……それにしても、だ。
俺は立って着衣を整えると、パメラの前まで歩いて行って、その肩にポンと手を置く。
「いいかパメラ、部屋に入るときは、ちゃんとノックをしなさい。いいな?」
「えー、何でだよ。めんどくせぇ」
「中にいる人が、何をしているか分からないからだ。……んー、例えばほら、パメラだって、着替えをしてる時に、俺に無断で部屋に入って来られたら嫌だろ?」
「別に? 裸なんて、見られて減るもんでもねぇし」
「なん……だと……?」
ダメだ、こいつの貞操観念は、何か根本的に違っている。
今度こいつの着替え中に部屋に入って堂々と裸体をガン見してやろうか、なんて思うが、それも人としてどうかと思う。
何か負けた気分を負いながら、とりあえずやましいことをするときは、部屋の鍵をかけようと心に誓った。
「お、来たな。そこ座ってや」
俺が、私服に着替えたティトとパメラ、それにアイヴィを連れて冒険者ギルドに行くと、ターニャがギルド長として、俺に席を勧めてきた。
酒場側の席を勧めてくるあたり、ターニャらしいのだが。
ターニャはギルドの奥からごそごそと何かを探して持ってくると、それをほいと、俺の前のテーブルに置いた。
「Aランクカードや。はっきり言ってカイルにはSランクのがふさわしいと思うけど、うちの権限やとここまでしか出せんのよ。王都の爺様のトコ行けば、Sランク申請もできるはできるんやけどね」
俺の前のテーブルに置かれているのは、不思議な色合いを放つ金属製のカードだった。
居酒屋の靴箱の鍵みたいな、木製の札じゃない。
カードには大きく「A」という表記と、俺の冒険者登録番号、それに名前とが併記されている。
持ってみると、予想していたよりも異様に軽い。
おそらくは、魔法的な特殊金属で作られているんだろう。
そんな風に俺がカードを不思議そうに見ていると、正面のターニャがニヤニヤとしていた。
「いやー、あんたがそう驚いてくれると、渡し甲斐があるわー。これな、Aランクからはこのカードなんよ。貴重品やから、絶対に失くさんといてな?」
糸目のお姉さんギルドマスターは、嬉しそうにそう説明する。
さらには、隣のアイヴィが、懐から自分のカードを取り出して、説明を追加してくる。
「これ持ってると、いろんなところで一目置いてもらえるよ。別に貴族扱いっていうわけではないんだけど、下の方の爵位持ちと同じぐらいには、発言とかを尊重してもらえるかな」
マジか。
Aランク冒険者、思ってたよりすごいな。
「ってことは、このカードだけで身分証明になるってことか。……けど、誰かに盗まれたりした場合とか、どうなるんだ? これだと本人確認のしようがないだろ」
当然だけど、顔写真がついているわけでもない。
何か魔法的な識別機能でもついているんだろうか──なんて思っていたら、ターニャからとんでもない答えが返ってきた。
「だから、しっかり貴重品扱いして、失くさんといてや。──Aランク冒険者に、これ誰かに奪われるようなどん臭いのは、要らんっちゅうことや」
うっほ。
なるほど、なかなかにサバイバル感のあるAランクだ。
──とまあ、そんな感じで、この街の冒険者ギルドのギルド長お墨付きで、Aランクに昇格した俺なのであった。
まあ冒険者ランクなんて、どうでもいいっちゃ、いいんだけどね。




