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RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第一章 異世界と冒険者生活、あるいは残念妖精と山盛りのチート能力
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出世払いでええよ

 人通りで活気づく街の中、門から大通りを真っすぐに歩くと、十分ほど歩いたところで、街の中央広場が見えてきた。

 俺は門番のドワーフ、リノットさんの助言に従って、中央広場を左手に折れ、さらに進む。


「しかしステータス鑑定って、名前が分かるのとかも、結構怖いよな。個人情報もプライバシーもあったもんじゃない。──この世界の人って、ステータス鑑定、普通に使えたりすんの?」


 俺が聞くと、その胸元、服の中にいるフィフィが返答してくる。


「普通の人は持ってないっすよ。冒険者だと、パーティに一人ぐらいいると重宝する感じっすね。──さっきの門番のドワーフさんも、職業柄、持ってたんじゃないっすか?」


「……あれ、どうだったっけ?」


 確か持ってなかった気がするんだが……。

 ひょっとしてリノットさん、門番としては意外とポンコツなのか?


「あー、この世界の普通の住人は、ご主人様みたいにそんなにほいほいスキル取れないっすから、持ってないこともあるかもっす。スキル一個取得するのには、数年かかるのが普通っすからね」


 うわぁ……マジかー。


 ──ん、待てよ?

 ってことは……


「……飛行能力とかも、この世界の住人、スキルとして取得できんのか」


「あ、いや、その辺はまだ、この世界の住人にスキルとして解明されてないっすね。多分人間としては、ご主人様がオリジナルっすよ」


 左様で……。

 うーん、あらためてチートだな、俺の環境。


 と、フィフィとそんな会話をしながら中央広場を歩いていると、


「ちょいちょい、そこのカッコいいおにーさん!」


 広場の一角の屋台で売り子をしていたお姉さんから、呼びかけの声がかかった。

 サバサバした感じの、キツネ目のお姉さんだった。


 きょろきょろと辺りを見渡してみるが、該当しそうなのは俺ぐらいしかいない。

 お姉さんのほうを見ると、


「あんたやあんた。カッコいいお兄さんったら、あんたしかおらんやろ」


 そう言って手招きしてくる。

 俺はお世辞か本音か分からないお姉さんの言葉に吸い寄せられ、ふらふらっと屋台に向かう。


 お姉さんは、屋台で肉を焼いて、それを野菜と一緒にパンにはさんだものを売っていた。

 肉を焼く香ばしい匂いが、鼻をくすぐる。

 値段は、銅貨五枚と書かれていた。


「おにーさん、今日この街来たんやろ。見た感じ、冒険者やな。ほいこれ、サービスや」


 そう言ってお姉さんは、焼いたばかりの肉をパンに乗せ、野菜とソースをかけてはさみ、俺に渡してくれた。


「えっ、いいの?」


「まあ食ってみ。うちのはラッシュどりの肉と白パン使った本格派やからね。味知ってもろて、今後ごひいきにってやつや。おにーさんからは、将来大物になる匂いがするんよ。うちの勘は当たるで?」


 そう言って、お姉さんはにひひーっと笑いかけてくる。

 まあ、いい勘してる気はするが。


 受け取ったパンを、一口かじってみる。

 柔らかくて風味の良いパンの下から、じゅわっと旨味たっぷりの肉汁が口の中に飛び込んでくる。

 レタスっぽいシャキシャキの、しかし少し癖のある味の葉物野菜、それに甘辛のソースともいい感じにマッチしている。


「……うまい」


「やろ~? おにーさん、なかなかいい舌しとるね」


 俺はあっという間に一個を平らげて、指に残ったソースまでをペロッとなめる。

 そういや、腹減ってたんだよな……。

 俺は、俺の食べる姿をにこにこと見守っていたお姉さんに、懐から銀貨を一枚渡して、


「もう一個」


「まいどありっ」


 お姉さんは銀貨を受け取って、銅貨を五枚、おつりとして渡してくる。

 銀貨一枚が銅貨十枚分だから、あくまでも最初の一個分はサービスってことだな。


 俺は二個目の肉入りパンをほおばりながら、屋台のお姉さんに手を振って、その場をあとにする。


 中央広場では、ほかにも様々な売り子さんが、思い思いの商品を広げて商売をしていた。

 塩漬けの魚を売る人、近所の農家の人らしい野菜を売る人、自作の工芸品を売る人など、様々だ。

 ちょっとした市場か、バザーって感じだな。


「じー……」


 と、ふと気づくと、フィフィが俺の服の内側で、物欲しそうに肉入りパンを見つめていた。


「……食うか?」


「ううっ……食べたいっすけど、うちにはジャンボサイズすぎるっすよ……」


「あきらめたら、そこで試合終了だよ」


「……それ確か、ご主人様が元いた世界での名言か何かっすよね? 台無し感がすごいんすけど」


 そう言いながらも、フィフィはやっぱり物欲しそうに見ている。

 俺は中央広場を抜けて大通りに出ると、その脇道の路地へと入った。


 そしてフィフィを服の中から解放してやると、


「ほーら、お食べ」


 なんて言って、目の前に浮いているフィフィに、肉入りパンを差し出した。


「……なんか、餌付けされてるペットの気分なんすけど」


「じゃあいらない?」


 俺はそのパンの残りを、あーんと自分の口に持ってゆき──


「──あああっ、待ってっす! いるっす! うちも食べてみたいっす!」


 プライドは食欲に負けたらしい。

 うむ、潔し。

 ならばこちらも情けをかけよう。


 俺は腰からショートソードを取り出し、それで肉入りパンを二センチ角ほどに小さく切り取る。

 なるべく肉とパンと野菜とソースがバランスよく残るように、とやったのだが、DEX──すなわち器用さのステータスもバカ上がりしているせいか、そんな細かな作業もわりと難なくできた。


 俺ができあがったそれを差し出すと、フィフィはそれを抱えるようにして受け取り、はぐはぐとかじりついてゆく。


「むっ……これはうまいっすね」


「だろ?」


 俺は残ったパンを平らげつつ、フィフィが一所懸命に食べている様子を眺めていた。

 ほのぼのだった。


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