謎の山賊との戦闘
俺のパーティ四人に、ギルド長のターニャを加えた五人は、山賊の住処があると目される山の、山道を歩いていた。
緩やかな上り坂の山道は、整備されていない獣道で、俺たちは木々の間を縫うように、歩ける場所を探して進んでゆく。
足元にところどころ太い木の根が這っていたりして少し歩きにくいが、メンバー全員、AGLのステータスはそこそこ以上にあるためか、特段の問題は生じていない。
「ねぇターニャ、件の山賊の人数って、分かってるの?」
「んー、はっきりとは分からん。何十人っていう大規模じゃないとは、思うんやけどな」
二番手を歩くアイヴィの問いかけに、先頭のターニャが答える。
ちなむと、三番手に俺、その後ろにパメラ、ティトと続いている。
──と、そのとき。
行く手の先に、何かきらりと光るものが見えた気がした。
何だろう、と思っていると──ひゅん、と矢が飛来した。
ガッという音を立てて、近くの木の幹に突き刺さる。
おっと、敵襲か……?
「──はんっ、さっそく手荒な歓迎が来よったな! ティトとパメラは、うちの後ろに隠れ! アイヴィとカイルは、攻めれるか!?」
ターニャが大盾を体の前に構え、叫んだ。
ターニャの体から、腕を通じて、青白いオーラのようなものが伝い、彼女が掲げる大盾を覆ってゆく。
「やってみる!」
アイヴィはターニャの声を聞いて、双剣を抜いて山道を駆け出した。
軽い身のこなしで、木々の間を抜け、ぐんぐんと先行してゆく。
さて、いま何が起きているのかと言えば、おそらくは、行く手の先にいる山賊たちが、こちらに向けて弓矢を放ってきているのだろう。
そう思って前方を見渡すと、視界の先、木々の隙間を通して、ちらちらと人影が見えた。
俺は、ティトとパメラがターニャの後ろに逃げ込んで安全を確保するのを確認しながら、生命感知のスキルを発動する。
感知する対象の指定は、人間。
すると効果範囲内に、俺たち五人のほかに、六人の存在を感知した。
行く手の先に、四人が固まっていて、その周囲に二人が散っている。
矢が飛んでくる方向から推測するに、おそらくは散っている二人が弓手だろう。
「まず射撃を潰してくる!」
俺は宣言し、地面を蹴る。
「へっ……? あ、ああ、任したわ」
ターニャが狼狽えながらも、それを追認する。
狼狽しているのは、この段階で射撃手を特定した俺の発言に、疑問を感じたからかもしれない。
一方、しっかりと大盾を構えたターニャには、更なる矢が降り注いでいた。
その頑丈な大盾に、一本、二本と強烈な矢が突き立ってゆく。
それらの矢は、青白いオーラに覆われた盾面を浅く貫き、矢じりが盾の裏面へと少し飛び出したところでストップしていた。
その事実に、ターニャが驚きの声を上げる。
「なんやっ、うちの盾を貫通するんか!? クロスボウでもないのに!」
ちょっとした異常事態らしい。
ともあれ、大事はなさそうなので、俺は構わず先を急ぐことにする。
ジグザグに木々をよけ、落ち葉を踏みながら緩やかな山道を駆け上がってゆくと、目標のうちの一人が見えた。
山賊風の姿の男だ。
弓と矢を手にし、次の一射を放とうとしている。
そいつは俺の姿を認めると、とっさに弓矢を捨てて腰から山刀のような武器を引き抜こうとしたが、それよりも俺の到着のほうが早く、俺の拳が男の腹部に突き刺さった。
「がはっ……ば、バカな……!」
攻撃制御のスキルを発動させ、気絶させる程度にダメージをコントロールしている。
その一撃を受けて、男は崩れ落ち、地面に伏して動かなくなった。
口から泡を吹いている。
しかし、少し気になることがあった。
この男の目が、不自然に赤く充血していたのだ。
また、パメラを襲おうとしたチンピラどもと比べると、どことなく動きが鋭かったように見えた。
俺の今の能力からすると、誤差みたいなものだが──アイヴィとまでは言わないまでも、パメラと互角、あるいはそれ以上ぐらいの印象ではあった。
手足の筋肉も、妙に盛り上がっているように見え、血管がむきむきと浮かび上がっている。
どことなく、人の姿としてアンバランスな姿に見える。
──まあ、ともあれ疑問は横に置こう。
戦闘は、まだ続いている。
俺は次の弓手を狙い、走り出す。
俺は二番目の弓手を手早く潰してから、残る四人の団体さんのほうへと向かった。
そこでは、アイヴィが三人の男たちと、激しい攻防を繰り広げていた。
もう一人は、アイヴィが切り伏せたようで、血を流して地面に倒れている。
しかし──
「──カイル! こいつら、何かおかしい! 並みの山賊の動きじゃないよ!」
アイヴィの声は、半ば悲鳴じみていた。
三人の山賊たちは、野生の獣のように山中を飛び回り、斧や剣を棒切れのようにたやすく振り回しながら、赤髪の双剣士に波状攻撃を仕掛けていた。
アイヴィはその攻撃を、男たちを上回る俊敏さで回避し、または双剣を駆使して受け流すことで、どうにか凌いでいる様子だ。
しかし一方で、アイヴィは腹部に浅い切り傷を負っていて、その傷口からはどくどくと赤い血が流れ出ている。
彼女の表情にも、余裕らしきものは見受けられない。
「アイヴィ、下がってろ!」
「……う、うん、ごめん」
俺はアイヴィのカバーをするように救助に入ると、魔剣を抜き、三人のうち一人を切り払った。
攻撃制御で、ダメージはコントロールしている。
俺の魔剣に切られた男は、うめき声をあげて倒れた。
残った二人の山賊は、野生の猿のような俊敏な動きで飛び退って、俺から距離を取る。
「──インフェルノ!」
俺はそこに、ジャイアントアントのボス戦でも使った、炎属性の最上位魔法を叩き込む。
攻撃制御スキルで、いつものダメージコントロールと、山火事にならないように対象を山賊に絞ることも忘れない。
俺が放った劫火が過ぎ去り、動く敵はいなくなった。
俺の後ろでぽかーんとするアイヴィ。
「アイヴィ、ちょっと動くなよ」
「──えっ? あっ、は、はいっ」
何故か敬語のアイヴィのお腹に手を当て、治癒魔法をかけてやる。
俺の掌から白い光が放たれ、アイヴィの傷口がふさがってゆく。
「えええええっ……? あ、ありがとう……。……でも、カイルってホント何者なの……?」
アイヴィがそんなことを言ってくるが──はて、異世界から来たチーターです、と答えるわけにもいかない。
「ティト曰く、白馬に乗った王子さまだそうだけどな」
「うわぁ、うわぁ……」
とりあえず、さわやかスマイルを作りながら誤魔化しの言葉を言うと、アイヴィは顔を赤くして俺を見つめていた。




