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RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第三章 赤の剣士、あるいは朝チュンと鬼畜とぬるぬる地獄
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赤の剣士の正体の正体

 帰り道。

 アイヴィの話によると、少し寄り道をすれば泉があるというので、俺たちはその泉に寄って、巨大ナメクジ由来のぬるぬるを落としてから街へと帰ることにした。


「──あはっ、ティトっち冷たいよっ。お返しぃっ!」


「きゃっ! やったな、このぉっ!」


 泉できゃっきゃと遊ぶ少女たちの声を聞きながら、俺は泉から少し離れた場所の太い木の幹の陰で、のどかな時を過ごしていた。

 空を見上げれば夕暮れ前で、空がだんだんと赤らんできている頃合いだ。


 あれからしばらくして、パメラもようやく普段の元気を取り戻し、平常運転に戻っていた。

 そんなこんなで、万事問題なしである。


 ──俺のすぐ横にいる約一名の、変態っぷりを除けば。


「はぁ……はぁ……あぁ、いいなぁ……可愛いなぁ……」


 赤い変態の人は、俺の横の木の幹に隠れ、のぞき見するように泉の娘たちの姿をこそこそと眺めていた。

 ……俺と一緒に見張りを買って出たかと思えば、これである。


「お前は一体何がやりたいんだ。お前も女なんだから、堂々と混ざってくればいいだろ」


 俺はごく当たり前の突っ込みをする。

 まあそれはそれで事件性を感じないでもないが、そのほうが少なくとも、外面そとづらは幾分か健全だろう。


 しかしアイヴィは、大きくため息をつき、


「分かってないなぁ、キミは……。こういうのは、こうやってこっそりのぞき見るのがいいんじゃないか」


 呆れの口調とともに返ってきたのは、完全にフェチシズムに染まった主張だった。

 普通に混ざれば正常なものを、わざわざ迂遠うえんにすることで犯罪性を感じさせる手口は、いっそ感心すらする。


「だいたいね、ボクなんかがあの天使たちの間に入ったら、せっかくのあの美しい空間が、けがれてしまうよ」


 さらにはそんなことまで言う。

 何というか、ひどく屈折したやつだな。


「いや、そんなことはないと思うけどな。お前見た目は可愛いし」


 俺は泉で三人がきゃっきゃしている姿を想像して、率直に感じたことを言ってみる。

 すると、それを聞いたアイヴィは「むぅ……」と言って黙ってしまった。


 黙られてもそれはそれで困る。

 間が持たない……。


 そう思っていたら、


「その……率直に答えてほしいんだけど……カイルから見て、ボクってまだ、女の子として……その、魅力とか……あるかな?」


 アイヴィは木の幹の陰でもじもじしながら、そんなことを聞いてきた。


 んー、女の子として……魅力?

 あんまり「女の子」っていう歳でもない気がするが……まあでも、俺の元の年齢から見れば、年下と言えなくもない。


 そんな風に考えつつ、返答しようとしたのだが──すぐにアイヴィはぶんぶんと両手を振って、


「あはっ、何でもない! ごめんごめん、今のなしっ! 聞かなかったことにして! やっだなー、ボクってばもうね、何言ってるんだろうね。あっははははっ」


 なんて言って、パタパタと自分の顔を手で仰ぎ始めた。

 なんだか分からんが、忙しいやつである。




 その後、俺やアイヴィもぬるぬるを落として、街へと帰還する。

 ドワーフ門番のリノットさんに挨拶をして、市門をパスする。


 そこでふと、リノットさんってそういえば、7レベルだったよなと思い出す。

 対して、三日前まで1レベルだったティトが、今はすでに6レベル。


 あらためて考えると、恐ろしい事実だ。

 ティトの素質と、俺の手荒な経験値稼ぎとが掛け算されて、結構ヤバいことになっている気がする。


 と、そんなことを考えながら、中央広場を横切ろうとしたとき、


「あ、この間のカッコいいお兄さんやないの。やっほー」


 俺に声をかけてくる、露天商がいた。

 誰だっけ──ああ、初日に会った、ラッシュ鳥のパンを売ってたキツネ目のお姉さんだ。


「──って、アイヴィも一緒やん。どーしたん自分」


 と思い出していると、お姉さんは屋台の片づけをしながら、俺の後ろのアイヴィに向かっても呼びかけた。

 何だ、知り合いか?


「ああ、ちょっとこの男の(ピーッ)奴隷になってね」


「ふぅん、そっかー、そのカッコいいお兄さんの(ピーッ)奴隷なぁ、そりゃ羨ま──って待ちぃ、なんよそれ」


 一瞬固まった露天商のお姉さんが、次には俺をジト目で見てきた。

 俺は無実を訴えるため、ふるふると首を横に振る。


 するとお姉さんは、それだけで何かを察してくれたようで、


「……あー、なるほどな。……いや、お兄さんも災難やな。こいつ、思い込み激しい上にドMやからな。大変やろ」


 お姉さんは俺の肩をぽんぽんと、同情するように叩いてきた。


 涙が出るかと思った。

 常識人だ……常識人がいる……。


 さらにお姉さんは、すすすっと俺の横に回り込んできて、俺の首周りに腕を回してくると、耳元でこそこそと話しかけてきた。


「──でもな、あれで可愛いトコもあるんよ? 冒険者やってたら行き遅れたーなんて気にしててな、まだ全然可愛いから大丈夫やって言うてんのに、ボクなんかー、ボクなんかーって聞きやしない。──あ、そだ、それで思い出した」


 そしてお姉さんは俺から離れ、アイヴィの前に立ち、両腰に手を当ててお説教ポーズ。

 お姉さんよりアイヴィのほうが少し背が高いから、見上げる形になるが、向かい合っておどおどしているのはアイヴィの方だ。


「アイヴィあんた、まだ自分のこと『ボク』とか言うとるんちゃうやろな?」


「……言ってるけど」


「あんなぁ……この間もうち、それやめぇって言うたな? うち、それ何でって言った?」


「ボクの年で自分のこと『ボク』って言ってると、痛々しいからって……」


「そや。じゃあ何で自分まだそれ言ってん」


「……いいじゃないか別に、誰に迷惑かけてるわけでもないし……」


「はあぁぁぁ……。──あのな、そんなこと言うてるから、あんた可愛いのにろくな男が寄りつかんって、何度言ったらわかんの? なあ、性格が直せんのやったら、そのぐらいは直し」


 フルボッコだった。

 有名なAランク冒険者こと赤の剣士さんが、露天商の説教で涙目になりかかっていた。


 お姉さんは、はぁっとため息をついて、俺の方に戻ってくる。

 そしてまた俺の肩に腕を回し、


「──なあお兄さん、頼むわ。何の縁か分からんけど、あの子のこと見捨てんといたげて。今のあの子放っといたら、どこで変なのに引っかかるか分からん。お兄さんなら安心や。目ぇ見りゃわかる」


 そう言って、ちらっとティトとパメラの方を見て、


「──あの子たちも自分が引っ掛けたんやろ? いっそハーレムでも築いてやったらええんよ。お兄さんはその器ありやと、うちは思うよ」


 それだけ言うと、お姉さんは俺の背中をバンと叩いて、「また食べに来てや」と言って屋台の撤収作業に戻っていった。

 何というか、嵐のような人だな……。


 ふと気になってアイヴィの方を見ると、顔を赤くして、恥ずかしそうにしていた。

 ──見捨てないでやってくれ、か……しょうがないな、まったく。


「それじゃ、帰ろうぜ」


 俺はアイヴィと、ほかの二人にも声をかけて、家路につく。

 三人が俺の後を追いかけてきて、それから歩調を合わせて、俺の後ろに付き従う。


 暗くなり始めた時分の空を見上げると、今日も赤と青のコントラストが、満天のキャンパスを美しく彩っていた。


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