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RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第三章 赤の剣士、あるいは朝チュンと鬼畜とぬるぬる地獄
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ぬるぬるの森

「──さ、着いたよ。ここから先が、ボクのお勧めの狩場──『ぬるぬるの森』だ」


 アイヴィが、さわやかな顔で言った。


 俺の腕にひしっと抱き着いたティトが、怯えた顔をしている。

 さしものパメラも、俺の背中でぷるぷる震えている。


 俺は視界に広がるその光景を見て、アイヴィさんマジ鬼畜、と思っていた。


 ところどころに木漏れ日の落ちる、森の中。

 その点は、ここまで歩いてきた普通の森と、変わらない。


 だが、その森の光景のいたるところに、ぬらぬらと粘液を滴らせる、巨大なナメクジのような生き物がいた。

 体長は二メートルぐらいか、あるいはそれ以上もある、とんでもない大きさのナメクジだ。


 その巨大ナメクジが、地面に大量にいるのはもちろんのこと、木の幹に張り付いていたり、果ては木の枝の上にへばりついているものもいる。

 その数は、視界内だけでも数十体──いや、遠くまで見渡せば、下手すると百体を超えるかもしれない。


 で、それらがぬるぬると大量に徘徊はいかいしているせいで、その一帯の地面や木々の表面は、一面がぬめぬめの粘液でコーティングされているように見えた。


「ジャイアントスラッグ──強いモンスターじゃないし、一体あたりの経験値はさほどでもないけど、何しろ群生してるからね。丸一日かけて狩って回れば、そこそこいい経験値が稼げると思うよ」


 アイヴィが、この狩場の特性を得意げに説明してくる。

 いや、うん、言いたいことは分かるんだが……


「……アイヴィもここで、経験値稼ぎしたことあるのか?」


「もちろん! ボクも最初は気持ち悪いって思ったけど──だんだん、あのぬるぬるにまみれるのが、気持ちよくなってくるんだ」


 そう言って、頬に手を当ててうっとりするアイヴィ。

 残念だが、それで気持ちよくなっちゃうのは、多分お前だけだと思うぞ。


 ていうか、ぬるぬる塗れになるのは、もう前提なのか。

 何という過酷な狩場──しかし、背に腹は代えられんか。


「……よし、頑張れティト、パメラ」


 俺がそうゴーサインを出すと、背後と横から悲鳴があがる。


「い、嫌です! これで私がお嫁に行けない体になったら、カイルさん責任とってくれますか!? ぬるぬるの私をもらってくれますか!?」


「いや、ジャイアントアントクイーンの粘液に塗れた経験がある時点で、今更だろ。大丈夫、ティトならやれる」


「それはそうですけどっ……ううぅ……」


 ティトはそう言って、名残惜しそうに俺の腕から離れ、杖を握りしめる。

 何だかこう、一応それをやらなきゃいけないという義務感みたいなものは、持っているようだ。


「ティトっち魔法だからまだいいじゃん! あたしなんて素手だよ!? やだっ、絶対やだっ!」


 一方、背中でキャンキャン騒いでいるパメラは、一向にその定位置から離れようとしない。

 ……これは少し、手荒な真似をする必要があるかもな。


「パメラ」


「え、な、なに、ダーリン?」


「骨は拾ってやる──行って来い!」


 俺はパメラの体を引っつかむと──その体をおもむろに、前方に広がる巨大ナメクジの群れの中に投げ込んだ。


「へっ……? きゃいいいいいいいんっ!?」


 俺に投擲とうてきされたパメラの体が、びちゃっという音を立てて、前方の森の中に着地した。

 ぴこん、とびっくりマークが浮かんだ様子の周囲の巨大ナメクジたちが、ゆっくりと、しかし確実にパメラに向かって殺到してゆく。


「きぃぃいいやあああああああっ!? いやっ、いやだっ、来るなあああっ!」


 うつぶせに地面に倒れたパメラは慌てて起き上がろうとするが、地面のぬるぬるで滑って倒れる。

 その間にも、巨大ナメクジたちはパメラにゆっくりと近付いてゆく。

 うん、あれだ、ちょっとしたホラーだな。


 そうして七転八倒しているうちに尻もち状態となったパメラに、巨大ナメクジの最初の一体が襲い掛かった。

 襲い掛かるといっても、その巨体でのしかかってゆくだけなのだが。


「やっ、やめっ、重っ、重いっ、潰れるっ、あたし潰れる、ちょっ、ダーリン、ホント助けっ……うぷっ」


 パメラは潰された。

 巨大ナメクジにのしかかられ、今や大の字に横たわった少女の手足の先のみが、ナメクジの下からはみ出して、ぴくぴく動いているだけだった。


 そこにさらに、二体、三体と巨大ナメクジが接近し、残された手や足も下敷きにしてゆく。

 そうして、パメラがいた場所は、巨大なナメクジの山で埋め尽くされた。

 うーん、あれはさすがにヤバそうだ。


「か、カイル……さん……?」


 俺の横で、ティトが怯えていた。

 巨大ナメクジでなく、俺に怯えていた。


「パメラのやつは、放っといたら自分から行きそうになかったからな。──ティトはあんなことしなくても、自分から戦いに行ってくれるだろ?」


 俺がそう言うと、ティトは怯えた表情のままこくこくと全力でうなずいた。

 はて、ティトにはやらないと言っているのに、何を怯えているんだろう?


 まあそれはともかく、あのまま放っておくと、さすがのパメラも天に召されかねない。

 俺は脳内でチートポイントを1ポイント切って、「攻撃制御ストライクコントロール」のスキルを取得する。


 これは、俺の攻撃で本来ならオーバーキルダメージを与えてしまうときに、その敵を瀕死の状態で生かしておいたり、あるいは範囲攻撃魔法などでダメージを与えるときに、その攻撃対象を選んだりすることができるスキルだ。

 要は手加減のためのスキルと、味方への誤爆を防ぐためのスキルがセットになったようなものと考えてもらえばいい。


 俺はそのスキルで、パメラを攻撃対象から外しつつ、巨大ナメクジのHPを1だけ残るようにセッティング。

 そして、炎属性3レベルの「エクスプロージョン」の魔法を、パメラの上に積み重なった巨大ナメクジの群れに叩き込んだ。


 俺の手から放たれた魔力は、着弾すると大爆発を起こし、巨大ナメクジたちを一気に吹き飛ばした。

 吹っ飛んだナメクジたちはびちゃっ、びちゃっと思い思いに地面に落下。


「──ひっ!」


 特に勢いよく飛んだ一体が、ティトのすぐそばに振ってきた。

 ティトが身を屈めて、それを回避する。

 地面に落下して、ぴくぴくと痙攣している巨大ナメクジ。


「ティト、そいつにトドメ刺しといてくれ。杖で一発殴れば倒せるはずだから」


「──は、はひっ!」


 ティトは震える声で返事をしてくる。

 何を怯えているのか知らないけど、言うことを聞いてくれるならそれでいいか。

 今は効率よく経験値を稼ぐことが、何よりの最優先事項だ。


 俺は地面のぬるぬるで滑らないように気を付けながら、パメラのもとに向かう。

 高いAGLのせいか、滑らないように歩くだけなら、別に難しくはなかった。


 パメラの上にいた巨大ナメクジは全部吹き飛び、そこには全身ぬるぬるになって地べたでぴくぴくしているパメラの姿だけがあった。


 俺はそのパメラの首根っこをつかんで持ち上げ、治癒魔法をかけてやる。

 全身が治癒の光に包まれたパメラは、しばらくするとハッとしたように意識を取り戻し、


「ダーリンごめんなさい、あたし何でも、何でも言うこと聞くからっ! こ、殺さないでぇぇぇっ!」


 恐怖に満ちた表情で、半泣きになりながら、俺に懇願こんがんしてきた。

 教育効果は抜群だった。


「よし、わかった。じゃあとりあえず、その辺でぴくぴくしてる巨大ナメクジ、全部倒して来い。一発殴れば倒せるはずだから」


 俺がそう言うと、パメラはぶんぶんぶんと猛烈に首を縦に振り、近くの巨大ナメクジに向かって行った。

 ときどき、つるっ、べちゃっと転びながらも、また起き上がって、泣きながら巨大ナメクジに向かってゆく。


 ──うん、これでよし、と。

 俺が満足しながら振り向くと、そこには畏怖いふの表情を浮かべた赤髪の女剣士の姿があった。


「あ、悪魔め……」


 アイヴィはそう言って、一歩、二歩と退く。

 生粋の変態さんにまでおののかれた、俺の運命やいかに。


 いやでも、わりと最大効率に近い形で、事を運んでると思うんだけどなぁ。

 なぜ悪魔呼ばわりされなければならないのか、解せぬところであった。


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