そんな言葉、使っちゃいけません!
「さあ、ボクのことを好きにするがいい!」
赤髪の美人のお姉さんは、そう言ってうちの庭に、鎧を着たまま仰向けに大の字になった。
まるでおなかを見せた犬のようだった。
……さて、このメンドクサイ人を、どうしてやろうか。
「本当に、好きにしていいのか?」
「……あ、ああ! ぼ、ボクだって負けた以上、お前のような鬼畜男に身を捧げる覚悟はできている」
捧げるなよ、と突っ込みたいが、さておき。
一応こっちもリスクを払ったんだし、それなりの要求をしたい気持ちはあるんだが、正直これといったものが思い浮かばない。
何でもする、と言われても意外と困るもんだな……えーっと、
「とりあえずお前、俺の仲間になれ」
そんなことしか、思い浮かばなかった。
Aランク冒険者がパーティに一人でもいれば、Sランクのクエストまで全て受領可能になる。
その辺の高難易度クエストに頻繁に手を出すかどうかはともかくとして、クエスト選択の自由度はあるに越したことはない。
ちなみに、地道にクエストをクリアして冒険者ランクを上げていこうとすると、そこに至るまで最短でも数ヶ月という単位の期間がかかる。
そこをブレイクスルーできるというのは、こっちの利益としては割と大きい。
俺の提案を聞いたアイヴィは、地面に投げ出していた上半身をぐっと起こした。
そして、驚愕の表情を浮かべ、口を開く。
「なっ──それはボクに一生、お前の(ピーッ)奴隷になれということか!」
「言ってねぇよ!?」
素で突っ込んでしまった。
俺そんなこと、一言も言ってないよね?
何なのこの人……。
「くっ……だが、好きにしていいと言ったのは、ボクのほうだ。いいだろう、今日からボクは一生、キミの(ピーッ)奴隷だ。……ふふっ、ボクの想像を、はるかに超えてくる……さすがの鬼畜ぶりだね」
頼むから俺の言葉を聞いてほしい。
俺は助けを求めるように、ティトのほうを見た。
俺と目が合ったメイドさん姿のティトは、「無理です。話の通じる相手じゃないです」と言うように、哀しそうに首を横に振った。
俺は絶望するしかなかった。
一方、その俺の服の裾を、後ろからくいっ、くいっと引っ張ってくる者がいた。
パメラだった。
そのミニスカメイド服姿の小柄な少女は、まっすぐな瞳で、俺に聞いてくる。
「なあダーリン、(ピーッ)奴隷って、何?」
「……お前は知らなくていい」
うちの純真なアホの子に、変な言葉を教えないでほしい。
しかし、パメラは引き下がらない。
「えーっ! 何だよ、教えてよ! (ピーッ)奴隷って何なんだよー!」
「うるさい! お前は知らなくていいの!」
「やーだーっ! 教えてー! (ピーッ)奴隷教えてよーっ!」
俺の胴にしがみついて、教えてくれるまで意地でも離さないという姿勢を取るパメラ。
そのとき、家の庭の背の低い塀の向こうを、こっちをちらちら見ながらひそひそ話をする、奥様方の姿が通り過ぎて行った。
俺の社会的地位は、今日もこうして、墜落の一途を辿ってゆくのであった。




