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RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第三章 赤の剣士、あるいは朝チュンと鬼畜とぬるぬる地獄
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剣は剣士のなんとやら

 さて、この人どうしよう、と思ったのだが。

 相手してやらないで逆にめんどくさいことになっても嫌なので、ひとまず勝負を受けることにした。

 好きにしろ、というのだから、まあこっちが勝って別方面で好きにすればいいだけの話だ。


 通行人のいる道端でやりあうのもアレなので、うちの庭に移動。

 テーブルとか余計なものをどけて、戦える場所を作る。

 庭は小さめの道場ぐらいの広さはあるので、広さ的にさほど大きな問題はない。


 俺の装備は、ティトに剣だけ持ってきてもらって、それを使う。

 いつものショートソードだ。

 さやから抜いてみると、よく見たらその剣身は少し、刃こぼれをしていた。


 あー……ジャイアントアントの甲殻、結構固そうだったからなぁ。

 あれだけ大量に相手をして、しかもクイーンの特に固い甲殻までたたき切ったから、無理もないか。


「……そんな武器でいいのか?」


 俺から五メートルほど離れて対峙たいじする赤髪の女剣士が、バカにしたように聞いてくる。


「まあ、しょうがないだろ。こんな武器しか持ってないんだ」


「そうか。──一流の剣士は普通、扱う剣も一流のものを求める。そんな剣しか持ってないってことは、つまりそういうことか。──お前には少し、期待してたんだけどな。残念だよ」


 そう言って、アイヴィは両手にそれぞれ、一振りずつの剣を構える。

 左半身を前にした半身になり、左手のロングソードを横向きに置くようにし、右手のショートソードと交差させるような構えだ。


 アイヴィが構えた二振りの剣は、どちらも芸術品のように磨き抜かれた剣身を持っていて、それらの刃が陽光を受けて、淡く虹色に輝いているようにすら見えた。

 業物、あるいは魔法の武器というやつだろうか。


「ねぇダーリン、大丈夫……?」


「旦那さま……」


 庭の縁側の前で、メイド姿の二人が、不安そうに見守っている。

 いかん、目の前のポンコツお姉さんが、人類最強のソードマスターか何かに見えてきた。


「ちょっ、ごめん、タイム」


 俺はアイヴィに、待ったを要求した。


「はっ? えっ、いや、いいけど……」


「ん、サンキュー」


 俺は要求が受け入れられたことを確認すると、縁側前に立っているティトのもとに歩いてゆく。


「えっ……な、なんでしょうか、旦那さま……?」


「いや、今日のなでなで権を、まだ行使してなかったなと思って」


「……はい?」


 俺はメイド服姿のティトを左腕でそっと抱き寄せて、ホワイトブリムを身に着けている少女の頭を、右手でなでなでした。


「ふえっ……ふえええええっ!?」


 メイド姿のティトが、ぼひゅっと顔から湯気を噴く。


「なっ……! 何してるんだよお前……!?」


 後ろから、アイヴィの悲鳴のような声が聞こえてくる。


「何って、なでなで権の行使だよ」


「な、なでなで権……?」


 ──説明しよう!

 なでなで権とは、ティトが俺に、毎日その頭をなでなですることを認めた権利のことである!


 昨日の朝に酒場で許諾されたこの権利は、神聖にして不可侵。

 何人たりとも、これに異議を唱えることは許されない。


 そして俺はいま、今日の分のなでなで権を行使した。

 それはまったくもって、正当な権利の行使なのである。


「だ、旦那さま……いけません、このような場所で……」


 ティトはそう言いながら、ひしっと俺の胴に抱き着いてくる。

 ノリノリだった。

 ていうかその演技ロールプレイ、いつまで続けるの?


「あー、ティトっちばっかずるい! ダーリンあたしもやって!」


 そう言ってパメラも頭を差し出すので、俺は左手をティトの背から外し、パメラの栗色の髪をなでなでする。


「えっへへー♪」


 ミニスカメイド姿のパメラは、そこに尻尾があったら絶対パタパタ振ってるだろという様子で、うれしそうになでられていた。

 あー、くそ、こういうときのパメラは普通に可愛いから困る。


「なっ、なっ──何やってんだよ!? いま戦うって話だったよね? ねえ?」


 赤の剣士さんからの突っ込み。

 正常な反応をありがとう。


「ああ、悪い悪い。ちょっとこっちのペースってやつを補充したくてな」


 俺はティトとパメラを放すと、元の立ち位置に戻った。

 そして無造作に、相手に向かって半身で立ち、刃こぼれしたショートソードの剣身を肩に置いて、空いているほうの手でちょいちょいと手招きする。


「──じゃ、始めようぜ。いつでもかかってきな」


「くっ──バカにして……っ!」


 戦いのときは、相手をこっちのペースに呑み込むことが重要──かどうかは分からないが、気持ちの問題ってのは、何をやるにしてもバカにならない。

 自分が本来の実力を発揮し、相手に本来の実力を発揮させないことで、両者のパフォーマンスをも左右する──と、言えなくもなくもなくなくない気がするかも。


 まあ本音は、ちょっとムードを変えたかっただけだ。

 なんかちょっと負けそうな雰囲気だったんだもん。


 が、さすがに相手も一流の剣士だ。

 すぅと一つ深呼吸をすると、気負いも乱れもない、真剣な表情になる。


「──いつでもかかって来いと言ったね」


「ああ」


「じゃあ──行くよ!」


 言って、地面を蹴った。




 ──速い。

 赤い剣士は、瞬く間に俺の懐に踏み込んでくると、


「行くよ──流星剣!」


 両手の二本の剣で、怒涛どとうの連続攻撃を仕掛けてきた。


 まるで彼女の姿が、ぶれて見えるかのような素早い動きで、縦横無尽の斬撃と突きを立て続けに繰り出してくる。

 俺の目によるスローモーションで見ても、スローモーションのまま残像が残るような、流れるがごとき動き。

 これは、なかなか──!


 ──ガガッ、ガガガガッ、ガキンッ!


「──なっ……!」


 一瞬の攻防の後、いったん滑るように後退して距離を取ったアイヴィが、驚きに目を見開く。


「ボクの流星剣を、全部防いだ……!?」


 そう驚く赤の剣士さん。

 確かに俺の剣は、彼女の連続攻撃をすべて受け止め、はじき返していた。

 まあ速いとは言っても、こっちのほうがステータスは上だから、さもありなんだ。


 だけど今のは、こっちとしてもかなり、ドキドキものだった。

 あっぶねー、という感じだ。

 速さだけだったらこの人、ジャイアントアントのクイーンより上かもしれない。


 あるいはスキルの問題もあるのかもしれないが、とにかく今のはちょっとギリギリ感があった。

 もう何度かやったら、一撃ぐらいもらってしまうかもしれない。


 なら、その前に──

 と、思ったところで、アイヴィがニヤッと笑った。


「──だけど、剣のほうは、もたなかったみたいだね」


 えっ。

 そう言われて自分の剣を見ると、ひび割れた剣身は根元からぽっきり折れて、ぼろぼろに崩れ落ちていた。


 ……マジか。

 あの速さ相手に、受け太刀ができないのは、ちょい厳しいぞ。


「腕のほうは本物だったみたいだけど──悪いけど、それも実力のうちだ!」


 アイヴィが再び二刀を構え──俺に向かって突進してきた。


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