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RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第三章 赤の剣士、あるいは朝チュンと鬼畜とぬるぬる地獄
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お宅を拝見してみましょう

 俺たち三人は、ひとまず寝起きのままの姿で、家の中を見て回ることにした。

 着替えるなり何なりするにせよ、そのために適切な場所がどこかをまず知っておく必要がある。


 そうした結果、この家がなかなか見事な豪邸だということが分かった。

 二階建ての石造りの住居で、部屋数はトータルで十を軽く上回る。


 リビングが各階一つずつ、適度に広くて使いやすそうなキッチン、食堂、私室が五つ、例のキングサイズのベッドが置かれた寝室、客室、使用人室、広々としたバスルームに、果ては書斎や食料庫、物置のような部屋まである。

 また一階のリビングからは、燦々さんさんと朝日が降り注ぐ広い庭に出られるようになっていて、その庭にはちょっとしたテーブルと椅子が用意されていた。


 ひとまず俺、ティト、パメラの三人は、五つある私室の中からそれぞれ一つを決めて、そこを各自の部屋とした。


 ……なんか、当たり前のように三人で住むことになっているが、いいんだろうか。

 いつの間にかティトとパメラが、俺の運命共同体みたいになってる。

 それって、ほとんど結婚生活するのと変わらんのじゃないか? とか真剣に考えてしまう。


 というか、この家の所有権とか俺のものになってるっぽいんだけど、本当にいいのか?

 賭けの代償を払う予定だったのはパメラとティトなんだが、俺でいいのか?


 それにしても、わらしべ長者どころの話じゃない。

 贈与税とか、固定資産税とか掛かるんだろうか。


 根っこが小市民の俺は、そんなことばかり考えてしまう。

 異世界に来ても、チート能力もらっても、そうそうすぐに根っこの考え方が変わるものでもないな。




 各自何となく着替えたり、庭の井戸でんできた水で顔を洗ったりしてから、朝食をとる。

 食材を市で買ってくると、ティトが鮮やかな手並みを見せて、あっという間に朝食に仕立ててしまった。


 メニューはパンとスクランブルエッグ、ボイルしてから焼き目を付けたウィンナーに、レタスときゅうり、カットしたリンゴ。

 食卓についたのは、俺とティト、パメラ、そしてフィフィの三人と一匹……っていうとフィフィが怒りそうだから、四人と表現しておこう。


 長方形のテーブルの長辺側の真ん中に俺が着席すると、その対面にティトとパメラが並んで座った。

 ……なんだろうな、この一家の大黒柱的なポジション。


「──ん、うめぇ!」


 パメラがそう言って、目の前の食事にがっつき始めた。

 俺もスクランブルエッグをフォークでひとかけ取って、口に運ぶ。


 ──む、確かに。

 見た目の段階で焼き加減が絶妙だとは思っていたが、味付けも濃すぎず薄すぎず、ほのかにバターの風味も効いていて、実に俺好みの味だった。


 次はウィンナーをかじる。

 パリッと香ばしく表面が焼いてあるが、焦げているというわけでもない。

 パーフェクトだ。


 当たり前のことが当たり前にできているだけ、という見方もできるが……一応、元の世界では一人暮らしをしていた俺には、それがどれだけ難しいことか、それなりにわかっているつもりだ。


「うん、うまい。これだけの料理をパパッと作れるんだから、ティト、いいお嫁さんになるよ」


「わかる。あたしもティトっちお嫁さんにほしいもん」


 俺の意見に、パメラも賛同する。

 しかし、パメラお前……いやまあ、こいつに関してはもう、何も言うまい。


 ついでにちらっと、パメラとティトが百合百合しているところを想像してしまう。

 ……うん、悪くないな。


「べ、別に、料理っていうほどのことはしてないですし。見習い時代、お師匠様の食事をずっと作っていたから、少しできるだけです」


 ティトは褒められて照れたのか、顔を赤くして、フォークでスクランブルエッグをかき混ぜている。

 可愛いなぁ。


「可愛いなぁ、ティトは」


「──はいぃっ!? か、カイルさんっ……!? ……そういうの、不意打ちで言うの、やめてください……」


 つい、思ったことが口に出てしまった。

 ティトがさらに赤くなって、身を小さくしてしまう。


「朝食と一緒に食べちゃいたくなる可愛さ」


「も、もうっ、やめてくださいっ! ……本気にしますよ、そういうことばっか言ってると……」


 今まで本気にしてなかったのか。

 しかし、ティトが本気にするとどうなるのかと考えると、若干怖い。


 と、その俺たちの様子を、パンを頬張ほおばりながら横目に見ていたパメラが、それをごくんとのみ込んでから、言葉を発する。


「ところでさ、このフェアリー──フィフィだっけ? こいつダーリンの何なのよ」


 パメラの話題転換は強引だった。

 空気読む気ないな、こいつ……。


 それにしても今更フィフィの話題か、と思ったが。

 よくよく考えてみれば、パメラが加入してからこっち、フィフィはわりとずっと、俺の服の中で大人しくしていた気がする。


「まあ、お気になさらずっす。うちはあくまでも、ご主人様の案内役ナビゲーターっすからね。目立たないように、影にひそむ者としてひっそり生きていくっす」


 フィフィはそう言いながら、大きすぎるウィンナーを両手で持ってはぐはぐと齧りながら、口元を食べかすでべとべとにしている。

 影にひそむ者のイメージとは、だいぶかけ離れている気がした。




 ──とまあ、そんな具合に楽しい朝食を終えた俺たちだったのだが。

 俺はその段階で、一つ忘れていたことを思い出した。


 昨日のクエスト報酬の分配についてだ。

 差し当たって俺の財布に入れてしまったので、ティトとパメラは、昨日の活動による報酬を、まだ銅貨一枚たりとも受け取っていない。


 俺は食事後のテーブルで、その話を切り出した。

 すると、食事後の食器を重ねていたティトが、なんだか難しい顔をする。


「ほとんどカイルさんの働きで得たクエスト報酬ですから、受け取れません。私なんか、おりしてもらってただけだし……」


 俺も金に困ってるわけじゃないし、とりあえず後腐れなく三等分を提案したんだが、綺麗に突っぱねられた。


 うーん、まあわからんでもないが、その理屈で行くと、ティトは今後、俺と一緒に活動する限りは文無しになってしまうわけで。

 それは俺が困る、っていうか嫌だ。


 ちなみにパメラは「え、もらえるモンはもらうよ?」とさっぱりしたものである。

 こいつはまあ、いいとして。


 うーん……どうするか。

 ティトは、「とりあえず、この食器洗ってきますね」と言って離席しようとするが──


「──それだ」


「はい?」


 そうだ。

 あのぽっちゃりさんの勝ち報酬は、俺が欲しかったのだ。


 俺はテーブルを回り込んでティトの前まで行くと、その両肩をがしっとつかむ。


「ティト!」


「は、はいっ!?」


 今こそこの想いを解き放つ時だ。

 とどろけ、我が欲望!


「──キミを、俺の身の回りの世話をするメイドさんに任命する!」


「えええええっ!? やったー!」


 ……あれ、なんか会話おかしくね?

 まあいいか。


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