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RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第二章 巨大蟻退治、あるいは少女たちのメイドさんご奉仕を賭けた戦い
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まったく健全な帰還

 さて、無事に女王蟻も倒した。

 討伐証明部位を回収して街に帰ろうとすると──その俺の前に、新たな障害が立ちふさがった。


「ダーリン~、これネバネバするよぉ~」


「ううっ……ねちょって、ねちょって……」


 女王蟻の口から吐かれた粘液を全身に浴びたパメラとティトは、物理的に坑道の道を塞ぐ障害物だった。

 地面にも粘液が、たっぷりと水たまりのようになっていて、歩いて通るだけで靴の裏がねちょねちょになること必至である。


「ううっ……ダーリン、助けてよぉ……あたしこのままじゃ、お嫁に行けないぃ……」


 パメラが、ねちょっ、ねちょっと、ネバネバの地面を懸命に歩いて俺に近付いてくる。


 まあ確かに、その格好でお嫁に行ったら、確実に相手に逃げられるとは思うが……。

 それ以前の話として、助けを求めるように両手を差し出し、全身ネバネバ姿でゾンビのようにゆっくりゆっくり近付いてくるパメラの姿は、単純にちょっと怖い。


「……よ、よし、パメラ、落ち着け。とりあえずこっち寄るな」


「えっ、ダーリン酷くない?」


「安心しろ、俺はパメラに対してはいつだって酷い」


「Σ( ̄□ ̄;」


 俺が自明の理を口にすると、パメラは顔文字のようになって、その場でフリーズした。

 許せ、今はお前に構っている場合ではないのだ。


 そして俺は、もう一人の問題人物に、視線を向ける。


「ううっ、カイルさん……ネバネバが、服の中まで……き、気持ち悪いです……」


 ティトの方はもう、完全にあかん感じだった。

 全身ドロドロになったローブ姿が、両手でぎゅっとにぎった杖に寄りかかって、もじもじとしている。


 赤らめた顔とか、妙に悩ましげな吐息とか、何かと良くない。

 放送コード的に良くない。

 パメラはなんか大丈夫な気がするが、ティトはヤバい。


「なあ、ティト──街に帰って、宿で風呂に入るまで、我慢できるか?」


「んっ……で、でも、我慢するしかない、ですよね……?」


 ティトが相変わらず、悩ましげにもぞもぞしながら、聞き返してくる。


 いや、方法がないでもないんだよな。

 二種類の魔法属性を組み合わせることで使えるようになる合成魔法っていうのがあって、それを使えば、何とかできなくもない。


 例えば今ここでチートポイント切って、水魔法と土魔法をそれぞれ2レベルで取れば、炎属性との合成魔法でこの場に風呂を作れるし。

 風魔法も取れば、同じく炎との合成魔法で服を乾かすための温風だって出せるようになる。


 ただその使い方って、どことなく浪費感があるんだよなぁ。

 このためにチートポイント5ポイント消費するのは、ちょっと重い、気がする。


「──まあ、そうだな。気持ち悪いだろうけど、街までそのままで我慢してくれ」


「……はい、しょうがないですよね」


 結果、俺は心の中でティトにごめんねと謝りつつ、ほんのり嘘をついた。


「ただ、その代わり──」


「──きゃっ!」


 俺はティトの手を取って、ネバネバ地帯から、自分の方へ少女の体を引っ張り寄せた。

 そして、


「えっ、ちょっ、ちょっと、カイルさんっ……!」


「街までは、俺が抱っこして運ぶから」


 俺は片腕でティトの軽い体を、腰回りに腕を回して持ち上げた。


「ふえっ、ふえええええっ!?」


「靴の裏ネバネバで、歩きづらいだろ?」


「そ、それは、そうですけど……そうです」


 ティトは観念したように、俺の首周りに両腕を回してきて、コアラのように捕まってくる。

 ん、これでよし。

 俺の体にもネバネバが付くけど、これはしょうがない。


「パメラは、背中捕まれー。おんぶしてやるから」


「──あ、うん。わかった」


 フリーズしていたパメラが、動き出して、俺の背中にねちょっとしがみついてくる。


「えへへー、ダーリンの背中~♪」


 俺の背中におぶさったパメラは、ねちょねちょだけど、上機嫌だった。

 こいつはいつも幸せそうでいいな、うん。


「…………」


 一方、前に抱っこしたティトの方は、完全に沈黙して、耳まで真っ赤になっていた。


 俺は二人を抱えたまま、ネバネバ地帯をジャンプして飛び越える。

 飛行能力で浮いてもいいんだけど、一応その辺の能力は、二人にはまだ秘密にしておく方向で。




 そうして、実にどうでもいい障害をクリアした俺は、そのまま炭鉱を出ようとした。

 すると、途中の坑道で、ぽっちゃりさん一行に出会った。


「──にょわあああああっ!?」


 ぽっちゃりさんは俺を見るなり、飛び上がるように驚いた。


「な、な、なんでジャイアントアント退治していてそうなるのだぁあああっ!?」


 ぽっちゃりさんはまた、俺をビシッと指さして叫んでくる。

 なるのだぁ、なるのだぁ、なるのだぁ……と静かな坑道内にエコーが走った。


 しかしこのぽっちゃりさん、何をそんなに興奮しているんだろうか。

 今の俺に、そんなにおかしなところがあるだろうか。

 俺は自分の姿を見直してみる。


 なんか粘液的なモノで全身どろどろになった美少女を二人、体に張り付かせている自分がいた。


 ぽっちゃりさんの反応は、やっぱり正常だった。


「あー……えっと、お構いなく」


 俺はそう言って、ぽっちゃりさんをスルーしようとする。


「ちょっ、ちょっと待て! ど、どこへ行くのだ!?」


「どこって……街に帰るんだけど。こいつらべとべとのままにしておけないし」


「まだ街の門が閉まるまでに、しばらく時間はあるのだぞ!?」


 ……あっ、そうか。

 普通の発想だと、門限ギリギリまで粘って、ジャイアントアント退治を続けなきゃおかしいのか。

 この界隈のジャイアントアントはほぼ退治しつくした、なんて、普通分かんないもんなぁ。


「……まあ、やるべきことはやったと思うんで。別に先に帰ったから失格とかないんだろ?」


「それはないが……そ、そうか、もう体力も魔力も尽きて、帰還するよりほかにないということか。ぐふっ、ぐふふっ、まあそれならば仕方あるまい。明日からが楽しみだわい、ぐふふふふ……」


 ぐふぐふ言うぽっちゃりさんを今度こそスルーして、彼らの横を通り過ぎる。


「…………」


 その俺の姿を、赤髪の女剣士が、無言で睨みつけていた。

 ……えっと、何だろう、何かすごく重大な勘違いをされてる気がするな。


 まあいいや、なるようになるだろう。

 俺は坑道を出て、街へと帰還した。


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