炭鉱にやってきました
街を出て東にしばらく歩くと、目的地の炭鉱にたどり着いた。
鉱山に穿たれた幅広のトンネルには、その奥に向かってトロッコを走らせるための線路が敷設されている。
すでに廃坑となったその場所には、人の姿は見当たらない。
「連中はもう、中に進んでるんだろうけど……ねぇ、ホント大丈夫かなダーリン……?」
パメラがトンネルの奥をのぞき、不安そうに言う。
まあ、確かに先行されているのは、ちょっと不利かもしれない。
「──いや、もう無理だな。挽回は不可能だ。パメラはもう、あのぽっちゃり貴族のメイドをやるしかないな」
「えっ、ダーリン!? ちょっ……えっ、ええっ!?」
「──というのは、もちろん冗談だが」
「だ、ダーリンの冗談、分かりにくい! 怖いからホントやめてそういうの!?」
そう言って俺にしがみついて、涙目で訴えてくるパメラ可愛い。
守りたい、この泣き顔。
と思っていたら、横からティトが手を取ってきて、
「……カイルさん、そういう冗談はやめてください」
こちらも涙目になっているティトに、わりと本気で怒られた。
ううむ……。
「──けどパメラ、一体見たら百体ってことは、一時間やそこらで退治しきれる数でもないんだろ?」
「そりゃもちろん、そうだよ。ジャイアントアントの群れをあらかた掃除するには、何個かのパーティで取り掛かって、一日がかりの仕事になるのが普通だし」
ふむ。
だったらまあ、この数十分程度の遅れは、致命的な不利というわけでもない。
「ひとまず進むか。──ティト、灯り頼める?」
「えっ……あ、はい」
ティトは少し首を傾げつつ、呪文を唱える。
「我が掲げし、かの杖の先に、小さき灯火を……」
ティトの呪文が完成すると、少女が持っている杖の先に、青白い蛍光灯のような魔法の灯りがともった。
俺たちはその灯りを頼りに、炭鉱のトンネルの奥へと進んで行く。
──さて、何かあっても嫌だし、今のうちにアレは取っとくか。
俺は脳内でスキル選択操作を行ない、「暗視」のスキルと、「生命感知」のスキルを取得する。
ともに、チートポイント1ポイントの消費で、取得可能なスキルだ。
「暗視」は、光のない場所でも目が見えるというスキル。
まったく外の光の届かないような炭鉱の奥底で、何らかのアクシデントで万一ティトの魔法の灯りが消えてしまっても、俺に関しては視界の確保には困らないというわけだ。
ちょい地味だけど、これもまあ、持っておいて損はしないだろう。
で、もう一方は、これからたっぷり役に立ってもらう予定のスキルだ。
後々、嫌でも紹介することになると思う。
「……ところでカイルさん」
「ん? なに、ティト?」
準備が済んだ後、俺を先頭に坑道を歩いていると、ティトが後ろから声を掛けてきた。
後ろを見やると、ティトは灯りのともった杖をぎゅっと握って、何やらもじもじしている。
「あの……ひょっとして、ステータス鑑定のスキルとか、持ってます……?」
「ああ、うん、持ってるけど」
「……私のステータス、見ました?」
「まあ、見たけど」
ああ、ティトが光魔法を使えることを俺が知ってたのが、気にかかってたのか。
なるほどなーと思っていると、銀髪の魔術師少女は、かああっと顔を赤くしてうつむき、
「……えっち」
と、そう言ってきた。
……はて?
俺は胸元のフィフィに聞く。
「え、なに、そういうもんなの?」
「そういうもんっす」
……そうか。
そう言われると、なんかそんな気がしてくるから不思議である。
とりあえずこれからは、女子のステータスを見ても黙っていることにしよう。




