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RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第二章 巨大蟻退治、あるいは少女たちのメイドさんご奉仕を賭けた戦い
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AランクとFランク

 ぽっちゃりさんのパーティがクエスト受領後、同じ貼り紙を受け取った俺たちも、ジャイアントアント退治のクエストを受領する。

 パーティ登録とか、俺のギルド証の受け取りとか、いろいろと手続きがあって、地味に時間がかかった。


「はい、こちらがカイルさんのギルド証です。お受け取りください」


 昨日の噛み噛み受付嬢から、ギルド証を受け取る。

 しかし、この人に会うと、また噛まないかなと、つい期待してしまうな。

 その俺の視線に気付いたのか、受付嬢は顔を赤くして、


「……もう、昨日のことは忘れてくださいよぉ」


 なんて拗ねた口調で言ってきた。

 可愛い。


 ちなみにギルド証は、きっとオーバーテクノロジーっぽい魔法的なカードが出てくるんだろうと思っていたら、実際に出てきたのは、ただの木のふだだった。

 文庫本より少し小さく、キャッシュカードより少し大きいというぐらいの大きさの木の札に、名前と冒険者登録番号、それに加えてでかでかと「F」の文字が記されている。

 アレだな、銭湯とか居酒屋の靴箱で抜き取る、鍵代わりの木札に似てるな。


「え、なになにダーリン、ランクアップでもしたの? Sランクにでもなったとか──」


 パメラがその俺の様子をのぞき込んでくる。

 そして、俺の冒険者証を見て、その顔が固まった。


「え……えふ……?」


「おう。昨日冒険者になったばっかりだ」


 パメラは首を傾げ、そのまま壊れた人形のように固定した。


「ぐっふふふふ! どれほどのものかと思えば、よもやFランクとはな。これはもう、お前たちは僕ちんのメイドになったも同然だな」


 すぐ近くで様子を見ていたぽっちゃりさんが、そう言いながら俺たちの方に近寄ってきて、ティトの肩に手を置こうとする。

 が、ティトは一歩身を引き、その手を回避。

 そしてすがるように、俺に身を寄せてくる。


 ぽっちゃりさんは、少し不愉快そうな顔をしながら、


「……ふんっ、まあいい。せいぜい明日からを楽しみにしておくのだな」


 そう言い残して、ぐーっふっふっふと高笑いをしながら、仲間の冒険者たちとともにギルドを出て行った。




 パーティ登録などで、ぽっちゃりさんたちより少し遅れて街を出る俺たち。

 門でクエストの話をして、街の外に出ようとする。

 すると、ドワーフ門番のリノットさんは、勝負の話をぽっちゃりさんから聞いていたらしく、呆れたように言ってきた。


「──『赤の剣士』って、名前ぐらいは聞いたことがないか?」


 そのリノットさんの言葉に真っ先に反応したのは、パメラだった。


「なんだよリノっち、やぶから棒に。そりゃあ、『赤の剣士』っつったら、あの有名なAランク冒険者だろ? 会ったことはねぇけど、この辺で冒険者やってるなら、名前も知らないってのはモグリだろ。なあリノっち、あたしのことバカにしてる?」


「リノっち言うな。──やっぱり気付いていないようだから教えておいてやるが、あの貴族についていた赤髪の女剣士、あれが『赤の剣士』だよ」


「……へ?」


 リノットさんの言葉に、パメラの目が点になる。

 いや、まあ、そんなことだろうと思ったよ。


 でも、あの程度の強さで、名前が知れ渡るレベルなのか……。

 ひょっとして、俺のステータスって現段階で相当アレな感じなんだろうか。


「まあ、やれるだけやって来い。だが命あっての物種だ、無理はするなよ」


 そう言って送り出してくれるリノットさんに手を振って、街道へと出る。




 街を出てしばらく、パメラは口から魂が抜けたように、ふらふらとゾンビ歩きをしていた。

 が、街が背後に小さく見えるようになってきた頃、はたと覚醒する。

 そして、俺の前に回り込むと、俺にしがみつき、泣きついてきた。


「──ど、どどどどどうしようダーリン~! ねぇどうしよう~! ヤだよ~、あんなやつのメイド一ヶ月もやりたくないよ~!」


 俺がFランク冒険者、相手がAランク冒険者だというのを知って、一気に弱気になったパメラだった。


 ちなみにティトはと言うと、街を出てからずっと、


「……私の王子さまは負けない……絶対負けない……カイルさんは私の王子さま……ちょっと変態だけど王子様だから……だから大丈夫……あんな豚に……絶対そんなことないもん……絶対にないもん……」


 などと延々ループでつぶやきながら、うつむき加減で歩いていた。

 暗いし怖いし目が危ない。


 俺はとりあえず、パメラをなだめにかかる。

 俺の胴回りにしがみついているところを、頭をなでこなでこして、


「大丈夫だって。『赤の剣士』より、俺の方が強いから」


 そう言ってやる。

 間違ったことは言ってないと思うんだが、これだけ聞くと単なる自信過剰ちゃんみたいだな。


「……ほ、ホントに?」


「ホントホント」


 涙目で不安げに見上げてくるパメラを、少し強くなでてやって、安心させてやる。

 そろそろ頭なで魔と呼んでもらっても、一向に構わない。


 そして、ふと気づくと、ティトが後ろから、じーっとその様子を見つめていた。


「……ティトも、やろうか?」


 俺が聞くと、ティトは三角帽子を乗せた頭を、こくんとうなずかせる。

 そして、てってってと俺の前に来て、帽子を取って、頭を差し出した。


 そしてなでてやると、ティトの口元がえへらっと緩んだ。

 ──うん、あれだ、やっぱりこの日常は、手放せないな。


「よし──やるか」


 俺は一つ、気合を入れ、片腕でティトを抱き寄せる。

 驚いた顔で俺の胸元に抱き寄せられたティトは、次には赤くなってうつむく。


 街道の対面からやって来た、野菜を乗せた馬を引く農家風のおっちゃんが、通り過ぎるときに「チッ」と舌打ちしていった。


 ……うん、ごめんなさい。

 ちょっと調子に乗りました、ホントごめんなさい。


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