両手に花状態で冒険者ギルドに行ったら絡まれました
さて、妖精もどきを胸元に、美少女二人を両腕に従えた俺が、冒険者ギルドへとやってきましたよ。
……ま、間違ったことは言ってないよ?
ちなみに、ティトはさすがに、途中で恥ずかしくなったのか腕から離れようとしたのだが。
パメラが一向に離れようとせず「ねぇ、ダーリン」「何だよ」「えへへー、何でもない。呼んでみただけー」みたいな俺に対する理性破壊攻撃を繰り返しているのを見て、ティトも意地になって張り付き続けたという次第である。
結果、冒険者ギルドの目の前まで、そのままの状態で到着してしまった。
……どうしよう、これ。
「あのさ……そろそろ、離れない?」
「いいじゃん。見せつけてやろうぜ、ダーリン♪」
「み、見せつけてやりましょうっ」
わりと自然体な左腕のパメラに対して、右腕のティトはこれから最終決戦に行くんだとばかりに緊張していた。
腕に押し当てられたローブ越しの豊満な胸から、バックンバックン言っている胸の鼓動が伝わってくる。
「……特にティト。無理すんなよ」
「無理なんてしてません。こんなの普通です」
と言うわりに、声が上擦っている。
ああもう、後悔しても知らんぞ。
しょうがないので、そのままの状態で冒険者ギルドの入り口をくぐってゆく。
ティトがごくりと唾をのみ、それしかすがるものがないというように、俺の腕にさらにぎゅっとしがみついてくる。
……だから、ローブ越しの胸の感触がヤバいんだってば。
パメラのそれもぺったいわけではないのだが、ティトのそれが輪をかけて立派過ぎてヤバい。
そしてそんなことしか考えられなくなってる俺もヤバい。
ともあれ、そんな三人一体の形のまま、ギルドの建物内に入る。
昼過ぎに訪れた昨日と違って、朝のギルド内は、クエストを物色する冒険者たちでごった返していた。
特にギルドに入って右手側、掲示板の前あたりは、すごい人だかりだ。
一方、左手側の酒場エリアは、どちらかというと人が少ない。
それでもちらほらとテーブルについている冒険者らしき荒れくれたちがいるのだが──その中に、特に目立つ一団がいた。
四人の集団で、うち三人が男、一人が女だ。
女性は、綺麗な人だった。
年の頃は二十代中頃から後半ぐらいだろうか。
鮮やかな赤色の髪をポニーテイルにしていて、瞳の色もルビーのような赤色。
黒のアンダーの上に赤色の鎧を身に着け、姿勢よく椅子に座った姿は、どこかそれだけで絵になる感じだ。
一方、男のほう。
三人のうち、二人はその辺によくいそうな荒れくれ風の冒険者だったが、残る一人にインパクトがあった。
豚の体に豚の顔を乗せたような……あ、いや、豚ではないんだが。
でっぷりとした肥満体の体に、ぽっちゃりと横に膨らんだ顔が乗っている。
服装は、貴族が着ているような、無駄に煌びやかなやつだ。
そんな風に俺が一団を観察していると、右手側の掲示板の方から、一人の冒険者風の男が、その一団の方へと向かって行った。
男はクエストの貼り紙を持っている。
その男は一団が陣取っているテーブルに行くと、その貼り紙を一団に──主に貴族風のぽっちゃりさんに見せる。
ぽっちゃりさんは、妙に甲高い声で、男と話し始める。
「ふん、遅いぞ。僕ちんをどれだけ待たせるつもりだ」
「へえ、すんません。何しろあの人だかりなもんで」
「まあいい。で、クエストの内容は──なんだ、ジャイアントアントの退治? ふんっ、もっとこう、ドラゴン退治みたいな派手なクエストを持って来れんのか?」
「そういう依頼は、そう滅多にあるもんじゃないんでさ」
「言い訳ばっかりしおって。まあいい、ではさっさと行くぞ」
貴族風ぽっちゃりさんのその号令に合わせて、一団が席を立つ。
そして、ギルドの出口──俺たちのいる方へと向かってくる。
俺は、関わり合いになるとめんどくさそうなので、パメラとティトを引っ張って道を空けようとしたのだが──
「にょわあああああっ!?」
その俺を見て──だと思うんだが。
こっちに向かってきていた貴族風ぽっちゃりさんが、奇声をあげて跳び上がった。
「──お、お、おまっ、お前──何者だぁっ!?」
ぽっちゃりさんが、びしっと俺を指さしてくる。
彼が大声を出したせいで、ギルド中の視線が俺に集中した。
えっと……やっぱり俺?
何だろう、俺何か、おかしいところあるか?
自分の体を見てみる。
左腕には、健康優良児的な美少女が。
右腕には、羞恥で顔を真っ赤にした魔術師ルックの美少女が、へばりついていた。
オーケー、理解した。
貴族風ぽっちゃりさんよ、あんたの反応は正常だ。
「あー、えっと……お構いなく」
俺はそう言って、ぽっちゃりさんをスルーしようとする。
だけどぽっちゃりさんはスルーしてくれなかった。
「ぐぬぬぬぬぬっ……そ、そっちのお前!」
ぽっちゃりさんが、パメラを指さす。
「──あたし?」
「そうだ、お前だ。お前、そんな男は捨てて、僕ちんに雇われろ。お前のようなカワイコちゃんの冒険者なら、好待遇で雇ってやるぞ」
ぽっちゃりさんの提案は、なかなか清々しいものがあった。
しかしパメラは、
「ヤダ」
と、意外にも瞬殺で断った。
「何故だ!」
「なんかあんた、ザコっぽいし。ダーリンについてたほうが良さそう」
「な、なっ──じゃあ、そっちのお前!」
今度は、ティトに矛先が向かった。
「何ですか、豚さん?」
「お前、僕ちんの嫁になれ──って今なんて言った!? 僕ちんのこと豚って言った!?」
「はい。ちょっと何で服着て喋ってるんだか分からないんですけど。あといま何かふざけたこと言おうとしたようですけど、今すぐ舌噛んで死んでもらってもいいですか?」
ティトは豚──じゃない、ぽっちゃりさんに向かって、ひどく冷たい目を向けてそう言う。
……あれ、おっかしいなあ。
まだティトのこと、ちゃんと理解してなかったのかな、俺。
あはははは、こわーい、この子こわーい……。
「──むっきいいいいいいいいいっ!」
当然ながら、ぽっちゃりさんはお怒りになられた。
「貴様、僕ちんと勝負しろ!」
びしぃっと、再び俺を指さしてくるぽっちゃりさん。
……あー、ですよねー。
やっぱりこういうとき、矛先って俺になりますよねー。
俺あんまり悪いことしてないんだけどなぁと、心の中でひっそりと涙を拭う俺なのであった。
ぐすん。




