チンピラ美少女が仲間になりたそうにこっちを見ている
「ま、待ってくれ!」
二人と一匹(?)で冒険者ギルドへの道中を歩いていると、後ろからパタパタと駆け寄ってくる姿があった。
振り向いてみると、さっきの残念チンピラ美少女グラップラー、パメラだった。
通行人をよけながら走ってきたパメラは、俺のすぐ前で立ち止まる。
……えっと、まだ何か用あるの、この人?
「はぁっ、はぁっ……あ、あたし、決めたんだ……!」
息つき駆けてきた少女は、両ひざに手をついて屈んだ姿勢で、キラキラした瞳で俺を見つめてくる。
……あー、なんだろう、嫌な予感しかしない。
とりあえず、アレだな、先手打っとこう。
「断る」
「あたしをあんたの仲間に入れて、ってええええええっ!?」
よし、勝った。
俺は、話は終わったとばかりに背を向け、先を急ぐことにする。
「──ちょっ、ちょっ、ちょっと待って! 今あたしが何か言う前に断ったよね!? ねえ!?」
パメラがひしっと、俺の片腕にしがみついてくる。
「いや、気のせいだろ」
「気のせいじゃないぃぃっ! 酷いよ! ねえ、あたしの何が気に入らないの!?」
今までの流れで、何か気に入ってもらえると思う方がおかしいと思うよ?
「……はぁ。だいたい、なんでいきなり仲間なんて話になるんだよ。さっきまでお前、お礼参りだの何だの、俺のこと散々、目の敵にしてただろうが」
俺が呆れ半分でそう問うと、パメラは俺の腕から離れ、少し照れくさそうにしながら言う。
「それは、その……あたしに武術を教えてくれたお師匠様の、教えなんだ」
ほう。
なんかちょっとしんみりした話になってきたな。
こいつにも何か、やんごとなき事情があるのかもしれない。
「師匠の教え、か……。どんな教えなんだ?」
「ああ。お師匠様いわく──『長いものには巻かれろ』って」
「…………」
なんかお湯をかぶると女になっちゃうTS格闘家主人公の流派にありそうな教えだった。
……この子がダメなのは、おおよそその師匠に原因がありそうな気がしてきたな。
「ねえお願いしますぅぅ! あたし何でもしますからぁっ!」
少女は、今度は俺の胴回りにしがみついて泣きついてきた。
鬱陶しいことこの上ない。
──しかし、しかしである。
この女……いま何と言った?
「……いま、『何でもする』と言ったか?」
「うんっ。あたしにできることなら、何でもする! だからあんたの仲間に入れてよ!」
……ごくり。
俺は自分の胴にしがみついている少女を、ついイヤラシイ目で見てしまう。
少女の健康的に露出した素肌に視線を走らせ、息を呑む。
──いや、だって、しょうがないじゃん!
見た目だけなら、ティトに匹敵するぐらいの超絶美少女なんだもん!
……よし、いいだろう。
ならば、最終確認だ……。
「……キミそれは、女子が男子に『何でもする』と言ったとき、男子が何を想像するかを、分かって言っておるのかね?」
「……?」
口調がおかしくなった俺の質問に、少女はしかし、きょとんとして首を傾げた。
俺はがっくりと肩を落とす。
……あー、ダメだー、分かってないよこの子。
ダメだわー、天然だわー。
ちぇっ。
まあ、でも、いいか。
何でもするって言ってるんだから、何らか使いようはあるだろ。
そして何より、見た目は美少女だ。
一緒にいれば、少なくとも目の保養にはなる。
「……わかったよ。仲間でも何でも、好きにしてくれ」
「やった!」
俺の許可を得て、無邪気に喜ぶパメラ。
うーん、こういうところだけ見てると、可愛いんだけどなぁ。
「じゃあさじゃあさ、あんたのこと、『ダーリン』って呼んでいい?」
「なんでやねん」
素でツッコミを入れてしまった。
脈絡なさすぎだろ。
「お師匠様が言ってたんだ。気に入った男はそう呼んで、既成事実を作ってしまえって」
よし、一度その師匠ここに呼んで来い。
成敗した方が世のためだ。
「……まあいいよ、呼び方も好きにしてくれ」
「うん、好きにする。これからよろしくね、ダーリンっ」
そう言って再び俺の左腕にしがみつくパメラ。
なんかラブラブバカップルっぽくて気恥ずかしいが……うん、まあ、悪い気はしないからいいか。
「むー……」
その様子をふくれっ面で見ていたのは、魔法使い姿の銀髪少女だった。
そのティトと、パメラの目が合った。
パメラが、ニヤッと笑う。
ティトが、カチンときた顔をした。
ティトが、つかつかと俺の右手側に回ってきた。
そして少し葛藤した後、俺の右腕に、ぎゅっとしがみついてきた。
「…………」
ティトは何も言わない。
どころか、顔を真っ赤にして、全力で俺から目を反らしている。
……と思ったら、口元だけ、うへへっという感じで笑っていた。
そういえばそうだったね、この子……。
で、結果だけ見れば、両手に花だった。
外見だけ見れば、超絶美少女たちが俺を取り合っている絵面だった。
「あ、姐御~! パメラの姐御~!」
そんなとき、背後から野太い男の声が聞こえてきた。
例のチンピラ男の二人組が、こっちに向かって走って来ていた。
「……あんだよお前ら、ついてくんなっつったろ」
パメラが俺の腕から離れ、自分の両腰に手を当ててふんぞりかえり、チンピラ男たちの前に立つ。
「で、でも姐御……俺たち、姐御がいなくなったら、もうどうしたらいいか……」
弱気のチンピラたち。
しかしパメラは、チンピラたちに向かって行くと──
「──バカ野郎!」
バキッ、バキッ。
チンピラたち二人を殴った。
え、何それ酷い。
「人に頼ってんじゃねぇ! 自分の人生だろ! 自分で切り拓かなくて、どうすんだよ!」
パメラはチンピラたちに説教した。
……うん、その言葉、お前が言ったんじゃなければ、いい言葉だったかもな。
──と思ったのだが、しかし、
「あ、姐御……! そうっすよね……俺たち、間違ってました! 自分の人生は、自分で切り拓きます! ありがとうございます!」
チンピラたちは何故か感動し、パメラに頭を下げると、うおおおんと泣きながら走り去っていった。
……そういえば、あいつらのINT、相当低かった気がするな。
「──よし、んじゃ行こうぜ、ダーリン♪」
パメラはケロッとそう言って、再び俺の腕に抱きついてきた。
ここに、人類史上最高のクズを見た気がした。




