格差
──カイル視点──
さて、なんかお取込み中のところに、颯爽と登場してみたわけだが。
正直なところ、状況があんまり分かってなかった。
ひとまずキッカたちがピンチっぽかったのでダッシュですっ飛んできて助けてはみたものの、はてさて何がどうなっているやら。
「あー、よく分からんが、お前が悪者ってことでいいのか?」
白髪の少年に向かって、そんなバカっぽい質問をしてみる。
でもまあ、何か聞けばその分、きっと何かしらの反応をしてくれるだろう。
「……キミ、何者? 僕の『針刃雨』を弾いたさっきのアレは、キミの固有スキルだよね」
少年は、俺を鋭く睨みつけつつ、そんなことを聞いてくる。
うーん、質問に質問で返されても困っちゃうんだけどな。
「えっと……あれはまあ、雨具だな」
「あま──何だって……?」
「『快適万能傘』のことだろ。雨除け風除け、キャンプとかに便利だから取ったんだけど、案外使い勝手いいもんだな」
『快適万能傘』は、外部からの弱い干渉を任意で防ぐことのできるアイテムであるが、何が「弱い干渉」であるかの判定は、使用者のVITの高さに依存するらしい。
そして、あの少年が放ったナントカカントカいう攻撃は、その効果で十分に弾ける程度の威力だった。
この『快適万能傘』、広範囲を防御したいときに使えるアイテムとしても、なかなかに優秀なのかもしれないな。
一方、俺の返事を聞いた少年は、口元をつり上がらせて歪んだ笑みを浮かべる。
「へぇ……キミの固有スキルがどの程度のものかは分からないけど、これだけは分かるよ。──キミ、僕と同類だね。自分をほかの誰よりも優れていて、ほかのすべての者を見下していて、誰も彼も取るに足らない虫けらだと思っている。──ようやく出会えた気がするよ、僕の本当の同類にね。すごく不愉快だけど……面白い」
そう言って少年は自己完結した。
だが、それはちょっと待ってほしい。
「いや、違うと思うぞ……? 俺なんて最近、自分のクズさを知ってばっかだし、愛しの嫁たちに助けてもらったり手の内で転がされたりにゃんにゃんしたりしてるし、わりと自分の人間としてのしょぼさを思い知らされてばっかりだぞ」
「ははっ、心にもないことを。そういう偽善で人の印象を買おうとするところもまた、『らしい』んだよ」
「…………」
決めつけ系キタコレ。
まあ偽善ってのも完全に大外れってわけじゃない気もするが、でも少なくとも本心ではあるんだけどな。
「──まあいいさ。いずれにせよ、キミと僕みたいなのは、お互い決着をつけないと済まないんだ。それにさっきので、僕に勝ったつもりでいられても困る。さっきのはただの『針刃雨』──つまりキミは、そこのお爺ちゃんと同じ土俵に立ったに過ぎないんだ」
そう言う少年の周囲に、キラキラとした輝きが舞い始める。
透明のガラスのナイフが無数に現れたようなそれは、さっきキッカたちに向けて放ったのと同じ攻撃だろう。
ただそれらに、少年の「装甲貫通」という声とともに、さらなる光が纏わされる。
「さあ、とくと味わうがいい。僕の固有コンボスキル──『殺戮刃雨』の力をね!」
少年は、周囲の輝きを俺に向かって一斉に射出した。
少年の位置から扇状に、俺の逃げ場をなくすように。
──でも、あいつ多分、勘違いしてるよな。
俺は『快適万能傘』の防護膜へと迫る刃の雨を、のんびりと見守る。
そして──
──カンッ、カカカンッ!
さっきと結果はまったく変わらずに、『快適万能傘』の防護膜は、刃の群れを問題なく弾き返した。
「なっ……! ば、バカな、どうして……確かに『装甲貫通』を乗せたはずなのに……!」
驚く少年。
やっぱり分かってなかったか。
俺は少年に、分かりやすく説明してやる。
「あー、あのさ、さっきの『装甲貫通』って、対象の防御力を75%カットするスキルだろ。この『快適万能傘』の防御って、厳密には『攻撃力が一定値以下の攻撃を弾く』って性能だから、これ防御力の扱いじゃないんだわ。ってことで、悪いけど『装甲貫通』は意味ない。残念だったな」
「なっ……なんだそれは……意味の分からないことをペラペラと……!」
「あとさ、もう一つ言っておくと。昔読んだ漫画にこういうセリフがあってな──」
俺は地面を蹴って、高々と跳躍する。
「なっ……き、消えた……? 一体どこ──上っ!?」
少年が頭上を見上げたときにはもう遅い。
俺は少年にカカト落としを入れるべく、少年の頭上、目の前まで迫っていた。
少年の姿が、その場から掻き消える。
おや、さっきまでの様子からは考えられない敏捷性──っていうんじゃないよな、これは。
ともあれ俺のカカト落としは、空を切り、その下の地面へとめり込む。
地面がひび割れ、同時に直径一メートルほどの小さなクレーターができた。
そしてすぐ近くには、焦りの表情を浮かべている少年の姿があった。
俺は彼に向けて──何だっけ、何を言おうとしていたんだったか。
あ、そうそう思い出した。
昔読んだ漫画にあったセリフな。
「──『互角だと思うなら、やめておいたほうがいい。人間、自分に対する評価は甘いものだ』だったかな」
とある剣豪が、彼と戦いたがる別の剣豪に向けて放った言葉だ。
細部覚えてないから意訳だけど。
でも少年は、その言葉を聞いて、肩を震わせてくっくっと笑う。
額に汗を浮かべつつも、無理やり不敵に笑って見せてくる。
「……そうかい。キミはその身体能力とさっきの固有スキルとで、もう僕に勝った気でいるんだね。でもさっきのあのスキルは、効果範囲外部からの攻撃を防ぐスキルだろ? だったら内部からの攻撃は──」
少年の姿が、再び掻き消える。
それはもうAGL──敏捷性の値がどうこうじゃなく、文字通りその場から「消えて」いるんだと思う。
これはちょっとばかり厄介なんだよな。
次の出所が分からんし。
俺はひとまず、真上へと大きくジャンプする。
そして跳び上がりながら下を見ると、少年は俺の真後ろへと出現して、その周囲に例のキラキラ透明ナイフを展開しているのを確認した。
少年は、今度はすぐに上へと視線を向けてきた。
「──あはっ、対応してくるねぇ! でもこれでもう逃げ場はないよ! 落ちてくるところを狙えば、全身串刺しだぁっ!」
キラキラナイフの切っ先が一斉に、落下を始めた俺へと向けられる。
なるほど、確かにこれは普通よけられん。
「よく頑張ったけどねぇ──さようなら!」
透明なナイフの群れが、俺に向かって一斉に射出された。
そこで俺は、チートポイントを1ポイント支払って彼と同じスキルを取得し、使ってみせる。
俺は空中から、少年の真後ろへと瞬間移動した。
「……って、あれ……? あいつ、どこに消えた……?」
「あー、まあまあ使い勝手いいよな、このスキルも」
「うわあああああっ!」
背後から声を掛けられた少年は、びくっと跳ね上がり、慌てすぎて前に倒れて這いつくばった。
腰を抜かしたのか、尻餅をついてじたばたしながら、ようやく後ろを向いてくる。
「なっ……な……あっ……!?」
「そんなに慌てることないだろ。お前がさっきから使ってるスキル、これなんだろ?」
俺は尻餅をついた少年を見下ろして、そう言ってやる。
まあ半分は意地悪だけど。
「まさか、そんな……キミも、『瞬間移動』の使い手なのか……? そんな……僕以外に、このスキルを持っている奴がいるなんて……」
「まあまあの良スキルだよな。視界内の任意の場所に瞬間移動できる。一日に移動できる総距離に制限があるのと、一回使うと十秒のクールタイムが必要なのが難点といえば難点だけど、だとしても緊急回避に便利だしな」
「く、くそぉっ……!」
少年は、尻餅をついたまま視線をあちこちへと動かし、そしてまた俺の前からその姿を消した。
さて、今度はどこへ行ったかな──
「う、動くな! こいつがどうなってもいいのか!」
見ると、少年はキッカの背後に立って彼女を取り押さえ、例のキラキラナイフの先端を彼女へと向けていた。
そのうちの一本が、キッカの首筋に当てられているのが見える。
「ははっ、形勢逆転だな……! こいつの命が惜しかったら動くなよ、そして僕の『針刃雨』で全身を貫かれ──って、あれ?」
少年の目の前から、キッカが消え失せていた。
どこに行ったかというと、俺のすぐ目の前に来ていた。
さらに1ポイントを使って取得した『救助』のスキルで、俺の手元に呼び寄せたのだ。
「わおっ! これカイルがやったの?」
「ああ、怖かったか? もう大丈夫だ」
俺は褐色肌の少女の黒髪を、わしゃわしゃとなでてやる。
キッカは気持ちよさそうに目を細め、頬を赤らめる。
それから、今度は少年のほうを睨みつけて、
「カイル、あいつ悪いヤツ!」
「分かってる。あのぐらい爽やかなクズも珍しいぐらいだよな」
キッカを人質にしようとした少年は、今や部族の戦士たちのまっただ中にいた。
それは彼にとって、決して不利な状況ではないんだろうが──
「──おのれ、おのれおのれおのれおのれぇぇぇええええっ!」
少年は、キラキラナイフの群れを、今度は全方位に向けた。
「みんな死ね! 死んでしまえ! 殺戮刃──」
「それは困る」
俺は『瞬間移動』のスキルで少年の目の前に転移すると、すぐさまその腹に拳を埋め込んだ。
「かはっ……」
認識するより前に攻撃を叩き込んでしまえば、『瞬間移動』があってもよけられない。
少年の体が「く」の字に折れ曲がり、そして力を失い、ずるりと倒れた。
彼の周囲に出現していたキラキラナイフも、主が意識を失ったと同時に消失していった。
「ふぅ……やれやれ」
そうしてようやく一息だ。
俺は足元に崩れ落ちた少年を見て、人騒がせな奴だったなとため息をつくのであった。




