大所帯のハーレム旅
冒険者ギルドで情報収集ごっこを終えた俺たちは、一度家に戻り、旅の支度を整える。
そしてアイヴィ、フェリル、アルトも連れて、街を出た。
西へ向かい、ラッシュ鳥が棲息する平原を越えて、そのまま荒野へと歩を進めてゆく。
その荒野をしばらく進んでゆくと、そこにはもう、大岩が点在するほかは代わり映えのしない、赤茶けた大地が一面に広がっていた。
「いやぁ、それにしても、カイルのハーレムも、すごい大人数になってきたよね」
隣を歩く赤髪の剣士が、俺の左手を遠慮がちに握りながら、その場にいる全員を見渡して言う。
俺を含めて総勢六名という一行は、それぞれ思い思いの位置取りをしつつ、俺に付き従って歩いていた。
まず俺に張り付いているのが三人。
アイヴィが左手側、ティトが右手側につき、パメラは俺が肩車をしている。
パメラ一人肩車したところで、高いSTRやVITのおかげで別に重たくはない。
ちなみにこの三人の配置については、ティトとパメラによる議論の末に決定された。
遠慮するアイヴィには、ティトが何かを耳打ちして、それを聞いて真っ赤になったアイヴィがこくんとうなずいて、「じゃあやっぱりそこです」というティトの鶴の一声で配置が決定された。
なんのこっちゃと思ったが、『超聴覚』を使って聞くには期を逃したし、別に聞こうとも思わなかった。
なお、この三人のポジション取りについて何が一番ドキドキするかというと、無邪気に肩車をしているパメラの健康的な太ももであったりする。
娘相手に興奮しているパパ失格のパパの気分だ。
我ながら何言ってるのか分からんけど。
「……なぁダーリン、なんかさっきから鼻息荒くねぇ?」
そんな俺の様子に気付いたのか、パメラが頭上から聞いてくる。
ちっ、パメラのくせに鋭いな。
「そうか? きっと気のせいだろ。パパは娘を肩車して興奮したりなんてしないからな。すんすん」
「ひゃっ!? ──な、何やってんだよバカ! いまあたしの太ももの匂い嗅いだろ!? 変態! ド変態! だいたいあたし、ダーリンの娘じゃねぇし!」
「そうか、娘じゃなければ問題ないな。すんすん」
「ないわけあるかぁぁぁああっ!」
いきり立ったパメラが足でぐいぐいと首を絞めてくる。
でも悪いな、それもご褒美なんだ。
高いVITのおかげで苦しくもない。
そして一方、残る二人。
フェリルとアルトは、俺たちの後ろを少し離れてついてきている。
当然ながら、こいつらはそっけない。
「……いや、アイヴィ。少なくとも後ろの二人に関しては、ハーレムっていうのとは関係ないと思うぞ。どっちかって言うと俺、問題児の監督者の立場だろ」
俺が先のアイヴィの言葉にそう返答すると、赤髪のお姉さん剣士は一度きょとんとして、それからにんまりと笑った。
「んっふふー、そう思う? じゃああの二人が、嫌々カイルに付き従ってると?」
「……いや、そうだろ、どう考えても」
「ぷくくっ……うわっ、面白い。うわーこれ面白い」
アイヴィは何やら一人で楽しそうにし始める。
どうしたんだこいつ? ついにイカれたか?
すると今度は、俺の右手側についていたティトが、ひょっこりと前に顔を出して、アイヴィに話しかける。
「えっ、そうなんですか、アイヴィさん?」
「うん、そうなんだ。そっかこれ、ボクしか知らないんだ」
終始ニコニコしているアイヴィである。
一体何だ……アイヴィ、フェリル、アルトの三人で留守番をさせている間に、何かあったんだろうか。
すると、それを聞いていた銀髪黒ずくめの少女が、後ろから話に割り込んでくる。
「──アイヴィ! 絶っっっ対に言うなよ! それ言われたら僕もう死ぬしかないからな!」
「分かってるよ~。でも死ぬとか大げさだなぁ。確かにカイルは清純派が好きみたいだけど、大丈夫だってきっと。カイル優しいもん」
「だからアイヴィ……! だいたいそういうことじゃない! 僕の戦士としての矜持の問題だ!」
「あはは、はいはい」
……少し気になるけど、まあいい。
俺が聞いておく必要があることなら、アイヴィのほうから話してくるだろう。
「……こほん。そ、それはそうとカイル、『竜の谷』に行くって聞いたけど、本気か? ドラゴンに襲われるかもしれないんだぞ」
と、アルトが露骨に、話を逸らしにかかってきた。
まあいいや、乗ってあげよう。
「おう。っていうか、そのドラゴンとか、竜を崇める部族とかをどうにかして、『竜の谷』を危険な場所じゃなくするのが、今回のクエストの目的だ。ちなみに報酬は金貨二千枚な」
「にせっ……二千枚!? 金貨が!? 銅貨じゃなくて!? ちょっ、ちょっと待て……パン一個が銅貨一枚で買えるとして、パンが十個で銀貨になって、えっと……」
アルトが両手で指折り数えようとして、しばらくしてぽひゅーっと頭から湯気を噴いてフリーズした。
へなへなとその場に膝をついて、がっくりとうなだれる。
「……いや、パンで換算すると余計分かりにくくなるからやめたほうがいいぞ」
俺はUターンして、アルトに手を差し出す。
アルトは俺の手を取って立ち上がる──が。
「ふふっ……カイル、いま僕のことを、貧乏人で学のない底辺のクズだと思ったろう」
うつむき、自虐的に口元をゆがめた少女は、突然そんなことを言ってきた。
「いや、思ってないけど」
「ふっ、そうか……。カイル、キミは確かに優しいね。アイヴィの言うとおりだ。思っていても、僕が傷つくと思って口に出さないんだね」
「いや、違うよ?」
「なに、気にすることはない。キミは強者で、僕は弱者だ。キミには僕を虐げる権利がある」
「…………」
なんかこの子、初めて会った頃のアイヴィを思い出すんですけど。
なに、世のボクっ娘って、みんなこんなに人の話聞かない系なの?
違うよね?
確実にうちの子たちがピンポイントで残念なだけだよね?
一方、その様子を隣で、冷めた態度で眺めていたフェリルが、こちらも話に割り込んできた。
「人間たちの報酬の尺度なんてどうでもいい。……それより、そこにいる竜の格のほうが問題でしょうよ。竜族は、個体によっては私たち魔族とも互角に渡り合える存在。……どうなの? よもや古竜ということはないと思うけれど」
おお、まともな話だ。
さすがフェリルさん、伊達に魔族してない。
「さぁな、分からんらしい。ちなみにフェリルは、どのクラスの竜までだったら相手にできるんだ?」
ドラゴンはその成長段階に応じて、大きく四種類に大別されるらしい。
幼竜、若竜、老竜、古竜の四種類で、一般には年寄りのドラゴンほど強い。
ちなみに「幼竜」などと言っても、マスコット的な可愛らしい感じじゃなくて、もうその段階から全く可愛げのない大怪獣らしいが。
「ふん……幼竜や若竜クラスなら、一対一でやり合って負けることはまずないわね。けれど老竜クラスとなれば話は別……。カイル、あなたでも易々と勝てるとは思わないほうがいい」
「へぇ……」
老竜、古竜クラスだとすると、油断できなさそうだな。
ちょっと面白い。
と思っていたら、今度は頭上から、パメラが割り込んできた。
「はっ、どーせフェリルの負け惜しみだろ。ダーリンが負けるわけねーし。──な、ダーリン?」
「……やめてパメラ、そういうフラグ立てるの」
「……?」
怖い。怖いなパメラさん。
ちょっと油断すると負けフラグ立て始めるから困る。
フラグ管理はきっちりしていかないといかんと思うんですよ、はい。




