可愛いものを見たら
さっきまで座っていたカウンター席から、少女のいるテーブル席に、料理を移動。
少女の対面に席を取って、一緒に食事を始める。
魔術師風の出で立ちの銀髪の少女は、俺が同席してからずっと、顔を真っ赤にしてうつむきながら、フォークでサラダをつついている。
何というか、ほほえましい。
それにしても、目の前で見て、あらためて美少女だなーと思う。
やや子どもっぽい容姿とか仕草、小柄な体とかを見ていれば愛らしいなと思うのだけど、首筋とか、ローブの胸元から見える鎖骨あたりに目をやれば、ドキッとするほど艶っぽかったりもする。
一言で言って、可愛い。
二言で言って、超可愛い
そんな子と同席して食事しているだけで、なんかこう、幸せな気分になってくる。
世界に彩りが増した気がする。
「あ、あのっ……!」
少女がうつむいたまま、声をかけてきた。
真っ赤な顔で下を向き、目を合わせようとしてこない。
「うん」
俺は言葉少なに応答する。
彼女には悪いが、彼女がテンパっている分だけ、こっちに気持ちの余裕ができている気がする。
さもなければ、俺がこんな美少女を前に、平然としていられるわけがない。
「お、お名前、教えてもらってもいいですかっ」
相変わらず、目を合わせずに聞いてくる。
やばい、めちゃくちゃ可愛い。
頭なでなでしたい。
「俺はカイル。キミは?」
「わ、私、ティトっていいますっ」
少女──ティトは、もじもじしている。
可愛い。
そろそろ頭なでてもいいかな。
「じゃあティト──頭なでてもいい?」
あ、願望が口に出てしまった。
「は、はい、どうぞ……。──って、はい?」
ティトがびっくりした顔で、俺のほうを見てくる。
ようやく目が合った。
──さて、どうしよう。
選択肢1。
「やっと顔を上げてくれたね」と言ってにっこりスマイル、イケメン風に誤魔化す。
選択肢2。
「ティトがあまりにも可愛いから、頭をなでたくなった」と言ってにっこりスマイル、イケメン風にごり押す。
俺は脳内で、ピ、ピ、ピっとカーソルを動かし、最終的にカーソルは選択肢2で止まった。
──大丈夫だ、やれる。
今の俺には、イケメン補正がある……!
「ティトがあまりにも可愛いから、頭をなでたくなった。──いいかな?」
俺はそう言って、にっこりスマイル。
「ええっ!? えええええっ!? ──あ、あのっ……えっ、えっと……」
ティトは困惑して、しどろもどろになった。
よし、もうひと押し。
「じゃあそれで、さっき助けたお礼ってことで、どう?」
「ふぇええええっ!? あの、だって、それじゃあ……」
「なっ、頼む!」
俺はとどめとばかりに、手を合わせて拝み倒す。
そしてそれが、決め手となった。
「……わ、分かりました。そう言うなら……どうぞ」
許可が出た。
よし、勝った。
俺はこの手で勝利を、なでなで権をつかみとった。
俺は席を立ち、ティトの横に立つ。
そして椅子に座って緊張した彼女の頭を、なでなでする。
「はうぅぅ……」
銀髪の少女は、猫のように丸くなってゆく。
ぷしゅううううっと湯気を発しそうな勢いだ。
調子に乗った俺は、さらに空いている方の腕で、彼女の肩をやんわりと抱いてみる。
「──ふええっ!?」
そうして、頭がこてんと俺の胸に寄りかかったティトを、さらになでなで。
──それは例えるなら、天国だった。
この世のすべての幸福を集めたかのような、極楽浄土だった。
女神さま、ありがとう。
俺いま、幸せです。
しばらくして極楽のなでなでタイムを終えた俺が席に着くと、正面のティトが、上目遣いに俺を見ていた。
「……カイルさんって、意外と変な人ですか?」
「そう思う?」
「……はい」
まあ、初対面の女の子相手に、いきなりなでなでさせてほしいとか言う人間は、変な人以外の何物でもない気がする。
残念ながら、妥当な見方と言わざるを得ない。
「で、あの──カイルさんも、冒険者ですよね?」
ティトはしかし、すぐに話を切り替えてきた。
「ああ、まあ、一応は」
「ですよねっ。──私、冒険者始めたばっかりで、上の方のランクの人たちってどのぐらいかよくわからないんですけど、冒険者ランクA級とかS級の人たちって、みんなカイルさんみたいに強いんですか?」
んー……どうなんだろう。
その辺は俺も知りたい。
「俺も今日、冒険者になったばっかりだからなぁ。その辺はよくわからないな」
「そ、そうですよねっ。今日、冒険者になったばっかりだったら、分からなくて当然──って、ええええええっ!?」
ティトがガタッと立ち上がった。
大声を出したせいで、酒場中の視線が集まる。
……いや、騒動起こしたあたりから、なでなでしている間まで、ずっとチラチラされてたって説もあるが。
「じゃ、じゃあ……カイルさんも、Fランク冒険者ってことですか……?」
「おう」
「私もFランク……」
「お、一緒だな」
俺がそう言うと、ティトは椅子の上に崩れ落ちた。
「……は、はは……世の中には、いろんな人がいるんですね……村で神童とか言われて、ちょっと図に乗っていた自分が恥ずかしいです……」
ティトの目からは、魂が抜けていた。
口からエクトプラズムになって出ている感じだった。
しかし、ティトって結構すごい子なのか。
少し気になったので、ちょろっとステータス鑑定をしてみることにした。
見てみると、ティトのステータスは、こんな感じだった。
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名前:ティト
種族:人間
性別:女
クラス:メイジ
レベル:1
経験値:7,200/10,000
HP:45
MP:24
STR:5
VIT:9
DEX:12
AGL:11
INT:16
WIL:12
スキル
・獲得経験値倍化:4レベル
・炎魔法:1レベル
・水魔法:1レベル
・風魔法:2レベル
・光魔法:1レベル
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……ふぅん、という感じだった。
ステータスそのものは、何とも言えない感じだ。
それよりも気になったのが──獲得経験値倍化のスキルって、チートポイントの専売特許じゃないんだな。
でもそれだったら、みんな真っ先に取得するんじゃないだろうか?
それとも、取得条件が厳しかったりするんだろうか。
あとでフィフィに聞いてみよう。
──で、その後ティトとは、お互い若干緊張しながらも楽しく会食をし、しばらくしてお開きとなった。
「それじゃ私、冒険者ギルドに少し用事があるので、これで失礼しますね。──カイルさんも、ここの二階の宿ですか?」
「ああ。俺も、ってことは、ティトもこの宿か。案外、隣の部屋だったりしてな」
「あはは、まさかぁ。──それじゃ、今日はありがとうございました。おやすみなさい」
そう言って、銀髪の少女は三角帽子をかぶり、杖を手にして、勘定をしてから酒場を出て行った。
いやはや、楽しい夕食だった。
俺は自分も勘定をして、宿の部屋がある二階への階段を上がって行った。




