18話 雨②
ルニア(600歳くらい)本物の竜の最後の生き残り 神獣だけれど、竜の陰謀により竜の血は薄い。
止まない雨の音を聞きながら、避難キャンプのテントの中でアンジュはミルフィーのリボンを握りしめながら、雨の神獣の倒し方を考えていた。海の生物が川に上ってこれたということは「浸透」云々では倒すことはできない。そもそもどんな姿なのかすらアンジュには分からなかった。
【元気ないね、アンジュ。】
アンジュの枕元に白い蛇がとぐろ巻いていた。思わず声に出しそうだったが、グッと堪えて話を続ける。
【何でルニアがここに。それに蛇?】
【僕がこの世界に留まってる理由の父方の蛇の因子で、変化魔法の中でも1番簡単にできるんだ。人の姿をだと隠れられないし、本来の竜の姿は目立つからね。アンジュが死ぬかもって僕に呼びかけたから慌てて君の場所を探ってここに来たんだよ。】
【う、ごめん。】
【初めての偽りなしの友達だから。】
【ありがとう。多分俺にとっても初めての永遠の友達だよ。】
【照れるぅ。雨を司る神獣がいるみたいだけど、まさか倒すの?】
【ルニアは陽光を司ってるのなら、勝てる?】
【人間にとっては対に見えるかもしれないけど、別事象だからね。水を照らして雨を作るくらいなら出来るけど、雨雲を晴らすことはできないね。】
【…そう、だよね。】
【解決できるまでそばにいるよ。神獣なんだもん。僕の神獣知識が役に立つかも。】
白蛇の表情は分からないが、伝わる思念は朗らかで楽しそうだった。
【タラリアのことも、速さを司る神獣の血筋のことはどこまで知ってる?】
【あの銀髪の男ね!その男自体はよく知らないけど、その力を分け与えられたって言うことは世界は人間が力のある種族だと認めている証拠だわ。】
【なにそれ。】
【より強い種族にはより強い能力を分け与えられるの。今は絶滅したけれど、恐竜という竜以前の大型爬虫類は『力』を司っていたわ。】
【全ての有形力として考えていいのかな。】
【そうだと思う。昔いたグリフォンという種族は『空気』だったかな。】
【また読み解きづらい力だな。】
【竜の血筋だと『磁力』と言う強い力があったね。】
【その司る存在が消えたら、その力は誰も引き継がない?】
【そんなことないよ、虫の神獣は代々『花』だし。強い種族の傍流が強い能力を得やすいと言う話。同じ種族の神獣の血筋がいれば引き継ぐんだろうけど、いなければ別の子になるだろうね。こないだキリンの神獣の血筋が空気の力を持っていたのを見た。】
【神獣が亡くなった時につくべき神獣が違うものを司っていたらどうなるの?】
【これから生まれる神獣の血筋に行くと思うよ。司るものが変わったなんて話聞かない】
ルニアはそこで話を切って、アンジュの瞳を覗き込んだ。
【アンジュもきっと強い力を発現するだろうね。なんだろう。】
ルニアの人型と同じ青い瞳は、好奇心でキラキラしていた。
ーーーー
翌日蛇のルニアを肩に乗せて少年兵たちと共に朝餉の準備の手伝いをしていると、ンヴェネは呆れたような顔をしていた。
「新入りくんって蛇に好かれるね。」
他の動物たちもアンジュは仲良いが、確かに蛇は1番アンジュのそばにいるし、警句を与えるのも大抵蛇だった。動物たちが寄ってくるのは日常茶飯事だったアンジュは気づかなかった。
【蛇の神獣が司っているのは『再生』、それに関連しているからかもしれない。】
【クルルはどっかで蛇を助けたからって言ってたけど。】
【君の話を聞く限り、鳥の神獣はアンジュが神の力を持っていることを隠し違ったんだと思う。】
ルニアの話は興味深くて意識を持ってかれてンヴェネと会話することを忘れていた。ンヴェネは黙ったアンジュを胡乱に見ていたことに気づいて取り繕って笑う。
「クルルがどっかで蛇を助けたからじゃないかって。」
「…そう。昨日より顔色は良さそうで安心だよ。で、君はどうする?」
「とりあえず2人に防水の魔法をかけるよ。ゴーグルにもね。」
雨の中でもある程度の作業できるようにゴーグルが用意されていた。それ以上の雨で意味がないと作業は停止されていたが、今日も雨が継続して降っている為救援活動は休みになっていた。一部の第二師団は撤退して補給をするのだとか。
「……ちゃんとついていくよ。蛇は俺が血迷った時いつも助けてくれるから。」
【もちろん、僕に任せて。】
「……普通は信じないんだけど、新入りくんだしね。」
ルニアの思念は自信満々だ。クルルは1000年以上生きているせいか感情までは伝わりにくいが、ルニアは言葉以上に感情がダイレクトに伝わるにだろうかと思ったが、ルニアは人型の時大分表情豊かだったから本人の気質かもしれない。
【雨で濡れてもすぐに乾かしてあげられるし、僕って今回かなり役に立つかもね。】
【ありがとう、頼りにしてるよ。】
ーーーー
水が氾濫して危険な川辺に、2人の男が立っていた。タラリアと、弓矢の男のウッコだった。雨音でほとんどかき消されてしまったが、どうやら2人も川の中にいる神獣をどうやって探すかには苦慮しているようだった。
仇を前にして戦えない不機嫌なルジェロを含めた3人はまず2人の動きを見ていた。男たちは既にずぶ濡れで、恰好も昨日とほとんど変わらない。
「いつまでそうしていたの。」
「おー、はよ。」
学校の同級生かと見間違うほどタラリアは気安く、ただの眷属であろうウッコの方が余程神らしかった。
「俺たち『扉』があるから夜は帰ったぜ。でも、流石に川の中で息もできなけりゃ動きも取れないからな。魔術師がいればもう少しどうにかなったんだろうけど。」
「ーーーいないの?」
その言葉に反応したのはアンジュだった。魔術師のスイは少し前から行方不明らしいことをタラリアは言った。
「まあ、あいつは根無草ではあったからどっかでは生き延びてるだろうけどさ。」
「…まるで竜の一族ではないみたい。」
「定義が難しいな。でも、眷属という力を得てないと言う点では竜の一族ではねえな。」
「何故。」
「魔法使いのお前ならよくわかってると思ったけどな。」
アンジュは悪魔が囁く心をなんとか抑えながら秘境の村の話を思い出した。預言者イカルアが人間に魔法を齎した。それがどこまで真実なのかは分からない。基本的にそんなことをしない動物だって魔法を使える。ただどうだろう、動物たちのそれは人間の魔法よりももっと単純で自由ではなかった。
「…願いを叶える力はイカルアが人間に贈ったもの。いわゆる星の民だ。だから、魔術師は本来竜の一族では無い。」
【でも、君は直系だよ。タラリアも君の血族のはず。全然似てないけど。】
頭が痛いが、ここはアンジュの家族を暴く時じゃ無い。
「さて、話を戻そうか。目下の目標は倒すこもよりも、どうやって引き摺り出すかということ。」
「僕が川に雷を落とそうか。いくら雨といえども雷とは違う神獣なんだ。」
「落ちた時の所感としては、深いから水底にいるなら届かないな。」
どんな生物なのかも知らない。
【むむむ、海の生物でも魚とかじゃなさそうだよね。会ったことないんだよ。結構神獣界でもレアキャラだ。】
【神獣から逃げていたルニアが詳しいの?】
【逃げるために詳しいの。】
竜という強い種族に生まれながら、計略により力は中途半端かつ絶滅種のルニアは、神獣たちの良い標的となっていたらしく、彼女の人生の大半を逃亡が占めていたが、勤勉な彼女はよく神獣を知っているらしい。
【糸口は?】
【神獣の力で川を上ってきたとはいえ、海の生物ってことじゃないかな。】
淡水生物ではないなら、川に上った時点で魔法は使われているはずというが、その魔力の気配だって分かりづらい。
【かの神獣の雨の力のせいで至る所に力を感じるよ。】
【海水っぽい力を感じるんだ!】
【海をあんまり知らないよ。】
考え込んでいるように見えるアンジュに、ンヴェネが声をかける。
「何かを考えてる?」
「海の生物なら、淡水の中でなんらかの魔法を使ってるはずだろうということを。」
「魔法使い、こないだ川の水を一部持ち上げただろ?あれをやれば掬えるんじゃ?」
「……1トンの水を持ち上げるのが精一杯。川は何マイルあると思ってるんだ。」
「いくら神とはいえこの中心地1マイル以内にはいるだろうさ。」
「それで何トンの水だって?」
「悪かった。」
タラリアもそう上手くいくとは思ってない。ルニアのおかげで少しは苛苛する気持ちは抑えられているが、それでも、完全じゃない。
「…俺は魔力を探るのが得意なんだ。タラリアの濃い魔力の血を川にぶちまけたら探せるかも。」
酷い冗談を言ったつもりだった。そんなものできるかと激昂されれば良かったのだが、タラリアはなるほどと納得した様子で、どこからともなく剣を取り出した。
「それはいいアイディアかもしれない。」
アンジュは目を見開いた。眷属の男が止めるべく叫んでいるし、アンジュもそのつもりじゃなかった。男が躊躇いなく自分の使えない腕に剣を振り下ろそうとした。だが、その腕に振り下ろされる前に剣は消えた。
「何で邪魔するんだ。」
「馬鹿じゃないの?」
「別に血を多少流したところで死にゃしないぜ。」
アンジュは魔法で奪ったタラリアの剣を握りしめた。
「嫌いだ嫌いだ、だから、嫌いだ!」
悪魔の声が自分の声と一致した。ンヴェネがアンジュを落ち着かせようと手を伸ばすがそれを払った。
【…この力。】
ルニアのその思念は思いの外大きかったようで、タラリアはアンジュの肩にいる蛇を見た。しかし、それは一瞬で興味を失われることになった。
アンジュが、魔法で10インチほどの小さなドラゴンのようなものを数匹生み出した。そして、彼らは弾丸のように荒れ狂う川の中へと入っていった。
【ようやく合点が言った。森ではなく、花の虫や再生の蛇に好かれる存在、『生』を司る神獣の血筋!】
ルニアの興奮とは逆に、タラリアはこれでもかと目を見開き、言葉を失っていたが、アンジュに彼の様子を見る余裕はなかった。小さなドラゴンの視覚や触覚を借りて濁流の中を探す。ルニの言っていたように川とは違う魔力があるはずだ。小さなドラゴンたちや葦など死んでいない植物の魔力を伝って、ようやくそれほど深くないあたりで不自然に流れていかない隠れた魔力の揺らめきを確認した。
「…見つけた。」
アンジュの呟きとともに、それを魔法で無理やり引っ張り出すと、その神はてんてんてんと鞠のように転がった。
「あー、なるほどな。アメフラシだったわけだ。」
大きさは15インチも行かない小さな軟体生物だった。盾を持たないとも言われたその柔らかそうな灰色の物体は、ミニドラゴンたちを消し去った。
【不敬な人間どもめ。】
タラリアとアンジュとルニアの3人だけが、かの声を聞いた。その小さな存在とは思えぬほどの黒く濁ったような低い声だった。
「お前が沢山人間を殺したから、俺がこうして出張って来たわけよ。」
タラリアはアンジュが奪っていた剣をいつのまにか取り戻していた。
「陸に上がった時点でお前の負けだぜ。」
タラリアに怒ったのか、アメフラシの神獣はどんどんと膨れ上がりになり、ゆうに10ヤードの大きさになる。その体の範囲からニョキニョキと触手が伸び、周囲にいる人間へと殴り始めた。タラリアやルジェロはそれを避けつつ、一つ一つ切り、弓使いとルジェロは撃ち落としていく。その中でアンジュだけが茫然としていた。
【アンジュ!アンジュ!】
ルニアが呼びかけても反応は無し。ただその雨の神獣を茫洋とした何かのように見つめていた。
「新入りくん、寝ているのかい?!」
「チッ!」
触手を避けて切り刻むとルジェロはアンジュの方へとかけた。ルジェロの行動の真意が読めないまま、ンヴェネはその行動をフォローした。そして、ルジェロはアンジュの前に来た触手を斬ると、そのままアンジュの頬を殴りつけた。
「てめえはどこにいやがる!」
アンジュの瞳に赤い髪の男が映った。それから、自分の身体が限界を迎えていることにも気づいた。今こうして立って意識があることすら不思議な状態だ。ルジェロに動けないと詫びを入れようにも音にならない。その状況が分かったルニアもなす術がなかった。
【困ったなぁ、僕の魔力じゃ合わなすぎるし。】
ルニアはクルルのようにアンジュを起点として他の人間に話しかける技術を知らなかった。あれはクルルが生み出した独自の力だったのだ。何も言わず、何も動けないアンジュにルジェロは再び舌打ちをした。本体を攻撃したいが、何度も生える触手の攻撃に耐えなければいけなかった。
ルニアが守っているから、本当はルジェロやンヴェネが触手から守らなくても問題ないのだが、それを伝える術がない。困っているルニアの蛇の目がタラリアをとらえた。アンジュのことを言わなくても伝えられる相手がいた。ルニアは大きな思念を飛ばす。
【人間の神獣の血族!魔力を使い果たして動けなくなってるアンジュは僕が守っていると人間に伝えろ!】
ルニアが神獣であることは伝えるなと釘を刺すと、タラリアは呆れたように笑った。
「おい、ルジェロ!魔力がなくて魔法使いは動けない!だけど、友達の蛇が守るから気にするなってさ!」
ルジェロにとっての仇が何か言ったところで、はいそうですかと簡単に頷けない。訝しんでいたが、防戦一方となっているのでそこにかけるしかない。仇を信じるようで嫌になるがルジェロはアンジュの前から離脱し、より雨の神獣へと近づいた。その後すぐアンジュに触手が襲いかかっていたが、ルニアの陽光によって燃やされた。
【君、動きを鈍化させられるなら、やって欲しいんだけど。】
「残念だけど、自分か非生物以外には無効なんだよ。そんなことできたら俺が世界の神だろ。」
【役立たず!】
「知ってるわ、ボケぇ。」
タラリアが蛇と話している姿は、アンジュとクルルが2人で話している姿に近かった。戦いの片隅で、アンジュとタラリアの共通点を見つけてしまい、ンヴェネは顔を歪めた。タラリアを殺そうとしたが、タラリアが自ら命を使おうとした時には激昂した。
「もう嫌になるね!」
「おい、銃使い!触手は俺がやる!お前の武器で本丸を狙え!」
タラリアは似たようなことを弓使いにも告げた。
【ちょこまかと煩わしいっ!】
雨の神獣のアメフラシは苛立っていた。アメフラシは種族上戦いなど慣れていない。ただ雨によって人間に復讐ができると知ったから、雨を降らせていたに過ぎない。
純粋な水であれば絶縁体となるが、基本的に水は不純物を多く化合しているため伝導率が高くなる。となると、ンヴェネの銃が1番使える。ンヴェネはギアを切り替えると本丸を狙う。
薄暗闇で轟々と降る雨の中に一つ雷が落ちると、瞬きの間周辺がストロボで切り取られるように明るくなる。
陽光の神獣ルニアはその瞬間を狙って、太陽の熱で燃やした。
【き、貴様ら、許さんぞ…!】
最後の力を振り絞って無差別に殺そうとしたが、弾丸と複数の矢、二つの剣が阻止をする。
「しゃ、しゅーりょー。」
タラリアの気の抜けた声と共に、雨の神獣のアメフラシは元の大きさに戻り動かなくなった。すると、今までの土砂降りが嘘だったかのように、厚い雲が消えていくとその間から天使の梯子のように太陽の光が届いた。
それから、アンジュが崩れるように倒れた。
【でも、これだけで魔力欠乏状態になる?神獣の血筋が。】
「無理に力を使ったんだろ。」
タラリアがアンジュに近づこうとする前に、ルジェロは剣を突きつけた。
「次はお前だ。」
「仲間放置で?」
ンヴェネはルジェロの心情を思うとそれを止めることはできなかった。自分以外の全員を殺されて今でも悪夢に脅かされるルジェロをよく見て来た。その為に苦手な広報もある五星士まで上り詰めたのだから。アンジュの顔を見て、放置はできないが緊急ではないことを確認すると銃を再び握った。
「おいおい、銃使いまでとはな。」
「そっちの弓の男が何かしないとも限らない。」
「そうだな。お前たちが我々を憎むことを知っているが、ただタラリアへの攻撃を見逃すことはできん。」
矢をつがえていないが、男は弓を構えた。
「ウッコも頭堅いぜ。」
「しかし、我々の仕事は終わっただろ。」
「それもそうだわ。」
ルジェロの剣を避けながら、タラリアは笑う。
「ルジェロとちゃんと戦ってやりてえが、じゃあな!」
「おい!」
戦えと喉が切れんばかりに叫ぶが、タラリアたちは光の中に消えていってしまった。
「そうだった、アイツらその力を持ってたんだ。」
「おい、2度はない。またこのような時が来ても共闘はしねえ。」
「…そうだね、それがいい。」
ンヴェネはすこし投げやりに答えた。戦いのうちはそちらに集中して仕舞えば良かったが、もうその言い訳は通じない。
ーーー
夏の日差しの中、カンカンカンと建物を直す復興の音が響く。アンジュが目を覚ましたのは、2日後のことだった。竜の一族と共闘したとは言えないので、雨の神獣を倒したのは五星士の3人ということで、3人はあらゆるところで評価が上がった。アンジュとしては、怒りに任せたことしかしていないので、その評価を聞くと心地悪かった。ルジェロもまた憎い男と共闘したことが許せなくて、褒められる度にぎろりと睨んでいた。
五星士が来た理由は慰問活動のみで救助や復興がメインではない。少しばかりそれを手伝ってすぐに王都に引き上げることになった。ルニアは少し心残りそうだったが、魔術式防御システムがある王都に行くわけには行かないのでアンジュが目覚めてすぐアンジュの元から去った。
そして、全く話さない2人と共に重い空気で王都へと戻った。馬車に揺られながら、アンジュはタラリアのことを思い出していた。
その王都に帰る前日の真夜中のことだった。アンジュがフラフラとテントを抜けるとまるで知っていたかのようにタラリアがアンジュの前に立っていた。踵を返してテントに戻ろうとすると、彼はアンジュを呼び止めた。
「魔法使い。」
「ルニアが呼んだだろ、俺の名前。」
「俺がその名前で呼んでいいのか。」
「ルジェロの方が俺より呼ばれたくないはずだ。」
タラリアがアンジュに気を遣っているというだけでも許せない気持ちがある。寧ろ、憎しみでアンジュを詰っていた方が幾らか気分はマシだっただろう。
タラリアは悲しそうに笑った。
「……アンジュにこの話をする気は無かったんだが、あの時自分の神獣の力に気づいただろう?」
ルニアが以前話した通り啓示の如くその力を理解した。生命そのものを生み出すなんて魔法だけではあり得ないのだ。その力があるということは人間の神獣の直系の血縁者であることが確実だった。
「…タラリアは俺にとって何?」
月を背負って立つ彼の銀髪は、アンジュのものとは全く似ていない。
「…俺は、お前の叔父だ。人間の神獣アナンタの息子で、お前の父親の異母弟だ。」
「…叔父。」
「お前の父とはただの人間の家族としても短い数年間しか一緒に暮らしたことはないけどさ。」
「……仲が悪かったんだね。」
「俺は大好きだったさ。多分兄もそう。だけど、父さんと兄は凄く拗れた仲だった。」
記憶にもない父親の話をされてもどうでも良かったし、気安いタラリアの気を遣った様子がうんざりだった。アンジュがテントに一歩踏み出そうとした時、タラリアが言葉を発した。
「助けにいけなくてずっと悔いてる。」
「………何の話。」
「…いや、これは俺のエゴの話なんだ。気にしないでくれ。」
タラリアの悔恨を聞き流して、今度こそアンジュはテントの中に戻ったのだ。




