14.5話 特訓
アンジュ・クラント(16くらい) 魔法が使える不思議な少年
ウィル・ザ・スミス(19) アンジュと同室の気のいい青年 斧・炎
ルサリィ・ウェンディ(23) 風使いの優しいお姉さん
ルジェロ・ビトレーイ(18) 無口で出ていないように思えるがいるにはいる 剣・氷
ンヴェネ・ルーイ(25) ひょうひょうとしているが頼りになるリーダー 銃・雷
『魔法の訓練しよう。』
久しぶりに5人が揃った鍛錬の休憩でクルルが言い出した。前々から直すべきという考えがあったものの何も解決しなかったアンジュの魔力の使い方だが、先のルサリィとの任務でクルルも焦りを抱いた。
「前は思いついてなさそうだったけれど、なにかいい方法が見つかったの?」
『ないね。』
「神さん…。」
五星士も魔法については素人で、魔法使いも現在王国にいるのはアンジュのみである。
「普通に魔術を習うのがベストなんじゃないのか?」
ウィルが尋ねると、クルルは目を逸らした。魔術は魔法を科学技術によって効率化されたものなのだから、魔力の効率という意味では魔術を習うのが吉であることはクルルもなんとなくは察していたが。
『今のアンジュに魔術はダメだと思う。』
「今の俺?」
『魔術師を怖がっているうちはね。』
それで、まずは魔法からと話始めた。
『で、言うほどぼくは魔力の使い方が上手いわけじゃない。何故ならそんな事を気にするほど魔力少なくないからね。』
と、言ったときにはおいおいとツッコミを入れたくなったが、クルルは続ける。
『君たちの鍛錬を見て思いついたよ、同じことを繰り返す。これだってね。』
自分の思った通りの場所に武器を動かす。言葉にすれば簡単だが、そこには何百、何千という鍛錬の結果である。
「つまり、同じ魔法を何回も繰り返すってことだよな。」
考えてみれば簡単な話なのだが、王国が慢性的な魔力不足で、無駄に魔力を使うなという考えが蔓延しているから、同じ魔法を繰り返すという考えがなかなか出てこなかった。クルルからその話を聞いたンヴェネは頷いた。
「魔術師が前線に立てず、戦いにおいて後方支援なのは、魔術式っていう決められたものの準備が必要なせいだよね。あれを毎度発動の度に用意するには時間がかかる。だから、五星士には魔法の方が便利だよね。戦いの中を想定しながら魔法を使う練習がほとんど出来てない。それは僕らもそうだ。」
「鍛錬は基本的にアンジュは剣の練習しているものね。」
『神獣は魔法なんて鍛えるものじゃないし、人間は魔法を使う事を想定できてなかったってことだね。』
という事で、アンジュは一度剣の訓練をやめて魔法を使う練習を始めたのだが、難航した。
『いろんな方法で火を出すのは応用が効いていいけど、魔力の使い方の練習するときくらいは一定にしない?剣の素振りだって、最初は同じ振り方するでしょ。』
「…考えれば考えるほどどうやって同じ魔法を出すのかが分からない。」
感覚だけで魔法を使っているアンジュには、同じ魔法を使うというのが難しかった。結果が同じでもプロセスが違えば全く違う魔力の使い方になるから、クルルはそれをまず覚えさせようとした。
『火じゃなくて花を…、マーガレットを出してみよう。』
「マーガレットなぁ。」
『それはマリーゴールド。』
アンジュがポンと出した花は全く違う花だった。
「マーガレットってどんなだっけ?出してみてよ。」
『無理だよ、その魔法ぼく使えないもん。』
「そうなんだ。」
『でも、比較的その魔法はほとんど同じ過程を通ってるから、それを練習したらいいと思ったんだよね。花の種類は固定した方がさらにブレはなくなる。』
マーガレットかマリーゴールドかなんてどうでもいいのだが、同じ花である必要はある。アンジュはマリーゴールドの花で練習する事を決めて、花を量産した。
「クルルは雷と変身の魔法以外で何が得意なんだ?」
『雷は神獣の力だから、厳密には魔法じゃないんだよ。これが使えてたらあの猫は逃してない。』
「なるほど、そういえばあの時は衝撃波みたいな魔法使ってたな。」
『花がいいかもって思ったけど、これ戦いには向いてないね。』
話ながらもどんどん花を出していたアンジュの周りはマリーゴールドだらけである。綺麗ではあるけれども鍛錬場には邪魔だ。
「お花綺麗だから捨てるのは勿体無いものね。」
隣で水を飲みにきたルサリィが花を掴む。
「今回のお花は私が引き取ってもいいかしら。」
「もちろん。」
「じゃあ、ありがたく貰うわ。」
アンジュは魔法で散らばった花を集めると、紙でくるんで花束を作った。
「新入りくんの魔法は子供の頃読んだ御伽噺みたいだよね。」
「あー、確かに御伽噺はこっちだ。幼心にいねーよって思ってた。」
ウィルは幼い頃から軍属していたから、他の人間より魔術部隊への不満でそんな事は頭から消えていた。
「…どうも。御伽噺出身です。」
アンジュは困惑しながらジョークを言うとルサリィとウィルにはウケていた。
「意外とあり得そうに思えてきちゃうの僕だけ?」
ンヴェネには図鑑からカンカラという鳥が出てくるシーンが頭によぎるのだが、それを知らないウィルとルサリィは微笑ましそうに見る。
「案外ンヴェネってロマンチストだよな。」
「今僕の銃に実弾入ってなくてよかったね。」
アンジュは予想よりウケたので悪ノリをする。ダンスパーティのときのピアノと打楽器を出すと音を奏で、花を出して踊らせ、壁のランプの火を揺らし、使ってない木の剣がクルクルと踊った。
そのショーに暫く心を奪われてた面々だったが、鍛錬中だったことに気がつくとンヴェネは咳払いをする。
「何やってんの?」
「俺も好きだった、御伽噺。」
アンジュが魔法を止めるとそれらは白昼夢だったかのように元の場所に戻った。
「明日の鍛錬には実弾を持ってくることにするよ。」
「無駄になるよ。」
ンヴェネは大袈裟にため息をついて、アンジュをしっしっと追い払った。
「ほらちゃんと練習して。」
「一応魔法だったのに。」
「残念だけど、僕らは旅芸人でもないから。」
『ただの魔法より何倍もすごいことやってるのにね。』
「ね、残念だね!」
クルルはンヴェネの物言いに不貞腐れるが、ンヴェネは押し切る。アンジュは大人しくもう一度火の魔法に取り掛かった。
ウィルは頑張っているアンジュを横目にクルルに尋ねた。
「あれやっぱり難しい魔法なんだな。」
『少なくともぼくにはできない。魔法の発動の起点が多すぎる。』
と、言いながらクルルは火の魔法を練習しているアンジュを見て続ける。
『やっぱり魔力の使い方は下手だね。』




