召喚
「友達になってくれませんか?」
魔法使いの九堂凛亜は中学2年の春休み悩んでいた。
凛亜は今まで友達と呼べる人が一人も居なかったのだ。
凛亜に召喚された魔法が使えない世界から来た岳兎恵樹。
この二人を中心に学園ストーリーが始まります。
凛亜の秘密を知らずに穏やかな学園生活を送る3年F組にこれから何が起こるのか―
「…はあ」
窓に肘をつき嘆息をもらした。
「彼氏…いや友達欲しいなぁ」
自分で言いながらも、少し顔を赤らめて小声で呟いた。
私は友達が居ない。学校ではいつも一人で過ごしている。
今では私の座右の銘は『一人でも生きていける!!』である。
作ろうと思ってももうそれは叶わない夢と化している。
私は皆にとって近づきがたい人なのか分からないが、少しクラスの人達から避けられているような気がする。自惚れ(じほ)ているのかもしれないが…
だけど、今年はそうは言っていられない。
今年私は中学3年生、受験生だ。
クラスの人達は楽しく、仲睦まじく進路の事を話しているが、私の場合は進路の事で話す相手と言ったら先生と両親だけである。
「どうしたもんかなぁ」
だから、こうして休日の朝から自分の部屋に籠ってゆっくりと悩んでいるのだ。
まぁ、これがいけないのだろうが…
「うーん……ん?…ぁ!あるかも…」
今、パッ!と思いつくので一つだけあった。友達を作る方法が一つだけある。
しかし、本当に実行していいのか悩むものがあった。 が、
「よし、じゃあ準備に取り掛かるか!」
善な心の声など意に反さず準備に取り掛かった。
まずは、起きたままの状態をなんとかしなくては…
着替えるためリビングへ向かった。
リビングの一角にある年代もののクローゼットを開けた。
クローゼットを開けてすぐに目に入るのは、重そうな青黒い長いローブだった。
そのローブを脇に押しのけた。
押しのけローブの奥にある赤黒いローブも横に押しのけた。
赤黒いローブを押しのけ奥にあるものを引っ張り出した。
引っ張り出したローブは他のローブと上半身だけほぼ一緒だが、下半身は膝上10cm以上のミニワンピースで、腰には黒い金属の輪が2つ交差されていて後ろでつながっていた。
ミニワンピースを着て、クローゼットの下にある引き出しから真っ黒なタイツを取り出し、履いてクローゼットを閉めた。
次にクローゼットの隣にある棚に目を向けた。
そこには何十足もの多種多様な靴がきれいに並べられていた。
その中で一番足の長い黒いブーツを取り、履いた。
次にクローゼットから反対側の引き出しを開けた。
そこから蝋燭・水性マジックペン・マッチ箱を取り出し、脇に下げてあったバケツを掴み自室へ戻った。
鉄製バケツを脇に置き水性マジックを持ち床に図式や文字を書いていった。
「ふ~魔法陣完成‼」
床には今直径1mぐらいの魔法陣ができていた。
次に魔法陣の外側に作った丸い枠に合わせ蝋燭を一本一本立てていった。
マッチですべての蝋燭に火を灯し終えると
「よし‼完成」
少女は魔法陣から出て正座をし、呪文を唱え始めた。
「汝、空間の守護しうる者よ、空間内のすべての人間の記憶を改めさせよ。」
少女は胸の前で指を絡め、目を瞑って唱えた。
唱え終わり少女は目を開いた。
少女の目の前にはウィンドウらしきものがあった。
そこにはこう書かれていた。
『ストック イエス/ノウ』
少女は迷い無くイエスを押した。
ウィンドウは消えた。
またも、少女は目を瞑り胸の前で指を絡めた。
「汝、異空間から来られし使者よ、我の力を媒体としこの世に顕現せよ。」
呪文を唱え終わり目を開けると眼前には光の柱ができていた。
その光の柱は魔法陣から伸びていて、天井を突き破らんばかりの光の強さだった。
そう思ったのもつかの間、縦に伸びていた光の柱は真横に広がった。
部屋の壁に当たると壁に阻まれたように光の柱の進行は止まった。
最初は光の柱だったものは今では光の壁となって私の前に現れていた。
またも光の壁に変化が見られた。
光の壁は今までとは比べものにもならない位光を放ち目が開けられなくなった。
瞼に差していた光が徐々に落ち着いてきて目が開けられるぐらいになった。
目を開けると光の壁があった場所には大きな扉があった。
大理石のような光沢を放つ純白の扉だった。その扉には多種多様な彫刻が施されていた。
扉を支えっている枠は高さ5m幅2m30㎝ぐらいで、上枠には草花や蔦が巡らせるように彫られており、蔦の上で数羽の鳥が遊んでいるような彫刻が彫られていた。横枠には樹木の蔦や枝・葉などが彫られていた。
本体部分の扉は両開きの高さ3m横2mぐらいで、扉にも彫刻が施されていたが、私ではその美しさは表現できなかった。
否、誰にもこの扉の美しさは表現できないだろう。
ボキャブラリーの問題では無く、この扉の美しさは表現してはいけないとささやかれているようだからだ。
それはさながら、神の忠告であるがのごとく…
私はその不思議な扉に抗うことはできないというふうに、感嘆の意を込め溜息を吐いた。
溜息を吐き終わる前に扉がゆっくりと動き出した。
本当にただただゆっくりと…
開き終わった扉の向こうは又も光しか無かった。
ことわざには『一寸先は闇』というのがあるが、この光景は『一寸先は光』だった。
数分後、影一つ無かった光に変化が現れた。光の中央に一つだけ影が出来たのだ。
その影は徐々に形を成していき、人型に変化した。
影からして私よりも背が高く、細身だが何分影なので男か女かははっきりしなかった。
だが、私はそんなことよりもこの影が私の初めての友達になるのだという気持ちで影の持ち主が現れるのを待ち望んでいた。
目を輝かせながら影を見ていると、影が歪んだ。
不思議に思ったのも束の間、又も直視ができないくらいの光を放った。
目に差す光が収まったところで目を開けた。そこには一人の少年が立っていた。
少年の腕やお腹には筋肉が見えるぐらいに付いていた。
お腹?
窓を開けていない部屋なので、風は入ってこないはずなのに少年の服や髪の毛などは確かに揺れていた。
少年の服や髪の揺れが収まると、少年は膝から崩れ落ちるように倒れた。
咄嗟の事だったが、私は少年の身体を支えた。
初めて少年の顔をまじかで見た。
少年は私と同じくらいの年齢で、私の中ではかっこいい範疇に入る顔つきだった。
少年の目が開いた。
開いた目の中にある瞳は虚ろな目をしていた。
大丈夫かなと思ったが、少しずつ焦点があってきて、完璧に意識がはっきりした顔で自分の顔を凝視された。
それから私の部屋を何度か見渡し、また私の顔を見た。
今度はアクションがあった。
自分がどういう状態なのか分かっていない様子で首を傾げた。
「大丈夫?意識ははっきりしてるみたいだけど…」
訊ねてみた。
今話ができる状態なのかを確認するために。
「え?あぁぁ…!?‼」
ドンッ ズサァァァァ‼
私の問いかけを不思議に思ったのか自分の周りを見渡した途端、私の身体を押し、後ずさった。
男の子にとっては今のは羞恥でしかないだろう。
女の子にしかも同年代ぐらいの女の子に身体を支えられていたのだから。
「……っ‼」
赤面だ。
初めて茹蛸の状態を生で見た瞬間だった。
「えっと…ごめんね?」
頬を掻きながら『ごめんね』であっているのか分かんなく、最後に疑問符をつけてみたのだが…
「あっいやっあのこちらこそごめん。何がなんだか分からないんだけど助けて…くれたんだよね?ありがとう」
逆に謝られて、お礼まで言われてしまった。
「いやいいよ『ありがとう』なんて…で、大丈夫?」
念のためもう一度聞いてみた。
「えっ、俺は大丈夫だよ。どういう状況なのかわからないけど…」
「そう…あっ自己紹介まだだったよね」
少年に話を聞いているのかと思われそうだが、なんて言えばいいのか分からなかったので、自己紹介することを提案してみた。
「私はくとう りあ。九つのお堂で九堂。凛々しいに亜米利加の亜で凛亜」
分かりやすいかなと思い、自分の名前が使われている漢字や単語を用いて説明したが、この方が分かりにくいと言われたら、謝るしか無くなってしまう…
「九堂凛亜…了解。…なんて呼べばいいかな?」
「ん~…なんでもいいかな?」
「何でもいいかぁ~どうしよっかなぁ~じゃあ九堂さん?」
「九堂さんか~いいんだけど…苗字はやめてくれるかな」
「?いいけど…じゃあ凛亜‼」
「……っ‼」
初めて親以外に呼び捨てで自分の名前を言われた気がした。
気がしたというか本当の事だが…
だって、今まで友達と呼べる人…の前によく話す人さえいなかったのだから。
顔が熱かった。頬を触ったら火傷しそうなぐらい熱かった。
まあ、過剰表現だが。
でも、それぐらい熱かった。
少年の顔を見ると、
「‼大丈夫!?顔赤いけど風邪?」
当の本人は的外れな事を急に言い出した。
「…プッ」
そんな少年の困っている顔を見て思わず吹いてしまった。
顔が熱いのも冷めていった。
「??」
「ううん、なんでもない。心配してくれてありがとう」
「いや、こちらこそ。もう大丈夫?」
「うん大丈夫!で、あなたの名前は?」
やっと名前が聞ける
「俺はたけう けいた。山岳地帯の岳に兎角の兎で岳兎。恵の大樹で恵樹」
「岳兎恵樹…分かった。私もあなたの事なんて呼べばいい?」
「そうだな。呼び捨てでいいよ」
「呼び捨て…恵樹?///」
「うん」
やばい‼恥ずかしい‼
慣れるのかな?慣れなきゃ駄目だよね。
「はぁ」
なんか、ドッと疲れが押し寄せてきた…
はぁ、戻りたい…
「?」
なんかひっかかる。
う~ん、なんだっけ?
な~んか大事な事を…
「………!…‼…!?…ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
やばい‼
忘れていた‼忘却の彼方に置いてきちゃった‼
てか、忘却の彼方ってなんだぁぁぁぁぁ‼
ハッ‼
ノリつっこみしてる場合じゃなかった。
急がないと間に合うかな!?
「ウィンドウ‼」
「‼」
私の謎の叫びからの私の慌てようを最初から最後まで見ていた恵樹は肩を震わした。
あとで、私には虚言癖はないと忠告しておこう。
今の事態が終わってからやることが決まった時にウィンドウが音も無く目の前に出現した。
前、でてきた時は『イエス/ノウ』だったが、今は一覧表のようなものがでてきていた。
私は迷いなく表の一番上を押した。
新しいウィンドウが開いた。
『使用しますか? イエス/ノウ』
今度も迷いなく『イエス』を押した。
すべてのウィンドウが閉まった。
「はぁ~~~」
一仕事終えたおじさんのように息を吐いた。
私が本当におじさんならここでビール缶を開ける所だが、何分私は未成年。飲酒は捕まってしまう。
「ね、ねえどうしたの?」
あっ…忘れてた…
「い、いや、なんでもないよ…」
「?なんか隠してるでしょ。それにここは何処?」
やっぱりか。
私も恵樹の立場だったら、知れるなら知りたい。
「いいよ。説明する。でもその前に教えてくれる?あなたは何処に住んでたの?」
確認しておきたいことがあった。
「?俺は…何処から言えばいいのかな?」
「星?惑星は?何処?」
「惑星?…は地球。地球の日本という島国で関東地方の埼玉県さいたま市に住んでた」
過去形…私が過去形で話したからだろうか…
「そう。じゃあこの場所の説明をするね」
一呼吸おいて話始めた。
「ここは恵樹と一緒で地球の中にある日本。本当は長ったらしい名称があるんだけど、今は関東地方ってことで大体同じ意味だから。で、埼玉県さいたま市。ここからは後の説明に絡んでくるから正式名称で話ね。魔法教会管理区画第1部隊保護対象第4部地区(まほうきょうかいかんりくかくだいいちぶたいほごたいしょうだいよんぶちく)の中にある由緒正しい家です」
この家のある場所を話終え、恵樹の反応を確認しようと恵樹の顔を見ると、考えこんでいる様子だった。
「あの、理解できなかったら説明するけど…」
「いや、大丈夫だよ。それに意味は今話したとおりでしょ」
そのとおりなのだが…本当に分かったのだろうか?
「ねえ、ここでは不思議な力みたいなのが存在するの?」
「不思議な力…恵樹のがさしてる不思議な力がこの世界に存在する魔法がそうならそうなんじゃないかな。」
「曖昧だね。まあでも魔法か…魔法が関連する部分以外は俺の世界と一緒なのかな?凛亜は短くして言ってくれたけど、意味合いは一緒なんだよね」
「?…関東地方とかのこと?うん大体一緒だと思うし、それに私がいる世界と恵樹がいた世界はパラレルワールドみたいな関係性なんじゃないのかな?」
「パラレルワールド…魔法があるかないかの違いか…」
「恵樹がいた世界には魔法が無かったんだね」
「うん。だから今思えば突然この世界に俺がいたのは凛亜の魔法ってことになるんだね」
「…うん…そう…ごめん…ごめんね…」
「なんで謝るの?」
「だってこれは私の自己満足で、そこに勝手に何の関係も無い恵樹を巻き込んで…だからごめんね。私の自己満足に巻き込ましちゃって、あっちの世界には恵樹の家族とか友達が居たのに…ごめんね」
なんだかよくよく考えれば悲しくなっていく。
それに、あの魔法は絶対に使ってはいけない魔法。禁忌の魔法だった。
私はそのことを知っていた。知っていながらも魔法を使った。どんなことが起こるのかも知っていた。
その事例と恵樹は違ったけど、大事な人達から自分の自己満足だけで引き剥がした。
それに記憶を改ざんする魔法で恵樹は元々この世界の住人ということにしてしまった。
本当に自分は最低だ。
人の事は考えず、自分の気持ちを優先的に考えて…本当に最低だ‼
「ううん。あっちの世界にはあまり思い入れがないんだ。友達はそりゃあいたけど、なにがなんでも離れたくないってわけじゃないし、それに結局は離れ離れになっちゃうしそれが遅いか早いかの違いだよ」
恵樹は優しいな。慰めてくれたよ。
…すべて私のせいなのに…
「…でも、別れが遅かったらそれだけ思い出が作れるんじゃないの?」
「まあそうだね。でも、やっぱりこっちに来てよかった。正直、家に居たくなかったんだよね…」
え?
家に居たくない?
なんか、それだけ『嫌だ』、『苦痛だ』と思う事があったのかな?
「ま、そういうことだから俺は大丈夫だよ」
恵樹が笑った。
私に笑ってみせてくれた。
本当に恵樹は優しい。
「そう、ごめんね…ありがとう」
「うん‼さあ気を取り直してこの世界の事、俺に教えてよ」
恵樹に急かされたら、もう言う事を聞かなければいけない気持ちになった。
「あっ!そうだ。あっちの世界では魔法は無かったとしても、言葉としてならあるんだよね。魔法はどういう意味合いだったの?」
「魔法?うーん…俺が知っていることは魔法は概念って話かな?」
「魔法は概念…こっちの世界と一緒だ…こっちの世界でも魔法は概念なんだ」
「ここでも⁉どういう経緯で概念て事になったの?」
「えっとね~確か約440年前に突然変異という形でこの世界に生成され、世界全土に染み渡ったの。だから、その前は恵樹の世界と一緒で魔法が無かった世界だったということ」
「約440年前…詳しい事はわからないの?」
「わからない。私も興味が出て調べたんだけど、その事が書いてある書物は古すぎて虫食いやらなんやらで読める状態じゃなかった。苦労して専門家が解読した書物もそれが真実なのかは分からないからって言ってた」
「そうなんだ…じゃあ俺もなんで概念という結論に達したのか、というとそれは魔法が無いなりにも色々な事をしたんだ。例えば、化学で出来うる限りの魔法へのアプローチ、火と水の調和とか光の速さで物を運べるか、色々していたらしいね。化学関係の雑誌に載ってたんだ。でも、一つや二つは検証出来たんだけどそれは結果的に俺たちが過ごしやすくなっただけで、魔法に少しも手が届かなくて失敗に終わったんだって。これも雑誌に載ってたんだ」
化学でのアプローチ…
火と水の調和…
光の速さ…
それはすべてこの世界では魔法が出現してくれたことによりしなくていい工程だった。
そして、それは私にとってすごく新鮮で子供心…好奇心をくすぐるものがあった。
「そんなことは無いんじゃないかな。だって魔法は私達だって未知の産物だし、それに魔法を見つけるために行った実験は全てとはいえないにしても、生活に反映されて今すごく便利なんでしょ。すごいじゃん‼」
切実に聞いたときに思った事を言ってみた。
「うん。便利になったよ。でもその反面、犯罪も増えた。最新の化学が編み出した犯罪で…警察はそんな犯罪をどう対処すべきか対応できなくて、対処方法が先延ばし、犯罪者も増加するばかり、警察の人手不足、俺らみたいな犯罪に手を染めてない人達も不安になって犯罪者に成り下がっていく。景気は悪化。政治もまともに機能しない。もう内乱が起こってるようなもんだったよ。犯罪という名の内乱が…」
すごく暗い現実を突きつけられていたのが分かる。
でも、ここで同情してはいけないと思った。
ここで同情したら私は話を聞いていなかったことになる。
恵樹のしゃべり方は恵樹の中ではもう終わった話のようなしゃべり方だったからだ。
「そうだったんだ。それで魔法が何か分からなかったから概念ってことで落ち着いたんだね」
「あぁそうだよ。じゃあこの話はこれで終わりという事で説明を続けてくれるかな」
「うん。分かった」
あっさりと話は打ち切りになった。
この話は本当はしたくなかったのではないだろうか…
「えっと…この場所のことを話した時に魔法教会って言ったよね。その魔法教会は簡単に言ってしまえば宗教名なんだ。本当は日本国東京本部管理下関東区内第1支部魔法教会連盟(にっぽんこくとうきょうほんぶかんりかかんとうくないだいいちしぶまほうきょうかいれんめい)。これは言葉のとおりの意味で受け取っていいから。東京を破壊すれば日本は大体破壊したってことになる。関東区内第1支部というのは東京だけでは日本を支えられるわけがないから地方で分け、県で分けた結果が関東第1支部という形になった。第1支部というのは埼玉県を意味している。関東第1支部は警察のように地域ごとに散りばめられ部隊として名づけられた。
それがここでは、第1部隊通称さいたま市。さいたま市の区にあたるのが、第4部地区」
一息吐いた。
というか、吐きたかった。
この話は説明臭くて息が苦しくなる。話したく無くなる。
頭で言葉や文を構成するのがめんどくさくなっていく。
「部隊は12部隊あって一つ一つの部隊には大量の火器と魔法結晶を所持しているの。なぜ魔法があるのに火器を所持しているのかというと、魔法を発動するまでに呪文や手を使ったり少し時間を取られるけど、火器の場合誤作動が無い限り装填すれば打てるから、危険時の時や緊急事態に備えてたくさんの火器があるの。魔法結晶は2つの使い道があって、1つ目は魔力の補給2つ目は魔法記録に使われている。魔力補給というのはある一定時間魔力を使い続けると魔力が無くなっちゃうんだよ。だからそのための魔力補給。魔法記録は火器と使い道は似ていて、早く魔法を発動するため記録しておいて必要な時に魔法を発動するの。魔法はなんでも大丈夫」
私的には地域の説明より武器や火器の説明の方が楽しいと思う。
魔法の種類の説明も楽しいと思う。
やっぱり、めんどくさいけど…
「次は人間の中にある魔法の話ね。魔法は私が生まれる前から数値として表されているの。それは、『魔法レベル』って言ってこれは人によって異なるの。でも、中学生までは学校に行くと義務付られているから魔法レベルはあまり変わりがないの。でも、例外が2つあって、1つ目は先天性の人もう1つは後天性の人。先天性は生まれた時から魔法レベルが高く、最高で2倍ぐらい普通の人より魔法レベルが高いの。で、20代中間ぐらいで普通の人と同じぐらいの魔法レベルの伸びになるの。後天性は逆に生まれた時は平均ぐらいで20代中間で普通の人より魔法レベルの伸びが激しく上昇するの。どちらとも、親族の遺伝によるものが多いかな」
ここで一旦話を止めた。
「魔法レベル…俺の場合魔法レベルってどのくらいなの?」
恵樹が不思議そうな顔で質問した。
「ちょっと待ってね…」
待ってと言い、私は手で三角・四角・丸の順で形を作り、ひし形に手を固定してその手を恵樹の顔が見えるようにして覗いた。
そこには、意味不明な単語があり、その下に数字が書かれていた。
『0』
数字はそうなっていた。
しかし、手の枠の下の方に数字で『100』となっていた。
私はその数字が何を表しているのか分からなかった。
この魔法は魔法レベルを見るもので他の事は知れないはずなのに、魔法レベルとは別に『100』となっていた。
「で、魔法レベルは?」
恵樹が興味津々に聞いてきた。
「恵樹の魔法レベルは『0』だよ。まあでも、魔法がない所から来たんだからそうなっちゃうよ。でも私にはよく分からない数字があったんだけど何か知ってる?」
「え…いや知らないよ」
「そうだよね。…気になるな…『りゅうび』に聞いてみよ」
腰を叩き指先は腰に付けたまま手の平を離した。
すると、腰にカードケースのようなものが出現した。
カードケースからカードのような札のようなものが飛び出していき凛亜の周りをグルグル回りはじめた。
凛亜が手を伸ばし、渦の中から一枚の札を掴んだ。
一枚の札を取られた事により均衡を保てなくなったようにカードケースに戻っていった。
「い、今の何⁉」
突然恵樹にとって不可思議な現象が起こったのだ、聞かずにはいられないだろう。
それに、自分で調べたわけでもないのに雑誌に載っていた記述を覚えていたのだから、馬鹿らしいと思っていても少しくらいは魔法に興味を示していたのだろう。
だから、より聞いてきたのかもしれない。
「ん、さっきの?さっきのはね私が使役している使い魔や式神を封印しておく札。これもそうだよ」
はい、と恵樹に札の渦の中で一枚だけ掴んだ札を渡した。
「…おぉぉ‼これ、龍?ドラゴンじゃないよね‼」
すごいがっつき…
札には一匹の蒼い龍が描かれていた。
その龍は今にも飛び出してきそうな迫力だった。
恵樹のがっつき方も同じぐらいの迫力だった…
「うん、龍だよ。この龍は『龍尾』ていうの」
「『龍尾』?さっきなんか聞いてみよって言ってたけどこの札しゃべるの?」
「この札はさっきも言ったように封印するための札なの。だから、個々の魔力はこの札に封印することにより使えなくなってるの。だから、この状態では動く事も話す事もできないの」
「へえ、じゃあどうやって聞くの?」
「ちょっとそれ貸して」
「?はい」
恵樹は不思議に思いながら、私に札を渡した。
私は恵樹から札を右手で受け取ると、右手と左手を平行に固定させた。
龍が描かれている方を左手に向けて、親指だけを絵の方に添え手を叩いた。
両手の手首を捻りながら、肘を広げ縦に立てていた手を横に倒した。
絵から右手を離した状態で左手と右手を離した。
離していく右手と左手の間に光の玉が出現して凛亜と恵樹の前に飛んでいった。
光の玉は膨らみ、分散した。
光の玉の中から一匹(一体)の龍が現れた。
「よう、凛亜。久しぶりじゃの。この頃呼んでくれないんで、儂のこと忘れたのかと思ったぞ。で、召喚した御子は何処じゃ?皆が楽しみにしておったぞ。会えるのが。」
そこには一人称を『儂』という尾っぽのない蒼い龍がいた。
「…………⁉」
恵樹は驚いて何も言えず、ただ驚くことしかできなかった。
「えっと、恵樹大丈夫?w」
「おっ!儂の後ろに居たのか。物音も断てず静かにしておったから気づかんかったわい。カッカッカッ すまんすまん」
「………‼」
今度は肩を震わせた。
急に自分に話が振られて驚いたのだろう。
「の、のう凛亜。こやつは起きているのか?肩を震わせただけで話かけてもしゃべらんぞ。口は開いているが」
「大丈夫。それに、肩を震わせたの見たんなら自分の言葉に反応したって分かるはずなんだけど…ねえ恵樹大丈夫?この龍がさっききいてみようって言った『龍尾』だよ」
「そうじゃ、儂が龍尾じゃ。凛亜の式神のな。これからよろしく頼むぞ」
龍尾の自己紹介を聞きハッとなった恵樹。
「えっあっえっと岳兎恵樹です。えっっと…こちらこそよろしくお願いします!」
「ハハハッこんな龍に緊張しなくていいよ」
「むっこんな龍とはなんだ!こんな龍とは!儂にはのう立派な『龍尾』という名があるんじゃ!ちゃんと名で言えといつも口を酸っぱくして言っているじゃろう…はあ、いつまでたっても手の掛かる御子じゃ…」
「むっ!手の掛かる子供じゃもう無いもん!私成長したもん!その証拠に龍尾が私の式神になった頃より式神増えたでしょ!しかも、強いの!」
プー
擬音語で表すならこれだろう。ちなみに、頬を膨らませた音だ。
「ね、ねえ凛亜そんなことしてるより聞くことあるでしょ」
「っ!そんなことじゃないもん!」
まだ剥れている。
「まあまあ、もう落ち着いてもよかろう」
「龍尾が元でしょ!…ふー…よしっそうだね。龍尾、恵樹から何か魔法以外のものをかんじない?」
「ん?あぁ話していて何かかんじたぞ。…それが何か聞きたいんか?」
「うん。そうなの。何か知ってる?」
「いや、生憎じゃが儂にも分からん。じゃが、魔法のようにランク付けされているのか分からんがその力は相当強いものじゃと思うぞ。儂などの年寄りどもには若い者よりも物をよく知っているやつが多い。そうすると、必然的に見えるものがあるんじゃ。それは、魔法レベルじゃ。普通のものには数値として見えるのじゃが。年寄りには光の明るさで大体の数値が分かるんじゃ。その光は年代によって色が違うんじゃが恵樹の場合は光ではなく、星の数で表されているぞ。ざっと数えても40~50近くの星が瞬いて見える。」
どういうものかは分からなかったが、やはり私達とはまったくの別ものの力を恵樹は所持しているということは分かった。
「龍尾は分からないと言ったけど、あの人達のネットワークにアクセスしてもらっても分からないかな?」
「あぁ、あやつらか、多分分からんと思うぞ。あやつらのネットワーク内で共有している情報は大体がこの世界のものじゃ。異次元の情報など持っていても子供騙し程度の内容じゃと思うぞ。」
龍尾はあの人達の事が嫌いというわけではないと思うが、そう思ってしまっても差し支えがないぐらい断言した。
「そうなんだ…あの人達のネットワークでも分からない情報なら他の誰に聞いても情報は手に入んないね」
そう、あの人達のネットワークの情報量は私が思うにこの世界の誰よりもあると思っている。
だから、あの人達にも分からないとなれば、本当に恵樹の力は未知の存在ということになる。
「結局分かんなかったね。でも、さっきから『あの人』やら『あやつら』とか言ってるけど誰なの?」
「あぁ、あの人達はね正式名称は分かんないんだけどコミュニティーっていうグループで活動している群体小精霊なんだよ。私は一つのコミュニティーを使い魔にしてるんだよ。今『使い魔』って言ったように精霊なんだけど、小悪魔の方が遺伝子上悪魔の方が強いから使い魔って皆に言われてるの。」
まあでも実際本人達は『悪魔』って言われるの嫌がってる節があるんだけどね。
「へー、そのコミュニティーにはリーダーみたいなのはいるの?」
「うーんあんま気にしたことは無いんだけど、伝令役のような仕事をするのは一体いるよ。他の精霊達が集めた情報をまとめて伝えてくれるの。まあ仲介役みたいなものかな?」
「ふーん……」
恵樹は龍尾の言葉で話を遮られた。
「話の途中で悪いんじゃが、この家の住人が帰って来るぞ。記憶操作の魔法を凛亜、お前かけたようじゃが。ならこの会話を聞かれたらまずいんではあるまいか?」
親が帰ってくる
「うんそうだね。恵樹。あなたは私の学校に転入という形で入ってもらうから。転入手続きは私の家から出すから入学式の次の日にある1年生~2年生すべての単元が出るテストがあるから、それに向けてこの3週間勉強頑張った方がいいよ。私は教科書持ってないけど、近くに図書館あるし、必要なら私の式神やらなんやら貸すからがんばってね。範囲は後で渡すから」
「えっちょっ!入がっ…」
恵樹の言葉はまたも遮られた。
今度は龍尾ではなく、この家の鍵が開く音と私の目の前で開いた誰が来たのかを伝えるウィンドウの音だった。
そのウィンドウには龍尾の言ったとうり私の両親が仲良く帰ってきた映像だった。
読んでいただきありがとうございます。
感想やダメだしがありましたらお願いします。
これから、投稿できる時間があればしていきたいと思います。
最後にもう一度
読んでいただきありがとうございます。