それからとエピローグ
これで最後となります。
よろしくお願いします。
次の日、彼女は昨日と同じ時間にやってきた。昨日と違うのは彼女が店の中をうろちょろしなかったことだ。そして僕たちはエロ本の内容について話し合った。最初は恥ずかしかったが、それも日が経つごとになくなっていった。人としてどうなのそれ、という感じもするが。
おっさんを交えて話したこともあった。
沙耶とおっさんの家にお邪魔したこともあった。
やはりというか、家中にはエロ本が散らかっていてさすがにひいたこともあった。
そんなこんなで沙耶と出会って一年が経っていた。
彼女は初めて僕の家に足を踏み入れていた。
「もうあなたと出会って一年ぐらいたったのかしら?」
「うーん、そうだね。一年たったね」
すると彼女は少し恥ずかしげにこう言った。
「これからも友達でいましょう」
僕はこの一年考えていた。
沙耶に一目惚れしたあの日から、〝友達〟という言葉を。気持ちには嘘はつけない。そして僕は覚悟を決めた。
「これからは友達じゃなくて恋人でもいいかな?」
「……え……?」
僕たちは三年の交際のあと結婚した。
それから一年後に子宝にも恵まれ、元気な女の子が生まれた。
順風満帆な人生だと思う。
どこにでもある話だ。出会いのきっかけがエロ本ということを除けば。
それから数年が経ったある日、娘が宿題を持ってきた。内容は『お父さんとお母さんの馴れ初め』だそうだ。
「ママ、パパ。ママとパパはどこで出会ったの?」
「出会ったのは昔パパが働いていたコンビニだったな」
「そうね」
僕の言葉に沙耶が頷く。
「じゃあどうやって仲良くなったの? きっかけ書かなくちゃいけないんだー」
僕と沙耶は目を見合わせる。結論はひとつしかなかった。
僕たちは声を合わせてこう言った。
「いえないな」
「いえないわ」
最後に。
これは誰しもの手記であるかもしれないと書いた。
答えは否であった。
これは誰しもの手記であってほしいという僕の願望であった。
下心から恋が始まるとすれば、エロ本から始まる愛があってもいいのだと、そう思ってほしかった。
結論を書こう。
運命の出会いはあるのだ。
くだらない、些細なことでも運命の出会いになる。
運命はどこにでも転がっている。
でも自ら手を伸ばさなければ掴めない。
逆説的にいえば、手を伸ばすだけでいいということだ。
これを読んでいるあなた。
今までと少し違う見方をしてみよう。
そうすればあなたにも運命が見えてくるはずだ。
手を伸ばしてほしい。
そこにはちょっとした楽しさと、ちょっとした悲しみ、ちょっとした幸せがあるから。
そしてそうした〝ちょっと〟が共有できる相手も現れるはず。
それはまさに運命の相手である。
季節は春。
今までの人生観を別れ、運命に出会う。
誰にでもある、誰しもの手記になることを願い、ここで筆を置かせていただく。
お読みくださりありがとうございました。
評価の方よろしくお願いします。