彼女との会話
拙い文章ですがよろしくお願いします。
「沙耶……なんで僕にオススメなんて聞くんだよ」
「あなた……エロ本好きよね?」
「そりゃあ嫌いな男はいないと思うけど」
「そうね、それじゃあ質問を変えるわ。あなた、エロ本を読む女性は好き? ひいたりしない?」
その瞳には不安の色が混じっていた。
エロ本を読むときはいつだって一人、つまり孤独だ。それは当たり前のことだが沙耶にとっては違うのかもしれない。いや、孤独が寂しいのかもしれない。
この世界は女性がエロ本を読むのは歪で、白い目で見られる世界だ。だが僕の世界は彼女の一言ですでに壊れている。
だから僕は本音を告げる。
「エロ本読む女性なんて大好きに決まってるよ。僕のなかでは美女がエロ本を読んでるのって、とっても絵になる」
ただし本音を告げるのと性癖を晒すのは違うと思った。
「…………」
彼女はそっぽを向いていて顔から表情を窺うことは出来ない。
しかし彼女の左手はひっきりなしに髪を弄んでいた。
そして僕にはひとつの疑問が生まれた。
「なんでエロ本好きなの?」
「好きなことに理由なんているのかしら」
清々しい回答が返ってきて僕は素直にすごいと思った。彼女はことごとく僕の世界を壊していく。
「あなたは何故エロ本が好きなのかしら」
「男にとってエロとは本能だからね。男ってのは裸が好きなのさ」
僕の視線はついつい彼女のの身体を舐めまわしてしまう。
「嫌だわその視線」
沙耶は両腕で自分の身体を抱き寄せる。
「ご、ごめん。でも、沙耶みたいに綺麗な人は男からはそういう目で見られてるからね」
「そっ、そういうものかしら」
「そういうものだね」
沙耶は落胆した姿を見せたが諦めが入ったのか、先ほどの調子を取り戻す。
「物凄く話が脱線しているのだけれど、本題に戻っていいかしら」
「うん?」
「オススメのエロ本の話よ」
ああ、最初は名前を聞くためにわざと脱線していたが、そのうちに忘れていた。
「オススメねえ〜」
僕も何十何百とエロ本を持っているが、エロ本というのはどうにもタイトルを見ない傾向にある気がする。どんなジャンルかは覚えていてもタイトルが出てこない。
「う〜ん、僕ん家来る?」
「私、もしかしてあなたに処女を狙われてるのかしら?」
「えっ? 処女なの?」
途端こめかみに激痛が走る。沙耶のアイアンクローが僕に炸裂しているのだ。
「いだっ、いだだだだだだっ」
「さっき言ったことは忘れなさい。というかもう忘れてるわよね?」
明るくて怒気含んだ、どうやったらそんな声色になるんだ。な声。
「なんでアイアンクローされているのかわかりせんっ」
「心当たりがないと?」
「はいっ、僕は何も喋ってませんっ」
「……よろしい」
彼女はパッと手を離す。なんて握力だ。プロレスラーかよ、と言おうとしたが僕は力自慢のためだけに潰されるリンゴのようになりたくなかったので口を慎む。
いまお客さんが入ってきたら銀行強盗と間違えられたんじゃなかろうか。
「で、僕ん家来るんですか?」
「だからあなたはなんでそんなにナチュラルに女性を家に誘うのよ」
沙耶は頬を赤くしバツが悪そうに呟く。
「えっと……ごめん。デリカシーに欠けてたよ。下心なんて全然なかったし」
「それはそれで自信をなくすのだけれど……まあいいわ。そっちの方が都合いいし」
まあ、下心なんてありありだけど。それは言わないでおこう。
「僕の家にはこないってことでいいのかな?」
「そうね、それはまた〝今度〟ね」
今度、それは次があるということ意味していた。
「じゃあ帰るわね」
「えっ、帰るんですか?」
「お仕事の邪魔しちゃ悪いもの」
おや、さっき仕事してるように見えないと言っていたが彼女は気分屋なのかもしれない。
この短時間で沙耶についていろんなことがわかってくる。そのことがこそばゆくて、僕の顔はニヤけてしまう。
「それにおじいちゃんが待ってるしね」
「おじいちゃん?」
沙耶が目線を外にやる。僕も沙耶の目線を追いかけながら外を見やる。
そこには先ほどのエロ本のおっさんが立っていた。
「は?」
「あの人、私のおじいちゃんよ。いつも私のためにエロ本買ってきてくれてたのよ」
あのジジイ、何がいい女だよ、ただの子煩悩じゃないか。
つまり、なんだ? 二人して僕を騙していたのか? なんのために。
「私ね、あなたのことずっと見ていたのよ」
少し優しい声色。少し垂れ下がる目元。また見る彼女の初めて。僕は心を掴まれる。
「あなたと友達になりたかったの」
「オススメのエロ本なんてどうでもよかったのよ。そんなのおじいちゃんに聞けばわかるしね」
おどけた顔、また変わる沙耶の表情。
僕はそんな彼女の決して大きくはない表情の変化に目を奪われていた。
「ただ……これはおじいちゃんに悪いけど、おじいちゃんと話してもそれほど楽しいと感じはなかった。……今あなたと話してとても楽しさを感じたわ。だから私、あなたと友達になりたいの」
今度は少し不安そうな、少し勇気を出したような表情。
「いいよ」
心からの言葉。それが僕の口からこぼれ出る。
「そう、ありがとう。じゃあまた明日」
平然とした声。でもまた少し表情が変わってく。安堵した表情に。
「また、明日」
彼女は軽く手を挙げ、髪をなびかせ店を出て行く。
僕にはやらなくちゃいけないことができた。とりあえずは仕事。そのあと家に帰ったらエロ本を読もう。沙耶と楽しく話せるように。
お読みくださりありがとうございました。
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