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物語綴  作者: 碓井旬嘉
5/8

5



「よかったじゃん」

言うと、はにかむように笑ってみせられた。ほんのりと染まったその頬があまりに可愛くて、つい、伸ばしかけた手を急いで引っ込めた。大丈夫、気付かれてない。大丈夫、大丈夫。

「幸せになれよ」

言うと、今度は小さな笑いを溢される。

「何、それ。まるで、結婚するみたい」

幾度となく聞いた声なのに、それはまるで知らない女のような声。

「だって、いつかはそうなるだろ?」

言うと、苦笑いを洩らされる。

「そんなの、わからないよ」

何で、こんなにも自然なんだろうか。

胸は確かに軋んでいるというのに、口から出るのは思っているのと正反対の言葉ばかり。こんなにもすらすらと出ることに、自分自身でも驚く。

「あいつは、いい奴だよ」

言うと、知ってる、と返ってきた。だろうな、とこちらが返すと、うん、と頷かれる。

幾度となく、顔を向き合わせて喋ってきたのに、どうしても、こんな違う誰かに見えるのだろうか。知らない女がそこにいるようで、ああ、やはり女なんだな、と思わさせる。そう、女なんだ。

別に、今までその事実に気付かなかったわけではない。とうの昔に気付いていたし、それは俺の中で最大のことだった。唯一、女として見れる存在だから。

他の女なんて女であって、「女」ではないのだ。

「いや、でもさ、あいつが選んだのがお前ってな」

「ちょっと待って。どういう意味?」

頬を膨らませる仕草は、昔からの癖だ。

「だって、あいつなら、選び放題なのに、敢えてお前を選ぶってさ」

「それは、彼は私の魅力に気付いてるからです」

「お前の魅力って何だよ」

苦笑いを溢す。

そんなの、俺だって知っている。だから、あいつが、こいつを選ぶのは至極当然だというのも、痛い程にわかる。しかも、真っ直ぐに好意を向けられたなら尚更だろう。

「あー、勿体無いな」

「その言い種は酷い」

「当然の答えだ」

「わかった。寂しいんでしょ?」

どきり、と心臓が鳴る。

「わかったわかった。私に彼氏が出来て、寂しいんでしょ?」

「半分正解。半分間違い。俺は、あいつに彼女が出来て寂しいんだ」

いつから、間違えたんだろう。いつから、道を誤ったんだろう。何で、いつまでも隣で笑ってられるなんて、過信していたんだろう。もう、こんなにも笑うことさえ辛いというのに。

包み隠すつもりもなかったし、いつかは告げようとも思っていた。

でも、好きになった、と言われ、気になるんだ、と言われ、右にも左にも立ち居かなくなって、その場に留まるしか出来なくなって。間に挟まれて、何でか知らないけど、デートのセッティングとかしたりして。

いつからやり直せば、そんなことにならなかったんだろうか。

今、ここに、立っていることさえ、本当は酷く苦痛でしかなくて。

「ま、でもさ、お前らお似合いだよ」

「そう言ってくれると思った」

「お前ら二人はさ、俺の大事な友達だから、こうなって嬉しいよ」

つらつら、つらつらと、口をついて出る。

まるで、


──息を吐くように嘘を吐く。


多分、俺は、この先一生こうなんだろう。

胸に抱えた、大きなものを隠したまま、呼吸と嘘を、同時に繰り返していく。




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