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God of the Sky  作者: 青乃郁
薔薇とキャラメル
9/25

おつかい 前編

 

 あの後、俺はまたエリーに屋敷から追い出された。今度は放り出されなかったけれど、やっぱりエリーは俺にきついような気がする。

 バールに戻るとおっさんが既に俺のしたことに気付いていてご立腹だった。死神の事を話さないように気をつけて話をした。死神がバールに来なくなったことをおっさんはぼやいていたのを聞いた事がある。ソルのところにいるということは昨晩のことで気付いただろう。でも、あんな状態である事まではおっさんは気付いているはずがない。ただ単にバールを避けていると思っている。大雑把にソルの裏稼業の手伝いをしたいとだけ伝えた。こってり絞られたけど最終的には許してくれた。

 というように報告したことを講義の合間にソルに報告した。


「許してくれたんだな」

「うん。いい経験になるだろって言ってた」

「マスターはお前にバールを譲る気なんだな」

「そうなのかなあ」


 それってちょっとめんどくさい、とは口には出さなかった。


「あーあ、なんでこんなことに」

「お前ってほんと馬鹿だな」

「ソルに言われたくない」


 ソルは本をパラパラ捲っている。読んでいるとは思えない速さだった。俺は隣で机に突っ伏して額を腕に擦り付けている。


「アルテさんはお前の事を俺に任せてくれた。実質的にお前の主人は俺だから」

「うえー」

「夕方は家に直行だ」

「直行?そんなにすることがあるの?」


 死神の「狩り」のための依頼を運ぶだけの仕事だと思っていたからこの展開は意外だった。しかしソルが考えている事もわかった。俺を使用人として使いたいのだろう。人でが足りていないのは明らかだ。つまり俺は、エリーの後輩になってしまう。ということは。


「え、掃除……?」

「その他諸々」

「え?まだなんかあるの?」


 学校で話せることではないから、とソルはそこで話をやめた。ちょうど教師も教室に入って来たので続きは放課後だ。退屈な時間を気になる事を考える時間にあてた。


 講義が終わるまでものすごく時間が長く感じた。思ったよりも俺はこの仕事を楽しみにしていたようだ。平穏な日常からの離脱は、確かに俺の望みだった。だから小遣い稼ぎと銘打ってまであんなことをしていたのだ。この成り行きは願ってもないことだった。ただ、その程度が甚だしかっただけのことだ。

 ソルはとっくに俺を置いて先に行ってしまった。目的地は同じなのだから、声をかけてくれてもいいのに。その後を小走りで追いかけ、隣に並んで歩いた。


「なー、今日はなにするの?」

「お前はおつかいだ」

「はあー?おつかい?また?」

「また?頼んだ事ないだろ。死神の服。替えにもなるし新しく作るんだ」

「ああ」


 昨日アルテさんが言っていた件だった。俺が行く事になっているらしい。


「『狩り』のことはいいの?そのことで騒いでたんだと思ってたけど」

「それが……」


 ソルが少し黙り、考えてから口を開いた。


「収まったんだ」

「収まった?空腹が?」

「ああ。お前と接触したからだと考えたんだが、何かしたか?」


 全く身に覚えがなかった。興味を持たれた事は事実だが、接触したのは額と包帯だけだったと思う。すぐに牢屋から出たし、それ以降は口もきいていない。自分が原因だとは思えない。

 屋敷に到着して、客室に入るとソルに少し待つように言われてソファに腰掛けた。その間にエリーがお茶を淹れてくれた。礼を言ったがエリーは頭を下げただけだった。俺は気にせず話しかける。


「エリーはどうやって雇われたの?紹介?」

「はい」

「実家はどこ?」

「途方もなく遠いところよ」

「遠いところ?」

「ええ。地の果て、空の上」


 教えてくれないようだ。エリーの横顔を眺めていると、なんだか懐かしいような気持ちが湧き上がってくる。彼女と会うのは3回目で間違いないはずなんだけど。同じ街に住んでいることだし、どこかですれ違っていたのかもしれない。俺の視線に気付いたのか、エリーが手を止めてこちらを向いた。


「何?」

「いいえ。そっくりな人を知っているもので」

「俺?」

「ええ。本当に、そっくり」

「どのあたりが?」

「そうね。瞳かしら。緑と赤。どちらも良く知っているわ」

「え」


 思わず身を乗り出したところでソルが戻って来てしまった。話はこれでおしまいだ。エリーは入れ替わるようにドアから出て行った。代わりにソルが目の前のソファに座った。テーブルの上に蝋で封をした封筒を滑らせるようにして差し出した。


「ん?」

「これを店主に渡せばいい。場所はここだ」


 今度は簡単な手書きの地図を渡された。仕立屋の場所は教会の近くで、大通りの南側に印がつけられている。こんな物々しい封筒を持たせるような店だ。きっとお金持ち御用達のさぞかし立派なお店なのだろう。


「終わったら戻ってエリーを手伝ってくれ」

「はいはーい。ねえ、これってお給金は出るんだよね?」

「ちゃんと仕事すればな」

「ならいいや。行ってきまーす」


 ぐいっと紅茶を飲み干して、カップを置いて屋敷を後にした。



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