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God of the Sky  作者: 青乃郁
嘆く隻眼
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ジュールの屋敷

 ソルの家は広い森を背景に、少しずつ侵蝕してつつある森に囲まれた広い敷地内にある。門から中に入ると、玄関までの短い道の周りには奇麗に植えられた色とりどりの薔薇の花が所狭しと並んで出迎えてくれる。

 彼の家にくるのは初めてだった。ちらほら整えきれていないところが見受けられるけど、それでも俺からしてみれば贅沢なものだ。さすがは貴族様って感じ。

 門から入る前に「絶対に俺の部屋から出ないと約束しろ」と釘を刺された。約束しなければ入れないとも言われてしまったから、俺はうんうん頷いて承諾した。

 大きな扉から中へ入る。出迎える者はいなかった。


「誰もいないの?」

「いや、使用人がいる」


 そういう風には教育していないらしい。それでも俺を客室に通した後はお茶を淹れさせるためにメイドを呼んだ。黒い髪を高い位置で黒いリボンでまとめた綺麗なお姉さんだった。にっこり微笑んでくれた。俺もこんな環境で暮らしてみたい。


「使用人はエリーだけ?」

「……ああ、今のところは」

「ほんとに?もう1人は?」

「は?」

「あ、ありがと」


 ソルのおっかない視線を避けて、お姉さんが差し出したカップを受け取った。高級そうな香りがするお茶だ。軽く口を付けて置いた。目の前に座っているソルはなんだかすごく落ち着かない様子で、俺の挙動を伺っているみたいだ。


「そんなに心配しなくてもうろうろして嗅ぎ回るとかしないよ」

「それは助かる」


 彼が気にかけているのは俺の事だけじゃない。他の何かを俺は知らないので聞き出す他ない。

 食器の音と時計の音だけが部屋に響いている。俺の発言を待っているのか何も言わない。そりゃあ、押し掛けたのはこっちで、彼は俺に用なんかないのだろう。気にかけているものを気にしている。


「なんかあるの?」

「いや。それより本題に入ったらどうだ。俺が何故戻って来たのか気になるんだろ?」

「うん」


 全く持ってその通りだ。ソルは足を組み直して背もたれに身を預けた。


「休学したのはあれでしょ。復讐だっけ?」

「まあ、そうだ。遂げられてはいないけど」


 それじゃあなおさら、なんで戻って来たんだろう。学校生活が恋しくなったとか、そういう人間ではないはずだ。心境の変化にしろ、頭の良いソルならそんな回り道しなくてもいい。

 俺は、どうしてその理由にこんなにも興味をそそられるのだろうかと考えてみたが、思い当たる節はなかった。


「笑うなよ?」

「うん。うん!」


 話してくれる気になったらしい。お世辞にも学校で人望が厚いとは言いがたい彼は、俺以外に話ができる相手なんていない。そしてこの状況だ。1人しかいない使用人。しかも雇ったばっかりだとしたら、そうそう内なる思いを吐露するなんてできない。

 お茶を啜って、彼の唇に集中した。


「夢を見たんだ」


 虚をつかれた。予想以上だった。


「へ?」


 間抜けた声が出てしまった。ちょっと彼の癪に障ってしまったようだ。眉間に皺が寄った。でもまだ話してくれる気はあるようで、続けた。


「嫌な夢だったんだ。俺が少しでも力になれたら。そう願わずにはいられなくて……」


 悲痛そうに見える。言葉を切って強く歯を噛み締めた。


「元の地位を取り戻そうと思うんだ。その方向で復讐の方も遂げられたらって考えている」


 名家ジュールのかつての栄光を。没落貴族と呼ばれた彼が初めて前向きな意志を示した。まあ、おまけはついてるけど。


「よっぽど現実的な夢だったんだね?」

「ただの夢である事を願ってる」


 その夢の内容は教えてくれない。けど、きっと大事な誰かのためなんだろう。最初の目的でさえ振り払って諦めてしまえるような、彼に取ってかけがえのない誰かと出会う事ができたんだ。親友としてはとても喜ばしいことなんだろうけど、秘密をたくさん作られるのはちょっと嫉妬してしまうなぁ。


「ふは」

「なんだ?」


 口から自然に苦笑が漏れた。


「お茶、おかわりもらっていい?」

「わかった」


 ソルがベルを鳴らすとすぐにさっきのお姉さんが現れた。僕がもう一度同じように頼むと、緑の奇麗な瞳を細めて頷いて彼女は近寄ってくるとカップを受け取ってくれた。お茶を注いでそれを僕に渡すと、またすぐに部屋を出て行ってしまった。


「忙しいんだね」

「使ってなかった部屋の掃除も任せてるからな」

「この馬鹿みたいに広い家の……?」

「そのうち増やすさ」


 数年空けていた家の手入れは結構大変だろう。それを1人でさせられてるお姉さんをすごく不憫に思う。

 1人。俺は腑に落ちなくて口を噤んだ。

 ソルと、俺と、エリーと。そして、時々感じる何かの気配。さっきから僕に語りかけて来るような気がして背筋のぞくぞくが収まらない。人の家でそんなことを言うのも気が引けて遠慮したけれど、やっぱり耐えられない。ソルは感じていないのだろうか。


 ——!

 ……ほら、ね?好奇心も限界だ。俺だけじゃないことを願う気持ちも限界だ。

 俺は口の横に手を添え、声を低くしてぼそぼそと尋ねた。


「ねえ、やっぱり2人じゃない?」


 ソルは笑顔で無視して、またお姉さんを呼んだと思ったら「こいつを放り出してくれ」と言い放った。エリーは快くそれを聞き入れて、俺を敷地外へ放り出した。言われた通りに。


「酷い!客にこんな扱いって!」


 ソルは見送りにも出てこなくて、放り出されて地面に転がった俺はエリーを見上げて憤慨していた。彼女は見下ろして、緑の瞳を細めて妖艶に微笑んだ。


「旦那様のご命令ですから」


 こんな命令ならこっそり逆らったって叱られやしないんだぞ!



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