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God of the Sky  作者: 青乃郁
薔薇とキャラメル
11/25

真夜中の来訪者 前編

 

 1つ目のお仕事は、奇妙な双子に絡まれたことを除けば簡単なものだった。拍子抜けしたくらいだ。これならまだ、俺の夜のお仕事の方がスリルがあって楽しい。

 日が暮れてきたが、俺はソルの屋敷へ戻らなければならない。しばらく夜のお仕事はお休みだ。解放されるのがいつになるのかわからないけれど、お金は貰えるみたいだからその分の仕事はしよう。戻ったら、屋敷の掃除だ。掃除はそんなに好きではない。正直気は向いていなかったがお仕事だから仕方ない。

 屋敷に辿り着くと、エリーが待ち構えていて俺を捕獲した。引き摺られるようにして2階に上がり、階段を上がってすぐ左側のドアを開けた。空気がむっと埃っぽく、何日も換気されていないのがわかる。置いてある家具はクローゼットとベッド、テーブルとソファだけだ。どれもこれも高級なもので揃えられていて、壁紙も絨毯も落ち着いた雰囲気で大変趣味が良い。だが清掃はされておらず、高級な家具は埃を被ってしまっていた。


「ここは誰の部屋?」

「お客様に泊まって頂く部屋よ」


 窓を開けながらエリーに聞くと、普通に返ってきた。客として訪れていた時の丁寧な物言いは消え失せている。多分、完全に使用人として受け入れられたのだろう。つまり俺はエリーの後輩になるわけだ。どうやら先輩として振る舞う事にしたらしい。いつの間にか掃除道具を床に並べて、腰に手を当てていた。


「夜までに済ませるのよ」

「それは俺1人でやれってことですか先輩」

「当たり前でしょ」

「この部屋は俺の部屋の数倍広い。俺は自分の部屋もまともに掃除できないのに、ここを数時間で終わらせろっていうのはあんまりじゃないかな?せめて明日までとかさ」


 お客が来る訳でもないのだから、と付け加えたらエリーは少し考える仕草をしてみせて、やっぱりノーと答えた。


「すぐわかるわよ。少し手伝うから、せめてベッド付近と目に付く埃を片付けてしまいましょう」


 なにがすぐにわかるのか聞きたかったけれど、質問をする前にはたきをぐいぐい胸に押し付けられたので観念して、箪笥の上の埃に取りかかった。数年分の埃はたっぷりで、はたけばはたく程くしゃみが出る。その度に全く関係ないけどソルを罵倒してやった。こんちくしょう。

 もう一度くしゃみをした後、場所を変えようと振り返った。エリーがベッドに腰掛けて、俺のことをじっと見つめていた。むずむずしたのは彼女の視線のせいかもしれない。


「なに?」

「どこまで覚えてるのかしら、と考えていたのよ」


 意味深な物言いが多いエリーにそれなりにうんざりしてきた俺ははっきり言うように少しきつめに言ったが、エリーは取り合わなかった。


「俺は気付いてからずっと記憶喪失で、自分が何者かもあんまりわかっていないんだ」


 相変わらず自分のペースで俺に話しかけるので、苛々しながら言った。


「それは地下にいる子も同じよ。つまり、どういうことなのかわかる?」

「俺と死神が同じものだとでも言うつもりかな。俺は人を殺したことなんてないよ」

「本当に?」


 エリーは俺を人殺しだと思っているのだろうか。疑われているとは気分が悪い。返事をしないでいると、エリーが勝手に喋り出した。


「今度は死んじゃ駄目よ」

「俺、死んだ事ないけど」

「そうかしら」


 死んでたらこんなとこで掃除なんかしていないと主張したが、もうそれ以上何も話してくれなかった。訳が分からない苛立ちをはたきを放り投げる事で発散した。ぽいっと。

 タンスの上をきつく絞った布で拭いたところで、微かなベルの音がした。


「お客様だわ」

「こんな時間に?」

「旦那様は学生だし、今は裏家業が主だもの」

「あ、そっか」

「今はね、って言っておくけど。あなたはお客様を客室に案内しておいて。私はお茶の準備をします」

「はいはーい」


 俺は了承して、すぐに下に降りた。玄関では丁度ソルが客人と出くわしているところだった。

 階段の最後の段差から降りた後、ようやく客人の顔が見えた。黒いリボン。長い金髪がふわふわと揺れる。強気な青い瞳。ひらひらのレースがふんだんにあしらわれたドレスに身を包んでいる。俺たちより年上に見えるが、その装いはまるで少女のようだ。年齢相応ではないのだが、雰囲気には合っている。

 ただ、ソルと彼女が醸し出す雰囲気は険悪なものだった。その胸には特注だろうか、大きめの人形が抱かれていた。つやつやのキャラメル色の髪がぐるんぐるんにうねっている人形は、抱えている本人と同じような服装をしていて、大きな目を閉じている。


「何しに来た」


 ソルが開口一番に用件を聞いた。


「客に向かってそんな態度なの?いいから中に入れなさいよ」

「あ、お客様こちらへどうぞ〜」


 そんな空気をぶち壊すためにできるだけ暢気な声を装った。お客様はその時初めて俺に目を向けた。


「誰かしら」

「ウラミと言います。今日から雇われた使用人です」

「ふうん。私はアリス・リデルよ」


 どうぞよろしく、と彼女は人形を抱えている手を片方離して手を差し出した。俺は強く握り返して挨拶を返した。


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