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入学式の日に浜辺で衝撃波を打つ

作者: 歯車るらら

 よく考えてもみろ。このオレ様が、何で臨海学校なんかに来なきゃならねえんだ。こういうのは、一般庶民の遊びだろう? そこに、何で国の中でも超エリートの、このオレ様が来なきゃならねえんだよ! くだらねえ、あまりにもくだらねえ! 今すぐ城に帰ってつまらねえ家庭教師とにらめっこしてかくれんぼしている方がよっぽどマシだっつの。炎系の魔法なんて、使って爽快だぞ? アフロだぞ? あたり一面焼け野原だぞ? そもそもだなあ、「最近の若い者は家に閉じこもってばかりでいかん」とかいううたい文句を本気にしやがったクソ父上が悪いんだ。オレ様は、ハイパーオレ様だぜ? 城になんか閉じこもってねえよ! 庭の迷宮でいつも救助隊ごっこしてんだからよお!

「あ、コナタ様も、いらしてくださったのですね」

「ん? ああ、じきにオレ様も家を継ぐことになるんだ。今のうちにいろいろな経験をつんで、立派な当主にならないといけないからな!」

「まあ、とても素敵なお志ですわ! こんな素晴らしい方がこの国の指導者になられるのですもの、今よりもっと素晴らしい国になりますわ」

 そう言ってにっこりと、それこそ花のように微笑むのは、下級貴族のベリーゼだ。ふわふわしたクリーム色の髪に、アメジストを思わせるような高貴な紫の瞳。白磁のような肌に白桃のみたいな色した頬。唇は朝露に濡れたスミレ色……。その微笑みは、万年雪すらもすべて溶かしきってしまうほど柔らかく暖かいんだ……。ああ……。ベリーゼがいるなら、ベリーゼのためなら、この臨海学校、絶対楽しんじゃうもんね!


 で、臨海学校ってのは、何をするものなんだ? 訳の分からないうちに入校式が始まっちまった。オレ様ともなれば、一般庶民に混ざって整列するというようなことはしない。

 が。

 今回はトクベツだ。何のかのと理由をつけて、ベリーゼの後ろをしっかりマーク。ああベリーゼ! お前は後頭部すら芸術品のように美しい!! つまらない教師どもの言葉も、お前の姿を見つめながらだと、まるで喜劇のセリフのように笑えてくる。ああベリーゼ。お前と浜辺でスキップしたい!

 なんて考えてるうちに、入校式は終わった。これからはオレ様のめくるめくタイム。ベリーゼと砂浜で追いかけっこが始まるんだ……!

 オレ様が勇んで顔を上げると、ベリーゼはすでに別の友人のところに走っていた。ああベリーゼ! 罪な女だ! で、オレ様はというと、くだらねえ一般庶民のハナタレ坊主どもに囲まれている。おおベリーゼ! オレ様とお前のきらめくショウ・タイムはいったいどこへ……!!

「コナタ様あ、男子は遠泳ですよー。早く行きましょー」

「コナタ様あ、着替えはこちらですよー」

「コナタ様あ、」

「分かってる!!」

 何でこのオレ様が! この、このオレ様がだなあ、こんなガキんちょどものお守りをしなきゃならねえんだ!

 水着に着替えたオレ様が、さっそうと砂浜へ降りる。ベリーゼ、見てるか? オレ様の磨き上げられたこの肉体を……。

「コナタ様あ」

「なんだ愚民!」

「’がりーん’って、感じですねえ」

 オレ様は耳を疑った。今、このバッド・ボーイは何と申した。

「コナタ様の体、’がりーん’ってオノマトペが、すごく似合いますねえ」

 ……’がりーん’。オレ様的には、’がびーん’。……いや、そんなくだらないシャレは父上ですら言わない。

「……お前。名は何と言う!?」

「え、グラジロディアゼギューソズノッサズと言いますが」

「長い! お前なんぞ、ベロンベロンbで十分だ! 今日からお前はベロンベロンbだ!」

「え、それは人権侵害……」

「オレ様がホウリツ!」

「……はあ……」

 くう! ベロンベロンbめ。オレ様より立派な体格をしやがって! 末代まで呪ってやるからな、ベロンベロンb! ああ、ベリーゼにはこんな惨めなオレ様は見られたくない。

「コナタ様。遠泳ですって? 頑張ってくださいませ」

「ああ、もちろん全力を出し切る!」

 こういうときに限って愛しいベリーゼはこのオレ様に声をかけてくれる。その麗しい微笑みだけで、オレ様は救われるのだが。

 それから彼女は、またも幸せそうに微笑むと、また友人の元へ走り去った。女子はカッター漕ぎらしい。ベリーゼの白く細く美しい腕が、紫外線にやられメラミン色素を大量に分泌し、なおかつどうでも良い筋肉に縁取られるのは我慢がならん。くう! できることならオレ様がカッターを漕いでやりたい!

「コナタ様、そろそろ行きませんかあ」

「うるさい! 分かってるベロンベロンb!」

 だがしかし。ベリーゼが見ているというのならまだしも、この国の未来を預かるこのオレ様が遠泳などというくだらないことに費やす時間があるというのがおかしいんだ。

 浜辺にずらりと男子が並ぶ。その中に、このオレ様。清く正しい血筋を持つオレ様が混ざる。混ざったところでその高貴さは一向に衰えることはない。むしろ逆。そう、お前たち愚民どもは、しょせんオレ様の引き立て役なのさあ!

 でもやはり、泳ぐのは面倒くさい。そこではたと気づく。別に泳ぐ必要などないじゃないか。

「位置について……!」

 教師の声が浜辺に響く。快晴の空は、海の青ほどに澄み渡っている。俺たちの浜辺の向こうに岩場がある。その影にはカッターが浮かんでいるはず。そこにベリーゼもいるはず。よし。

「よーい……!」

 オレ様は静かに呼吸をためる。全神経を、両手のひらに集中させる。手のひらが熱い! 全身が無になるような感覚! 周りの空気が、いつもと変わる!

「……スタート!!」

「……はああああああああああああああああっ!」

 教師の声に、オレ様の華麗な声が重なる。そしてオレ様は!

 なぜか空を飛んでいた。

 はるか地上を見下ろせば、そこには大きな穴が開いている。巻き添えを食らった愚民どもがもがいている。中にはベロンベロンbも混ざっている。

 オレ様の計算は、こうだった。

 衝撃波を後ろに飛ばしてその勢いで海へと前進する。威力からして、カッターからオレ様が見えるころに減速し、オレ様は自力で泳ぎだす。それをベリーゼが見つけ、「コナタ様、素敵! ベリーゼをお嫁さんにして!」と来る。それを寛大な心を許可をする……。

 完璧なはずの計画は、砂浜に穴を開けただけで終わった。あと、ベロンベロンbを含む庶民どもが砂に埋まった程度。オレ様はもちろん華麗なる着地を決めた。


 その日のうちに、オレ様が半ば強制的に城へと帰還させられた。まだ偶然にも浜辺にいたベリーゼには一部始終を見られていたらしく、すれ違いざま、青ざめた顔で「だっさ……」と言われてしまった。ああ、ベリーゼ! オレ様の実力はこんなもんじゃねえぜ! この由緒正しき血統のオレ様の力を持ってすれば、こんなビーチなど、瞬時に灼熱地獄に変えることができるんだぜ!

 リメンバー・ミー! リメンバー・ミー、ベリーゼ! オレ様は、この国を背負って立つ漢なんだぜ!!

『いつ』『どこで』『何をした』という3枚のカードを組み合わせたもので、その結果がタイトルです。

お読みくださりありがとうございました。

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