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機械の心  作者: 瑚羽
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-キカイノココロ-

どうして生まれたの?


どうして僕が生きているの?


どうして僕は………作られたの?



僕は


その人の代わりに生まれた…――――――――

紗都(さと)!サッカーするから公園集合な!!」

「あ…ごめん…理樹(りじゅ)。僕、今日は検診なんだ…」

「え…あ…また病院?紗都は体弱いから大変だな。いってらっしゃい」

「うん。ごめんね理樹」

「ううん。平気だよ。紗都こそ、お大事にな!」

 理樹はそう言って部屋を出て行った。すると、父・琢真(たくま)がすれ違いに部屋に入ってきた。

「紗都、準備は出来ているか?」

「うん。大丈夫」

 紗都はそう言って振り返る。振り返ったその顔は、理樹そっくりの10歳の子供。だが、彼の心は、現実を受け止められるようにと15歳ほどにプログラムされていた。

「行くぞ」

「うん」

 紗都と呼ばれた少年、正式名称「バイオプロジェクトSAT」は、理樹の実の弟であり幼くして命を落とした碧生(あおい)の遺伝子情報を元に作り出されたバイオロイドだ。五感などは人間同様に作られていて、体も同様に成長するが、脳に制御をかけることで感情に欠陥が見られることもあるがさして目立つほどではない。紗都は、碧生の記憶を鮮明に受け継いでいる。バイオロイドとして作られ、遺伝子レベルで構成された情報を元に作成された人工生命体で、普通の人間と変わりはない。しかし紗都は、人間の遺伝子を元に作られているにも関わらず、精密機械のようにその日あったことを記憶してしまうのだ。

 そのせいで、作成された当時は『碧生が生きていた頃の記憶』と『自分が作り出された』という記憶に打ちひしがれ、その精神は崩壊しかけてしまった。そのため、紗都の精神レベルは機械で脳に制御をかけて実年齢より常に5歳上に。さらに、悲しい、寂しいなどの負の感情を感じにくいように制御されていた。感情制御のせいで、嬉しい、楽しいなどの感情にも欠陥が見られ、紗都は背徳感を感じることが多くある。

「久しぶりだね。紗都くん」

「毎月のことじゃないですか。関谷(せきや)博士」

「随分冷たくなったね、反抗期かい?」

「反抗期?僕にそんなことが起きるんですか?」

「起きるさ。いくら感情の制御がかかっているとしても、君だって人間と同じなんだから」

 関谷博士は、そう言って検診という名のメンテナンスの支度を始める。脳にかけた制御の度合いや紗都の感情の変化などを図り、機能の安全性などを調べるのだ。

「最近なにか変化はないか?」

「とくに何もありませんよ、あるといえば…理樹に、好きな人ができたみたいで…」

「ほぅ…理樹君に?」

「はい。やっぱり、理樹は同年代の子たちと遊ぶのが楽しいみたいで…僕とは少し、合わないんですよね…」

「まぁ…お前の精神レベルは現時点で15歳だからな…」

「…なんとなく、違和感があります。勉強も全てがわかりやすすぎるくらいで、周りには大人びてるって言われるんですけど…でも、やっぱり理樹たちと同じように遊びたいです」

「うむ…やはりその気持ちは変わらないか…」

「どうせ僕はもう、自分が人間じゃないことは受け入れています。だったら、もぅ…これ以上理樹との差は作って欲しくないんです。博士、なんとかなりませんか?」

「…今更制御を外すとなると記憶の欠損が見られる場合もある。それに、制御を外した時点のお前が今の感情を受け入れ切れるとも思えない」

「………」

「精神レベルは今の時点で成長を抑制させておこう。そして、年齢と一致した時に抑制を解くようにしよう」

「…はい」

 紗都は、頷いて検診用の術着を脱ぐ。その体には数箇所の手術跡があり、これまでにどのような施術が施されてきたかがわかる。ごく普通の小学生と変わらない体に刻まれた傷跡は、紗都自信の心の傷までも表しているようだった。

 喫煙室で待つ父のもとへ向かうと、いつもどおりの笑顔を向けてくる琢真。本当の我が子のように可愛がってくれている父には、本当に心を許していた。だが、一方でそんな父に遠慮してしまう部分もないとは言い切れなかった。紗都にとって、本当の父である琢真も、母の正美(まさみ)も、どこか他人のように感じてしまうのであった。

「紗都、具合は大丈夫か?」

「うん。いつもと同じ。大したことはないよ」

「そうか」

 車の中での、短い会話。ずっと窓の外を見つめる紗都の瞳には、寂しげな光が宿っている。琢真は、そんな紗都にかける言葉もなく黙って運転する。検診のたびに紗都の見せる表情が痛々しく、そして父としての情けなさを感じさせていた。

「紗都、なにか食べたいものでもあるか?」

 琢真が質問を投げかけても、紗都は返事をしない。物思いにふけっているようだ。

「紗都」

「えっ…あ…はい」

 再び呼びかけると、慌てたように返事をする紗都。遠慮がちに発されたその声を聞くと、琢真はどうしていいかわからなくなってしまう。

「その…なにか食べたいものでもあるか?」

「え…あ…特にないよ?どうしたの?父さん」

「いや…なんでもない」

「そう?」

 元々、碧生も大人しい性格だったが、紗都はそれに拍車をかけたようにおとなしい性格をしている。碧生と過ごした時間はたったの1年だったが、紗都にその面影を探すと碧生よりも大人しく無感動な性格に育ってしまったと琢真は思っていた。

「父さん」

「ん?なんだ?」

「今度、理樹と一緒に映画に行きたいな」

「そ、そうか。なんの映画だ?」

「理樹が好きなアニメ。僕も興味あるし、どうせなら父さんと一緒に行きたいなって」

 子供らしく笑うその顔の奥に、気を使っている節がある。それを分かってしっているからこそ、琢真はその笑顔に逆らえなかった。


















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