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第8話

私は学業を終えて家に帰る途中だった。でもちょっとくらい遊びたい…そんな気持ちでゲームセンターに寄った。様々なゲームがあるが、クレーンゲームに目が引かれた。可愛いクマのマグカップが景品になっていたのだ。ミルククマというゆるキャラ系のキャラクター。まったりした表情でとても可愛い。クレーンゲームでミルククマのマグカップを取ることに苦心してると、いきなり肩を掴まれた。いたた。


「お嬢ちゃん。ちょっとこっち来てもらおうか?」


声をかけてきたのはスカジャンに髪にそり込みを入れて襟足を長くしてるという今は最早絶滅してると思われた不良(ヤンキー?)だった。嫌な予感しかしない。


「困ります。もう帰るんで。」


振り払って逃げようとしたら二の腕を掴まれた。


「ちょっとだけだからよう。」


そう言いながら不良のお兄ちゃんは私をゲームセンターの裏側の路地に連れて行った。そこには3人ほど仲間と思われる不良がいた。熊のような大男も居る。逃げたい。活路を探して目がうろうろする。


「お嬢ちゃんよー、クレーンゲームに結構金出してたじゃねえの?」


私は一目ぼれしたミルククマのマグカップ欲しさに結構な金額をクレーンゲームに投入していた。しかし決してお金持ちというわけではないのでそろそろ諦めようかとは思っていた。だがそれを口に出しても何ら好転しない事は解っていたのでだんまりを貫いた。


「俺たち今お金無いんだよねー。是非善意の施しを!」


別の男が笑う。


「ははは。あくまで善意だぜ?別に脅してる訳じゃねえよ?」


カツアゲだ。財布の中身がいつも通り2,3千円ならさっさと払って切りぬけただろう。だが、間の悪い事に今日はパソコンのウィルス駆除ソフトの更新をコンビニでしようと思ってお金をおろしてある。財布の中には2万以上入っている。流石にこれは渡せない。


「ほら、財布出せって。」


出せません。


「む、無理です。他当たってください。」


私はぎゅっと鞄を抱きしめた。


「ああ?出せって言ってんだよ!」


男が私のすぐ横の壁に蹴りを入れる。びくっと私の身が跳ねた。


「警察呼びますよ!」

「お前、自分が無事に帰れると思ってんの?おまわりさんには言えねー様な事したっていいんだぜ?」


これは一転私の貞操の危機か。自分の身の安全のためなら2万払おうか。あとで警察とかに連絡したら復讐されるんだろうな。私は暗澹たる気持ちで鞄の中から財布を取り出そうとする。


「学級イインチョー?何やってんだ?」


救いの手は突然現れた。三国君が細い路地にひょっこり顔を覗かせたのだ。


「今カツアゲされてるとこ。三国君、助けてくれる?」


根の良い三国君なら助けてくれるはず。

瞬時に現場を把握した三国君が気軽に「いいぜ」と言った。


「舐めんじゃねえよ、チビ!」


男の一人が三国君に殴りかかろうとする。が、あっさりかわされて痛烈な蹴りをお見舞いされている。続けてくの字に折れた体の後頭部を殴りつける。更に膝蹴り。ボコボコだ。呆気にとられている男の手が緩んだ。私は掴まれていた二の腕を振り払い一気に三国君の後ろまで駆け抜ける。そこが安全地帯だ。三国君は残り3人もあっさり殲滅した。がくがくに腰が立たなくなるまで痛めつけられた4人を尻目に「行こうぜ、イインチョー」と言って歩き出した。


「有難うね、三国君。助かっちゃった。」

「もうあんなくれーゲーセン行くなよ?」


もうあのゲームセンターに行くのはやめよう。もし行くとしたらあんな所じゃなくてもっと人通りの多い明るい店を選ぶ。


「うん。三国君は怪我ない?」

「あんなちょろい奴らにやられねーよ」

「良かった。あ、お礼したい。ちょっと寄って行かない?奢るよ。」


コーヒーチェーン店の看板を見つけて言う。


「コーヒーか?俺あんま好きじゃねえ。」


三国君は苦い物が苦手だ。コーヒーだけじゃなくピーマンとかもダメ。


「コーヒーじゃなくてフラッペとかさ!」


私はこのコーヒーチェーン店のフラッペがが大好きなのだ。


「そんなのあるのか?」


三国君はコーヒーチェーン店には寄り付かないらしい。あんな美味しい物を知らないなんてもったいなさすぎる!


「冷たくて甘くて美味しいよ?三国君も騙されたと思って飲んでみなって。ね?」

「お?おお。」


半ば強引な私の勧めにより三国君とコーヒーチェーン店に入った。メニューをにらめっこする。三国君は苦いという先入観があるためか出来るだけ甘そうなキャラメル味を頼んだ。私はソイ抹茶クリーム味だ。注文してオレンジ色の木の実のような特徴的なランプの下で待つ。


「変わった店だな?」

「初めて入ると戸惑うかもね。」


注文の品ができたので席に座って食べる。

私はまだ手をつけずに、わくわくと三国君の反応を待つ。三国君がストローで一口口に含む。反応はすぐ返って来た。


「おおお。うめーじゃねーか。」

「でしょでしょ。」


お気に召したらしい。私はカップを開けてスプーンで掬って食べる。うん。美味しい。私流のフラッペルールでは上に載っているホイップクリームと下の液体部分をケーキを食べるかのように垂直に切って断層のまま食べる。若干多めにクリームを残すのがポイント。そして半分まで食べ終わったら全部をかき混ぜて液体とクリームがミックスされたものを飲む。これ、私ルールね!

三国君もじっくり味わっているようだ。

ゆっくり時間をかけて食べ、私達はそれぞれからになった容器を見つめている。


「気に入った?」

「まあな。しょっちゅう寄るにはお高けえけどな。」


でもそれだけの価値はある。と思っている。家では焼き菓子はしょっちゅう作るがああいうのはあんまり作れない。再現レシピもあるが、期間限定のもあるし、ああも多種類の味は出せない。私は結構気に入っている。

私達はごみを分別して捨てて店の外に出た。


「今日は助けてくれて有難うね。三国君も困ってることあったら言ってね?」


学級委員長としてできる事なら力になるよ。


「いや、もう礼は貰ったから気にすんな。」


三国君は手を振って去って行った。



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