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第75話

月絵先輩がルティに来た。満面の笑みだ。

あんまりにニコニコしているので何かあるのではないかと一瞬勘繰ってしまった。


「お帰りなさいませ、お嬢様。」

「ただいま、朝比奈さん。」


「ただいま」と言われると本当に月絵先輩が自宅に帰って来たかのような感覚を覚える。不思議な感じ。お席へご案内する。席に着くと季節のメニューを見ているようだ。この時期だと苺が美味しいですよ。心の中でアドバイスする。

しばらく悩んでいたようだが、注文が決まったようなのでオーダーを取りに行く。


「アフターヌーンティーと苺のレアチーズケーキをお願いするわ。」

「承りました。」


厨房にオーダーを出す。それからも次々とオーダーを取って、テーブルを片付けていく。月絵先輩は私の働きぶりをにこにこして見守っている。

アフターヌーンティーの準備ができたのでケーキとお茶を運ぶ。


「ご注文のアフターヌーンティーと苺のレアチーズケーキです。」


テーブルの上にそっと乗せる。


「ありがとう。」


輝くような笑顔だ。本当に楽しそう。


「ご機嫌ですね?あんまりニコニコして見られると恥ずかしいです。」

「そう?ごめんなさいね?」


反省の色が見られない。反省する気など最初からないな?まあ、メイドさんなんて見られてなんぼなところあるけど。別におっさん客に色めいた目で見られてるわけでなし、恥ずかしくはあっても不快感はない。

月絵先輩はミルクを入れた紅茶をゆっくり口にする。


「何か良い事でもあったんですか?」

「そうねえ。まあ、あったわ。聞きたい?」


にんまりと笑う。それは大好物を目の前にした猫みたいな笑みだった。怖いからあんまり聞きたくないぞ。


「そんなに聞きたいって言うなら教えてあげるわ!」


こっちの返事はお構いなしかい!

一応『良い事』とやらに耳を傾ける。余程話したいニュースなのであろうし。


「ユキの好きな人が判明したのよ。」

「……」

「最近隠すつもりが無くなったみたいで普通に惚気てくるの。」

「……」

「何でか桃花にはまだ内緒みたいだけれど。」

「……」

「ちょっ!なんて顔してるの!大丈夫!大丈夫だからそんな顔しないで!」


そんな顔?鏡が無いのでちょっとよくわからないが、私がどんな顔をしたというのだろう?雪夜君が好きな人と上手くいってるみたいで良かったじゃないか。これで私も心配事が一つ減るというものだ。そもそも雪夜君に好きな人がいるって私はずっと前から知ってたし。今更驚くことでもないよね。それは誰だかはっきりしたってだけで…何となく具体性が出てきたってだけで…


「また、そんな顔して!…これは私、怒られるかしら?」


どんな顔だか。突っ込む気も起らない。仕事しよ。


「良かったですね。おめでとうございます。私は仕事に戻りますので…」

「え、ちょ、ちょっと待って…」


月絵先輩は「私から気持ちを言うのはまずいかしら?」やら「でもあの顔で放置しとくのもまずい気がするわ…」やらブツブツ何か言っているが、私は無の心で仕事に打ち込んだ。ホーラ、営業スマイル。私ダイジョブ。

何だか足元がふらふら覚束ないような気もするけど、気のせいだと思う。


「近日中にハッピーになるから!あんまり不安な事は考えないで!」


月絵先輩はお会計間際に力強くそう言って帰ってった。別に不安なんてないですけど?私今も十分ハッピーです。心配事も減ったし。



夜、雪夜君から電話がかかってきた。雪夜君とは毎日のように電話しているので、これはいつものこと。でもなんとなくいつものように心が浮き立つ感じはしなかった。


「月姉が何か余計な事言ったみたいだね?」

「雪夜君が好きな人の事で惚気てるって言う、アレ?」

「全く、月姉にも困ったもんだよ。こっちの気持ちも考えてほしいね。月姉にはきつく言っておいたから。迷惑かけてごめんね?」


雪夜君はご立腹のようだ。好きな子の事で惚気てるのを他人に知られるのが恥ずかしかったのかな?気にしなくてもいいのに。


「別に迷惑じゃないよ?恥ずかしがらなくても良いよ。雪夜君が幸せそうで良かった。」


私が雪夜君を不幸にしてしまった、とずっと気がかりだったから嬉しいよ。このまま雪夜君がずっと幸せならもっと嬉しい。雪夜君が雪夜君の好きになった子と明るい未来を歩んでいければいい。私はそれを心から祝福するから。


「違うよ。結衣。結衣だけには誤解されたくない。でもまだ覚悟が据わってない。こんなオレを許して?もうすぐ覚悟を決めるから、それまでオレの好きな人については何にも考えないで。お願い。」


???

よくわからないな?雪夜君がもうすぐ好きな子に告白するということだろうか。

……。この気持ちなんだろう。言葉にできない。

でも雪夜君が何も考えるなと言うなら考えるまい。私は雪夜君の好きな人について考える事を放棄した。

それからはいつもの楽しいお喋り。雪夜君はいつも面白おかしいネタを仕込んで私を楽しませてくれる。私の話もよく聞いてくれるし、とっても聞き上手だ。かなり夜遅くまで喋りこんでしまった。


フライング月絵先輩。浮かれております。

浮かれた調子で弟の恋心を暴露したら、結衣ちゃんが死相浮かんでる勢いで凹んでてかなり焦りました。

結衣ちゃん此処まで来ても雪夜君の気持ちには気付いてないもの。

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