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第68話

夏美ちゃんが是非一緒に、と言っているらしいので二宗君の家へ行った。クッキーを焼きに。どうも夏美ちゃんが友達の誕生日に手作りのクッキーを作ってあげたいらしい。是非講師に朝比奈さんを!とご指名なんだそうだ。講師なんて荷が重いし、クッキーくらいなら本見て作った方が上手く作れる気がする。でも夏美ちゃんは私をご指名と言って譲らないと二宗君が困った顔で告げてきた。まあ、いいか。誕生日に手作りクッキーとか…雪夜君を思い出してしまうね。駅で待ち合わせる。駅でナンパを追い払いながら待っていると二宗君と夏美ちゃんがやってきた。


「待たせてしまったようだね。」

「ううん。私が少し早く来てしまっただけだから。」

「朝比奈さん、今日はよろしくお願いします。」


夏美ちゃんが頭を下げてきた。ウサ耳フードのコートが可愛い。


「あんまり自信ないけどよろしくね。」


3人でわいわい歩く。

二宗君の家は平屋の和風建築だった。台所はちゃんと現代風だったのでちょっと安心。

私と夏美ちゃんがエプロンをつける。今日作るのはプレーン生地とココア生地の市松模様とぐるぐるのアイスボックスクッキーだ。


「朝比奈さんは料理がすごく上手って聞きました。そういうのって憧れます。私もそんなお姉さん欲しいな。」

「そうかな?ありがと。じゃあ白っぽくなるまで混ぜてね。」


バターと砂糖をかきまぜる。もったりと空気を含ませるように。結構重労働なんだけど、夏美ちゃん大丈夫かな?


「はい。朝比奈さんみたいな人がお義姉さんになってくれたら、一緒にお料理するんだ♪楽しそうだな~」

「それは二宗君頼みだね。」

「ホント、もっと根性出してほしいですよ。積極的に誘ったり、ムード作ったり。お兄ちゃんってそういうの苦手だから…」


そう言えば二宗君は好きな人がいるんだったね。夏美ちゃんも相手の事を知っているのかな?


「でもそういう不器用なところが可愛いって言う人もいるかもよ?」

「朝比奈さんはどう思います?」


私?


「え~?私は恋愛する気が無いからちょっとよくわかんないな。」


可愛いとは思うけど、恋愛的に惹かれるかどうかは私的にはよくわからない。私は恋とかする気がないんだもんよ。

夏美ちゃんは溜息をついた。


「要努力…」

「え?なんか言った?」

「いえ。」


バターが白っぽくなってきたので液卵を数回に分けて混ぜる。


「夏美ちゃんが今回クッキーをあげるお友達ってどんな人なの?」

「ん~。幼馴染以上恋人以下って感じです。」


あ、甘酸っぱい関係なんですね…夏美ちゃんってホントおませさん。


「でも今回の誕生日でぐっと恋人に近付いてみせます。そのための手作りクッキーですから!」


今どきの小学生は惚れた腫れたもあるんだね。私が夏美ちゃんくらいだったこと、周囲の女の子ってどうだったかな?あんまり記憶にないや。

バニラエッセンスを混ぜて二等分する。


「誕生日に手作りクッキー貰うのとかって結構嬉しいよね。きっと喜ぶと思うよ。」

「……その言い方。朝比奈さん、もしかして誕生日に手作りクッキー貰いました?」

「え?うん…」

「そ、それって…夏祭りの時見た男の子からだったりします?」


えっ。なんでわかるんだ?夏美ちゃんも心眼の持ち主?


「そうだけど…」

「ああああああ!ぬかった!ロマンチックなブランド物だけじゃダメだった!心のこもった手作り!なんで思いつかなかったの、あたし!!」


夏美ちゃんが突如乱心して私はおろおろ。


「どうしたんだ?夏美。」


騒ぎ声に気付いて、二宗君が台所に入ってきた。


「お兄ちゃん!出遅れてるよ!確実に出遅れてる!!もっとスウィートな空間をつくることを心がけて!!」

「言っている意味がよくわからないのだが…」


私もよくわからない。夏美ちゃんは無理やり二宗君の体を傾けると耳元に何事か囁いた。二宗君はそれを聞いて赤くなったり青くなったりしている。

とりあえず心を静めてクッキー作ろうよ。

私と夏美ちゃんはクッキー作りに戻った。ココア生地とプレーン生地2種類の生地を作って、ブロックで分けて市松模様にしたり、海苔巻きみたいに巻いてぐるぐる模様にしたりする。接着剤は卵白を使用している。冷蔵庫で30分寝かせてから切り分けて焼く。10~15分ほど焼くといい匂いが漂ってくる。


「あーいい匂い。」


夏美ちゃんが鼻をクンクンさせている。


「ホント。お腹減るよね。焼けてもすぐ食べられないのが残念。」


焼きあがりの粗熱を取る。


「朝比奈さんって好きな男性のタイプとかあります?」


夏美ちゃんがくるりと振り返った。


「特にないかな。」


恋愛は出来ないと思うし、する気ないから。でもそんな夢のないことは態々前途ある夏美ちゃんに言ったりしない。夏美ちゃんはまだ恋に夢見ていいお年頃だと思う。


「そっかあ~」

「夏美ちゃんの幼馴染君はどういう子なの?」

「ん~。大人しい子かな。体が弱くてよく学校休んでる。本が好き。顔はまずまずイケメン。笑うと可愛いですよ。」


へ~。大人しい子なんだ。夏美ちゃんがぐいぐい引っ張ってくパターンかな?でもそういう大人しい子に限って成長すると格好良い大人の男になっちゃって夏美ちゃんがどぎまぎするパターンとか…うぷぷ。いいかも。妄想の羽を広げてにまにま。


「朝比奈さん、お兄ちゃんの事イケメンだと思いません?」

「思うよ。」

「ですよね!顔だけは自慢なんです!」


顔だけはって…夏美ちゃん辛口。


「きっと大人になったらもっと格好良くなりますよ。頭の方もいいし、運動神経もまずまずだし。脱いだら結構すごいんですよ。」

「へ、へえ…」


脱いだらって。夏美ちゃんおませさんなのにも程があるぞ。

二宗君について色々喋っているうちに粗熱が取れたので試食することになった。場所は二宗君の家の居間だ。畳張りで大きなちゃぶ台がある。私と夏美ちゃんは紅茶を淹れた。

二宗君は居間で本を読んでいた。私と夏美ちゃんがやってくると目を向けた。


「ああ、上手く出来たかい?」

「朝比奈さんのおかげでばーっちり!これで本番も大丈夫なはず!」

「夏美ちゃん器用だよ。お菓子作り向いてると思う。」

「えへへ~」


3人で試食した。よく出来ている。美味しい。まだほのかに温かいクッキーはさっくりホロホロ。食感が良くて、ふんわり香るココアの香りもまた良い感じだ。


「ん~これで拓海たくみもめろめろ~。」


拓海と言うのが幼馴染君なのだろう。


「拓海君喜んでくれると良いね。」

「うん。拓海は家庭的な女の子が好きって言ってたから、これからも料理修業は重ねます!」

「へ~。」


家庭的な女の子か。女子力高めな女の子だろうか。是非とも頑張っていただきたい。


「エヘン。えー。お兄ちゃんはどんな女の子が好きなの?」


夏美ちゃんが咳払いして言う。


「わ、私は、その、ノリが良くて、気配りが出来て、元気が良くて、料理が上手で、勉強熱心で、笑顔の素敵な女性が、その、好きだ…」


二宗君は真っ赤になった。これは今好きな人の話かな?ん~クラスにそんな子いたっけ?頭の中にクラスの女の子を思い浮かべる。


「そうなんだ?」


それからも二宗君の好きな人について色々聞かされたが、どうもクラスに該当者がいない気がする。よそのクラスの子かな?二宗君は熱心にその人について語っている。


「あたしちょっとお花摘みに行ってくる。」


夏美ちゃんが席を立った。


「あ、朝比奈君はあの小学生の子とよく会うのだろうか?」


あの小学生って雪夜君の事かな?


「結構よく会うかな。話も合うし、楽しい子だよ。すっごく優しくて可愛くて格好良いし。」

「そ、そうか…」


雪夜君とはよく一緒に出掛けている。ノートの件を解決するため…って言うお題目で連絡先の交換とかしたけど、なんか全然関係ないお話を楽しんでいるし、一緒に遊びにも行っている。

それから何故か雪夜君の事を色々聞かれた。雪夜君の事に関してはあまり大っぴらに言えない事の方が多いので適当にはぐらかした。

二宗君は何やらすごく緊張した様子だ。ゴクリと喉を鳴らして会話を切り出してきた。


「あの子は君の事を名前で呼んでいたね。」

「うん。」


初めての名前呼びの時は恥ずかしくて爆発するかと思った。最近は毎晩電話で呼ばれてるので慣れてきたけど。


「その、…私も君の事を名前で…」


タラッチャラッタ~♪

軽快な音楽が流れてきた。私の携帯の着信音だな。携帯を取り出す。お、話題の人物、雪夜君からだ。二宗君に「ちょっと失礼」と断って電話に出る。


「雪夜君?」

「結衣?今大丈夫?」

「ごめん、今出先なの。急ぎの用件?」

「ううん。ただの映画のお誘い。じゃあ夜また電話するよ。何時頃なら大丈夫?」

「えーと、21時頃とかどうかな?」

「わかった。急にごめんね。」

「ううん。電話待ってる。」

「了解。じゃあ、後で…」


電話を切った。うーん、映画のお誘いか。あれかな?こないだ雪夜君が見たいって言ってたやつ。私もちょっと見てみたいんだよね。楽しみ~。毎月1日はカップルニ割引なんだよね。2月1日に行くのとかどうだろう?雪夜君と私でも頑張ればカップルに…見えないか。ちょっとしゅんとした。


「あ、二宗君、何の話だっけ?」

「いや、何でもないよ…」


二宗君は明らかにテンションダダ下がりである。どうした。クッキーを食べてる時は凄く嬉しそうだったのにな…夏美ちゃんが戻って来て意気消沈中の二宗君を見て溜息を吐いた。

帰りは駅まで夏美ちゃんと二宗君にお見送りされる。


「朝比奈さん、今日はどうも有難うございました。」

「いえいえ。お役にたてたなら良かったけど。」

「あたしもこれで拓海の心を掴んで見せる!」

「頑張ってね。」

「朝比奈さんも…」

「え?」

「いえ。それじゃあ、また是非我が家に来てくださいね。」

「うん。ありがとう。」


手を振って別れた。最後まで二宗君がどんよりしてたのがちょっと気になったけど。



夏美参謀の作戦。

名前呼び解禁したくて緊張の頂点で会話を切り出そうとしたところ、いきなり恋敵の名前が出てきて心折れた二宗君。


二宗君と雪夜君の結衣ちゃんへの認識には差があります。

二宗君→元気で明るい朝比奈君。

雪夜君→強がりで泣き虫な結衣。


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