第62話
クリスマスが近い。ルティでは今の時期ミニスカサンタ服で給仕している。胸に沿った形にカットされた縁には白いふわふわのファーが付いている。ワンピースタイプでミニスカートの部分はフレア。これも裾はファーが付いている。ウエスト部分は黒いベルト。お決まりのサンタ帽に何故か白い長手袋。手袋が白いので、白のニーハイを合わせて履いてみた。
サンタコスで給仕しているという情報を雪夜君に流すと、早速ルティに現れた。雪夜君が来た日、私は文化祭でつけてた明るめのアッシュブラウンロングウェーブのウィッグにヘーゼルのカラコンをつけていた。サンタ服ね、可愛いんだけど、眼鏡が浮くの…というわけで度入りのカラーコンタクトである。
「お帰りなさいませ、旦那様。」
にこやかに対応に出る。
「うっ…わ…」
雪夜君は私の姿を見て声を漏らした。
えー?それどんな声よ?もしかして引いてる?
「……サンタください。」
「へ?」
「サンタください。」
雪夜君は真顔だ。真顔で冗談言うのね、この子。
「残念ですが、サンタは売り物ではございません。」
「ほんっとーにカワイイ!何それ、どういうつもりなの!?」
褒めてるのか怒ってるのかどっちなんだそれ?
「どうって制服だけど?…雪夜君サンタ服気に入らなかった?」
「逆。反則。可愛すぎる。」
褒められているようだ。雪夜君はちょっと顔が赤い。可愛いってさ。初めこの衣装を手渡されたときはすごく恥ずかしかったけど、可愛いって褒められるなら来た甲斐あったな。
「ふふっ。それなら良かった。お席へご案内します。」
雪夜君を席にご案内した。雪夜君はメニューを見るも気もそぞろで私の方ばっかり見てくる。そんなに気に入ったんだろうか?
「ご注文はお決まりですか?」
「コスタリカとベリー&ベリームースケーキにしようかな。」
ベリー&ベリームースケーキはブラックベリーとストロベリーの二層構造のムースケーキだ。フレッシュで甘酸っぱく美味しいケーキである。
「承りました。」
カウンターに注文を伝えに行く。ススス…とサンタ服姿の春日さんが寄ってきた。
「あの子、衣装なんか言ってた?」
「…『反則、可愛すぎる』って。」
うう。雪夜君に言われた時は純粋に嬉しかったけど、それを他人に知られるのはちょっと照れる。中身は平凡な私だけれど、衣装は春日さんデザインのお洒落なものだもんね。可愛いよ…うん。衣装が。
「そうよねーそうよねー!結衣ちゃん可愛いものねー!!アタシの衣装チョイスは間違っていなかったわ!」
春日さんは非常に嬉しそうだ。テンションマックス状態である。ジングルベルを鼻歌で歌っている。その言い方だと私にこの衣装が似合って可愛いと聞こえるのだが。
「あ、そうそう。注文品届けたらいつも通りね。」
「ありがとうございます。」
いつも通り、とは「ちょっとお話してきてもいいわよ」という意味である。こんなんで給料貰ってていいんだろうか…。とりあえず注文の品が用意できるまではきっちり働く。うん。雪夜君にめっちゃ見られてる。まあ、他のお客さんも結構サンタに気を取られてる人多いんだけど。今日一緒にローテ入ってる麗香先輩も根強いファンがいて、麗香先輩のサンタコス目当てに御来店しているお客様とか結構いる。お恥ずかしながら私にも多少ファンがついてたりする。どこがいいのか全く分からんが。春日さん曰く「可愛くて、色っぽくて、声が甘い所じゃないかしら?全身から小悪魔オーラが放たれているわよ。」と仰っていた。小悪魔オーラ…どんなだろ?自分ではよくわかんないや。
おっと、雪夜君の注文品が用意できたな。
慣れた手つきでしずしず運ぶ。
「お待たせしました。ご注文のコスタリカとベリー&ベリームースケーキでございます。」
「ありがと…このお店、撮影禁止で本当に良かった。」
あれ?いつもなら写真欲しがるのに。
「どうして?」
「こんな可愛い結衣お姉ちゃんの写真、他の奴が持ってると思ったらたまんないよ…」
大げさな。今の時期街を歩けばミニスカサンタなんて溢れかえってるぞ?そう思いつつ照れてる私がいる。いやー頬が熱い。
「雪夜君は写真欲しくなかった?」
「欲しいけど…」
「じゃあ、私の自宅で撮影会する?」
「いいの?」
「うん。特別だよ?」
他の人から撮影を申し込まれてもお断りする。恥ずかしいし。でも雪夜君ならいいかな…
「ゆ、結衣ちゃん…俺にもサンタ服の写真を…」
おや、私の数少ないファンのお客様だ。私と雪夜君の会話を聞いていたのだろう。
「ごめんなさい。写真はNGで。」
「だってその子は…」
「この子は…特別です。」
困ったな。個人的に親しい相手と、ただのお客様は私の中では当然扱いが違うわけだけれど。上手い断り文句はないものか。
「結衣ちゃんはその子とは個人的に親しくて、個人的な撮影会を開くのよ?それ以上あだうだ言うなら出入り禁止にしますよ。旦那様?」
にっこり微笑む春日さんが乱入してきた。
私のファンのお客様はサンタ服でも隠しきれない威厳のオーナーの登場に、すごすご席へ戻って行った。
「春日さん、有難うございます。」
「いいのよーう。こういう仕事してると困ったファンとかも出来ちゃうから気をつけなくっちゃね。坊や、雪夜君だっけ?衣装、どうかしら?」
春日さんが雪夜君に直接衣装の感想を求めている。
困ったファンかあ…あのお客様、どこがいいんだか知らないが、私が接客するたびに口説いてきて、ちょっと困ってはいたのだよね。好かれるのは嬉しいけどお返しできるきもちの持ち合わせがないから。
「可愛いと思います。胸元と裾のモコモコしてるとこが特に。色も生地も安っぽさを感じさせない仕上がりで、上品です。感想を言うなら胸元にボンボンをつけるとか、もうひとアクセントあっても良かったと思います。」
結構しっかり見てるのね。
確かに安物感のないしっかりした布のミニスカサンタ衣装なんだよね。可愛くありながら少し品が良くて。
「なるほどねえ、参考になるわ。」
「でも結構エロいです。」
雪夜君がぼそっと何か言ったが、よく聞き取れなかった。春日さんはしっかり聞きとったみたいでにんまりしている。
「うふふ、わざとよ、わざと。うちのお店って普段クラシックじゃない?たまにはファンサービスしておかないと。これくらいで妬かないでっかい男になりなさいよ。」
「努力します。」
雪夜君が頭を下げた。
でっかい男か。うん。身長大きい方が格好良いもんね。頑張れ、雪夜君!私がささやかにエールを送ってると雪夜君に軽くデコピンされた。ヒドイ。なんで???
「結衣お姉ちゃんは分かってない!」
何が!?
聞いても教えてくれないし。春日さんは笑いっぱなしだ。もろびとこぞりてを鼻歌しながら去って行った。
とりあえず撮影会の日取りを決めて二人で指切りした。なんか周りの人に羨ましげに見られている気がするのは気のせいだよね?
でっかい男…背じゃないよ。笑。
他人が写真をもっているのがイヤ>>>>>>>自分も写真が欲しい。です。
ミニスカサンタはエロかわです。春日さんは狙ってやってます。