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第58話

暴力表現が少々あります。

苦手な方はご注意を。

月曜日は桃花ちゃんとバイトのシフトが一緒の日だ。仕事を終えて一緒に帰る。私は桃花ちゃんに対してどういう対応を取っていいのか分からないので、大いに戸惑う時間帯だ。結局無難な話を振るしかない。最近食べたコンビニスイーツの話とかしてる。似たようなのばっかりローテーションで出てくるけど、やっぱり新作が出ると気になっちゃうんだよね。旬の果物使ってたりするからね。そう言えば節分の時期になると恵方巻型のロールケーキが出るけどあれって売れてんの?うちでは恵方巻は別に食べないんだけど。

とりあえず気まずくならないように話を続けていると後ろからスーッとワンボックスタイプの黒いライトバンが近寄ってくる。あまりに速度が不自然なので桃花ちゃんに「避けよう」と言おうとした瞬間、扉が開いて、降りてきた目出し帽を被った人物に口を塞がれ、車に引きずり込まれた。桃花ちゃんも一緒だ。瞬く間に手足を縛られ、口にガムテープを貼られる。


「おい、2人いるが、どっちだ?」

「知らねえよ。」


二人の男が目の前で会話する。これは誘拐か。顔を隠しているならまだ生かして帰すつもりがあるということだろう。


「お前らどっちが一条の女だ?」


……ぉぉう。どうやら一条先輩のイベントに巻き込まれている模様。イベント概要は一条先輩の彼女だと誤解された桃花ちゃんが攫われ、身代金を要求される。一条先輩が苦心して一族を説得して、高額の身代金を用意して桃花ちゃんと引き換える。助けられた桃花ちゃんは「私なんかの為にお金を払わせてしまってごめんなさい…」と言うが、「巻き込んだのはこちらだ。それにお前は決して金で補えない女だ。」と一条先輩に抱きしめられる。後に犯人は優秀な警察官らの捜査により逮捕されるというイベントだ。このイベントに巻き込まれるイレギュラーなんていないはずなのだ。本来は。ただふわっとしか覚えていないが、文章の上げ足を取るなら、攫われたのは桃花ちゃんだけとは断定していない事があげられる。そのへんにイレギュラー要素があったんだと思う。

まずいのは高額の身代金と引き換えに解放されるのは桃花ちゃんだと断定してしまってるところだ。イレギュラーはどうなる!?

「お前らどっちが一条の女だ?」という問いに対する正解は「どちらも一条の女ではない」わけであるが、ストーリー上一条先輩には桃花ちゃんだと判定される訳であって、私は?

釈放される?殺される?誘拐されたまま?

警察に介入される事を恐れる以上、釈放はなさそうだ。顔面を隠していることから殺害までは考えていないように考えられるが、暴行くらいはあるかもしれない。


「どっちでもいーだろ。攫っちまった以上は身代金要求するしかねーんだから2人分要求すりゃいいだろ。」

「一条が2人分払わねー場合はどうするんだよ?」

「もう片方の自宅に身代金要求するか、たっぷり楽しんで売り払えば良いだろ。」


よくね―――――!!うち、高額な身代金なんて払えないぞ。


「そうだな。」

「携帯取り上げとけよ。」

「おう。」


男達は私達の鞄から携帯を抜き取って、席に座った。車は走り出した。しばらく走ってアジトに着くと、背景が映り込まないように布で覆った壁を背に、ポラロイドカメラで写真を一枚とられた。誘拐の証拠写真として使うのだろう。後は早々に放り出された。こいつらは犯罪素人だと予想される。手足は縛られているが荷物は遠ざけられていない。男達が遠ざかるのを待って早々に鞄に這い寄った。私は携帯を2台所持しているのだ。一台はメインで使ってるスマフォ。もう一台は契約すると料金価格のプランが安くなるので契約している携帯だ。通話のみ可能な携帯である。桃花ちゃんに気付かれないように後ろに回された手で、慣れた感覚を頼りにリダイアルを設定して、再び鞄の中に隠す。見えないので本当にリダイアルされてるかすごく不安だ。でも上手く行けば直前の通話相手に繋がってるはずだ。私は後ろ手に壁を叩いた。


「なんだ。うっせえぞ!」


男達が戻って来た。私は目線で訴えて首を振る。口に着いたガムテープを剥がしてもらった。


「鼻炎気味で、口塞がれると苦しいんです。」

「しっかたねえな。静かにしてるんならガムテープはつけないでやるよ。」

「私と七瀬さんを誘拐して一条先輩にいくら要求するんですか?」


携帯に届くよう声を張り上げた。この一言だけ相手に伝われば問題ない。


「黙ってろっつたろ!」


私は殴られた。眼鏡のフレームが歪んだ気がする。これくらいは覚悟の上だ。

携帯のリダイアルの相手は雪夜君だ。ノートでこのイベントについて読んだことのある雪夜君なら私が誘拐イベントに巻き込まれたと察してくれるはず。具体的な住所までは書いていないが、監禁場所は市内の廃倉庫だ。

しばらくは男が電話で一条家に交渉しているのを聞く。ここで一条家が一人分の身代金しか払わないと言われたら、私の実家に要求がいくか、お楽しみの後売り払われてしまう。一人分しか払わなかったと世間に知られたら一条家は大いに叩かれると思うので大丈夫だとは思うが。一人分しか払わず、金でマスコミを黙らせるという手もあるので楽観はできない。

時間が過ぎていく。


「なあ、ちょっとくらい味見しても良いだろ?」


一人の男が桃花ちゃんを見て言った。下品に舌なめずりしている。桃花ちゃんの美少女ぶりにやられたな、コレは。


「そんなことして一条家がへそを曲げたらお金が手に入りませんよ?」

「うるせえぞ!」


また殴られた。まあ、桃花ちゃんはヒロインだから何にも言わなくても無事に決まってるけど、言わずにはいられなかった。これもノートにおける予定調和なのかもしれない。


「やめとけやめとけ。これから一条家にお嬢ちゃん達の『無事な』声を聞かせるんだからな。」


そういう要求が来てるらしい。桃花ちゃんが口のガムテープを外された。


「騒ぐなよ。無事な声を聞かせてやれ。ただし、余計なことは言うな。『私は無事です。早く助けてください。』だけでいい。他の質問は答えるな。」


電話をかけて男が数言喋った後、会話は男達も聞こえるようハンズフリーの機能にされた。「七瀬桃花か?」という一条先輩の問いに桃花ちゃんが緊張した様子で「私は無事です。早く助けてください。」と言った。これはまずいなあ。一条先輩、桃花ちゃんと一緒に居るのが私だってちゃんと分かってる?生徒会から委員長へみたいな流れで仕事は一緒にしたことあるが、そんなに接点多くないぞ。しかし意外にも「朝比奈結衣か?」と一条先輩の声がする。およ?私が誰だかあの写真でもちゃんとわかったのか?しかし余計なことは言うなと言われている。「私は無事です。早く助けてください。」と言った。

男が再びハンズフリーの機能を解除して数言喋って電話を切った。

またしばらくの間待つと、しきりに話しあっていた男達がそれぞれ遠ざかった。そこへ突如警官隊が突入した。私達から遠ざかってた男達はそれぞれナイフを所持していたが、プロの突入にあっさりと無力化された。


「桃花!」

「誠先輩!」


二人はしっかりと呼び合う。しかし警官隊突入?そんな文章入れてないが。


「桃花、大丈夫か?怪我はないか?」


一条先輩が桃花ちゃんの手足の縄を切って抱き合った。


「怪我は…ないです…だけど、なんか……気持ち悪い。」


桃花ちゃんは部屋の隅に駆けてくと盛大に嘔吐いた。おいおい大丈夫か?美少女が吐いている。なんて絵面だ…一条先輩はそこにずかずか近寄るほどデリカシーが無いという訳ではないようだ。私は警官の人に縄を切ってもらった。桃花ちゃんは状態異常、私は顔を2度も殴られているのでそのまま救急車に乗って運ばれた。桃花ちゃんは大事をとって入院、私は腫れあがった頬の手当てを受けていた。骨も関節にも異常はないらしい、目の位置も避けられている。歯も折れてない、口の中が若干出血してるが。多分殴る時にだいぶ手加減されたんだろう。だが一応私も検査入院するらしい。明日はもっと腫れるんだそうだ。個人的には首も痛い。そこへ家族がやってきて滅茶苦茶心配された。あの普段は小憎たらしい妹がぼろぼろに泣いている。両親は比較的落ち着いていたが、妹がだいぶ不安定になっているようなので、私は早めに家族を帰した。

見計らったように雪夜君がやって来た。桃花ちゃんの家族も病院に居るようだ。


「結衣お姉ちゃん無茶しすぎ!」


叱られてしまった。全面的に警察に協力して、警官隊が突入するまで電話口でずっと聞いていたらしい。一条先輩が電話でスムーズに私の名前を出したのは雪夜君のおかげのようだ。「さっき会話が聞こえて、場所は市内の廃倉庫だそうです」と情報を流して、捜査の手伝い。警官隊が突入するタイミングも携帯の音で探っていたらしい。


「他に助かる方法が見つからなくて。」

「結衣お姉ちゃんが帰らなかったら家族から春日さんに連絡がいくはずだし、春日さんからオレの家にも連絡が来たら、オレは気付いたよ。」


そういやそうか。雪夜君異様に鋭いもんな。ここは動かずに待つのがベストアンサーだったか?


「ゴメン。雪夜君が警察呼んでくれたの?」

「うん。一条は警察介入させないつもりだったみたいだけど、それじゃあ結衣お姉ちゃんが助かるか分からないからね。身代金払ってくれるなら良いけど、そうでないなら…」


その辺は雪夜君も私と同意見だったらしい。


「ありがとう。」

「いいよ。こんなに腫れちゃって。美人が台無しだよ。」


雪夜君が悲しそうに腫れた頬を撫でた。冷やしているが撫でられるとまだ痛い。と言うか喋るのも痛い。腫れてるのは主に口の近くだ。


「七瀬さんの方どう?」

「何かずっと気持ち悪いって言って吐いてるよ。」

「何があったんだろう?別に誘拐犯たちには何もされてないけどな?」


心理的トラウマと言うやつが根付いてしまってるんだろうか?


「ノートじゃない?」


雪夜君がさらっと指摘した。君は落ち着いてるなあ。

でもノートが原因ってどういうこと?


「ノートに書かれた事と違う事が起きたから異常をきたしてるんじゃない?特にイベントは桃姉の『記憶』にあたる部分だから、無理やり記憶改竄されたようなものだし。」

「あ、そうか。そうなるとノートの部分どうなってるんだろう?」


私は鞄を取ってもらって中から黒歴史ノートを出した。

ノートのイベントに関する記述は文字化けしていた。当然私がした事ではない。ボールペンでもない、何か焼印のようなもので意味不明の記号と文字が並んでいた。何コレこわっ!


「これが桃姉の不調の原因だね。悪いけどイベント妨害する度に桃姉があんな異常起こすのは困るから、余程の事が無い限り今後イベント妨害はナシで。あ、今回みたいなのは別だよ?結衣お姉ちゃんも大事だから。」


雪夜君が言うので頷いた。いちいちあんな状態異常起こされたら桃花ちゃんが病んでしまう。雪夜君が「頑張ったね。腫れ、早く引くと良いね。」と言って頭を撫でてくれた。雪夜君がそう言ってくれると早く治りそうな気がする。

明後日から学校で説明するのが憂鬱だけど頑張ろ~う!


イベント妨害不可という事実が明らかになりました。

結衣ちゃんの顔を殴るだなんて…

親父にも殴られたことないのに!!

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