表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/78

第56話

今日は雪夜君の遠足である。

バスでちょっと遠出してお山で登山するそうだ。丁度紅葉してる頃じゃないだろうか?私は登山とか聞くだけで身の毛もよだつね!雪夜君は体を動かすことを苦にしないのでいいみたいだが。雪夜君は家族に「友達が弁当作ってくれるから」と断り、その実、私がお弁当を作るという算段だ。メニューは鶏と卵のそぼろご飯、人参のしりしり、いんげんの胡麻和え、豆腐とひき肉の揚げ団子、筑前煮、ソーセージとピーマンと玉ねぎの炒め物だ。喜んでくれるといいな。実はちょっとした悪戯で、鶏と卵のそぼろでご飯にハートマークが書いてあったりする。更にその上にハート型に抜いたハムをいくつか飾ってある。ソーセージと野菜の炒め物もソーセージはハート形を薄くスライスしたものだ。きっと友達にからかわれると思う。怒られないかな。ドキドキ。

いつもより早い時間の電車に乗って、雪夜君の家の近くで待ち合わせて、お弁当を手渡す。


「ありがとう。結衣お姉ちゃん。」


雪夜君はニコニコしながら青いギンガムチェックの包みに入ったお弁当を受け取った。これで以前リクエストされた「お弁当作ってくれる?」ミッションはクリアされた。


「美味しいかどうかわからないけど…」


謎の照れに苛まれる。


「大丈夫。結衣お姉ちゃんが作ってくれたんだから、きっとおいしいよ。感想、メールするから。」

「うん。遠足気をつけて行ってきてね。」


雪夜君と別れて私も学校へ行く。

苦手教科に頭を悩まされつつ半日を過ごす。お昼休み。里穂子ちゃんとお弁当を食べる。


「おお。今日は一段と具沢山だね?」


里穂子ちゃんが私のお弁当を見て言う。うん、普段はこんなに品数多くないんだけど、色々食べられた方が楽しめるかと思ってちょっと多めに入れてみました。因みに私のお弁当のそぼろは別にハートマークではない。


「えへへ~。頑張りました。」

「味見させて~。」


里穂子ちゃんはちょっと羨ましげだ。里穂子ちゃんのお昼ご飯はコロッケパンである。コロッケパン美味しいよね。ヤキソバパンも美味しいけど。なんで炭水化物ってあんなに美味しいんだろうね?


「どうぞ~。」


私は自分のお弁当箱を差し出す。

里穂子ちゃんが揚げ団子を一つ口に放り込んて食べている。

携帯のバイブが震えた。メールかな?

雪夜君だった。『お弁当ありがとうね。とってもおいしいよ。特にそぼろが絶品。揚げ物も人参の料理も食べたことない味でおいしかった。でもお弁当を見た友達に何事だと追及されたよ。悪戯はめっ!』

恐らくハートについて追及されたのだろう。一応叱られたけど、文面から察するに怒ってはなさそうだ。良かった良かった。メールで謝っておくと、怒ってないよという文面と共に帰りにお弁当箱を返すとメールが来た。私は朝と同じ場所を待ち合わせ場所に指定した。最初雪夜君はお弁当箱を洗って返そうと言ったのだけれど、お弁当箱を持ち帰られてしまうと「友達が『集団に対して』お弁当を作る」訳じゃなく、雪夜君個人の為に作ったのが雪夜君の家族(桃花ちゃんとか)に丸わかりなのでそれは止めてもらうことにした。まあ、洗ってもらった場合、同学年に可愛い彼女がいるんだろうなあ、と生温かい視線を家族から受けるだけかもしれないけど。

ついでに紅葉した山の写メを送ってくれた。きれい。山登りたくないけど、紅葉に罪はないよ。


「何携帯見てにやにやしてんの~?」


里穂子ちゃんが私の顔を覗きこんでいる。


「にやにやなんてしてないよ。揚げ団子美味しかった?」

「めっちゃ美味しかった。あれが毎日食べられる妹さんになりたいっ!」


おかず作ると少量作るのはとても難しいので、妹のお弁当にもついでに詰めているのだ。それでも残る分を毎朝朝食にしている。朝昼同じおかずって正直ちょっと飽きる。仕方ないんだけどね。理想を言えばお弁当分と朝食分で、同じ素材を使って味付けを変えるとか変化をつけると美味しくいただける。


「体育会系のお兄さんいいじゃん。頼りになりそうで。」

「ならないんだな、コレが。とんだヘタレ野郎だよ。」


里穂子ちゃんのお兄ちゃん批判はいつも辛口である。如何にお兄ちゃんという生き物が頼りにならないか延々と語りだした。結構面白いと思うけどな。竹輪にの穴に舌を入れて食べようとして舌まで噛んだりするお兄ちゃん。少なくともネタにはなる。

うちの妹は生意気で生意気で。お弁当作っても「またこのおかずぅ?」とか文句言ってきたりする。

里穂子ちゃんの愉快な演説を聞きながら昼食をとった。



放課後慌てて待ち合わせ場所に行った。が、そこで展開されていたのは雪夜君が友達と思しき集団に囲まれてる図だった。雪夜君が片腕にすり寄っている女の子を迷惑そうに振り払っている。ど、どうしよう。これ。出なおすべき?私がうろうろしてると雪夜君と目が合った。雪夜君は一瞬躊躇ったが、すぐに笑顔でこちらに駆けてきた。


「結衣お姉ちゃん。わざわざ来てもらっちゃってゴメンね。オレがそっち行けば良かった。」


まあ、この集団を見ればそういう結論にたどりつくわな。しかし待ち合わせ場所指定したのは私だ。申し訳ない。相変わらず私は読みが甘い。


「良いけど…どうしちゃったの?この状態。」


遠足だからって団子状態で集団下校させてるの?児童に対する防犯意識の高まり?


「結衣お姉ちゃん、胸に手を当ててよーく考えてごらん?」


胸に手をあてるが特に思い当ることはない。それが伝わったのか、雪夜君は溜息をついた。

うっ、わかんなくてゴメン。


「まあ、いいや。お弁当すごくおいしかったよ。有難う。」


青いギンガムチェックの包みに入ったお弁当箱を返してくれた。


「このオバサンがお弁当作った人?」


雪夜君の片腕に絡みついてる女の子が憎々しげに睨んでくる。こわっ!他の女子児童も一様に睨んでくる。こわあー!女子小学生からの敵意いただきました!えー…私君らになんかした?どうして睨んでくるの?すごく怖いです。

しかもオバサンって4つしか違わないはずだけど。小学生から見たら私はオバサンなのか。地味にダメージ受けるな。

女の子達はまだ何か言いたげだったが、雪夜君が「オレ失礼な人嫌いだな」と発言すると黙り込んだ。


「へー、アレ作ったのお姉さんなんだ?お姉さんのお弁当滅茶苦茶旨そうだったなー。俺羨ましかったよー。」


雪夜君の友達らしい男の子が言ってくる。物怖じしない子だな。


「そう?有難う。」


褒められるのは嬉しい。今時キャラ弁とかあるし、そんなに目立ったお弁当じゃなかったと思うけど。きっと小学生のお母さんとか気合い入れてるぞ。遠足だもん。


「なのに雪夜ってば一口もくれねーんだぜ?」

「当たり前だろ。」


雪夜君が即答する。いや、一口ぐらいあげても良いんじゃない?


「だってハートマークのラブラブ弁当だもんな?」


どうやらハートマークでからかわれたらしい。もしかしてコレ、ハート満載の弁当を雪夜君に寄こす女はどこのどいつだ!?見てやろうではないか!!って集まりなのか?

困ったな。こんな騒ぎになるとは思ってなかった。

もしやこの集団女子児童は雪夜君のファンなのか?やっぱりモテてるんだな。


「結衣お姉ちゃんゴメン。今はちょっと話とかできなさそう。」


そのようだ。


「じゃあ、また今度ね?」

「うん。」


家に帰ってお弁当箱を洗おうと、包みを開いたらお弁当箱の上に一枚、真っ赤な紅葉が乗せてあった。お土産ということだろうか。こういうさりげない所がモテるんだろうな。私はその紅葉を押し花にした。5日くらいかかったけど、押し花にした紅葉に台紙を付けてラミネート加工して栞にした。うん、キレイ。

夜、雪夜君から電話があってお弁当の感想を改めて言われた。別段作るのが難しい物は入れてないがお口に合った様子。機会があればまた作ってね、と依頼された。あとハート型は可愛いけど大いに注目を浴びたとのこと。お弁当の箱を開けた時吃驚したそうだ。ドッキリ成功!でも雪夜君のファンに恨まれたよ!

あと山は眺めが良いってさ。登らないけどね!


愛妻弁当。笑。


雪夜君は結衣ちゃんのお弁当を食べるために他の女子のお弁当を断ってます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ