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第55話

もう結構寒い時期だ。廊下が特に冷える。私は寒いのが嫌で廊下を走っていた。早く移動した方が、寒いのから早く逃れられるじゃない?

しかしいい気になって走っている途中、廊下の曲がり角で雨竜先輩とぶつかって荷物をぶちまけた。と言うかよろめいて転んでしまった。雨竜先輩の荷物もぶちまけられている。あいたー…


「だ、大丈夫?ごめん、ちょっと前見てなかった。」


雨竜先輩が慌てて助け起こしてくれる。雨竜先輩はクラスの提出物を運んでいたようだ。沢山のノートがぶちまけられている。


「ええ。大丈夫です。私こそ走っててごめんなさい。」


私は手早く自分の荷物を片付けた。ついでに雨竜先輩の提出物も持つのを手伝ってあげた。結構な量なのだ。可哀想だしね?


「ありがとー」


雨竜先輩はニパッと笑った。この笑顔は晴樹先輩とそっくりだね。

荷物は英語と物理の提出物らしい。職員室に運ぶ所だったそうだ。二年は一年と英語の教員が違っている。「二年の英語の先生は怖いよ~」と雨竜先輩が脅してくる。ふふん。英語など恐るるに足らず。あいあむあぺん!職員室では先生方が次の授業に備えて色々準備をしている。授業やるのって結構大変だよね。教科によっては教材沢山用意しなくちゃならないし。準備万端で授業に挑んでも相手は予想斜め上の生徒たち。ハプニングはつきものだ。先生方、ガンバ。


「それじゃあ、お疲れ様です。雨竜先輩。」

「…やっぱり君は見分けるんだね。僕と晴樹を。」


雨竜先輩はちょっと複雑そうな顔だ。嬉しそうでもあり、悲しそうでもある。どうせまた「僕は晴樹と違うから…」とかうじうじしたこと考えてたんでしょ。顔の割に根暗なんだから。


「実は今回はわざと似せてたんだよ?」

「だって違うもの。表情も手の大きさも発言内容も。雨竜先輩は雨竜先輩らしくていいと思いますよ。」

「そっか…。僕たちを見分けた君にプレゼントー!はい、これ。」


雨竜先輩が取り出したのは三角のレモン味の飴だった。

割と好きな飴なので有り難く頂く。


「ありがとうございます。」

「それを食べてキスしたら初めてのキスはレモン味だよー。」

「その予定はありません。」


ばっさり遮った。ていうか私が初キスまだなの確定してるの?確かに朝比奈結衣の人生始めてからはまだだけど。初めてのキスはレモン味…なんてフレーズとうの昔に死に絶えたと思っていたよ。まあ初めてのキスが納豆味とかだと萎えるよね。そんな予定ないんだけど。


「え?そうなの?」


雨竜先輩はきょとんとしている。晴樹先輩なら「またまた照れちゃってぇ。うりうり」と来るところだ。うざさは雨竜先輩の方がマシ。


「ま、いいや。手伝ってくれて有難うね~」


雨竜先輩はニコニコしながら去って行った。



今日の授業は無事終了…っと。あれ?なんか忘れてる気がするな。何だろう?うーん…里穂子ちゃんが近付いてきた。


「結衣ちゃん帰ろう!…ノート開きっぱなしで何やってるの?」


ノート!

私の黒歴史ノート見てない!机の中を探したが、ない。鞄の中にもない。ロッカーの中にも無かった。な、失くした…?私はサーっと血の気が引くのを感じた。どこで失くした!?最後に確認したのは昼休みだ。その時はあった。それからそれから…雨竜先輩とぶつかって荷物ぶちまけた!!雨竜先輩が持ってたノートの束に紛れこんでるとしたら…普通の人にはノートは白紙に見えるはず。だけど雪夜君にはノートの文字が見えた。ノートの関係者には見える確率が高い。あの時雨竜先輩が運んでたのは英語と物理のノート。英語ならいい、物理なら担当は…

八木沢先生!

私は里穂子ちゃんが何事か話しかけているのをぶっちぎって職員室に走り込んだ。八木沢先生にノート見られたらヤバイって言うレベルじゃない!!

職員室のドアを勢い良く開ける。


「八木沢先生。先程六崎に運んでもらったノートですが、このノート物理のものかもしれません。英語のかもしれませんが、白紙なんです。名前も書いてないし、どの生徒のものか心当たりありませんか?」


英語のはげでぶっちょの先生が八木沢先生に話しかけている。


「どれ?」


八木沢先生がノートを受け取る。


「待ったああああああああああああ!!」


私は職員室で叫んだ。教員、職員室に用のあった生徒、全員の視線が私に向く。私はずんずん八木沢先生に近付き、ノートを奪い取る。広げて見たが、間違いない。黒歴史ノートだ。


「八木沢先生、このノートの中見ましたか?」


詰め寄ると八木沢先生は若干引いた。


「い、いや、見てないが?」

「本当ですか?」

「あ、ああ。」

「このノート私のです。さっき雨竜先輩とぶつかった時紛れ込んじゃったみたいです。回収していきます。」

「おお。」


セーフ。セェーフ!ノートの回収に成功した。職員室の視線を一身に浴びているが、そう言った事は些細な問題なのだ。

だよね…?

里穂子ちゃんに「何やってるの!注目の的だったよ!」と怒られてしまった。

数日後、朝比奈は大人しそうに見えてちょっと変わっているという噂が流れて私涙目。


結衣ちゃん危機一髪。


雨竜先輩はこれでも改善された方なんです。

根暗なのは生まれつき。

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