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第54話

桃花ちゃんのうっかりが発動した。


「桃花ってどこでバイトしてるんだっけ?」


という長谷川さんの問いに気安く。


「『ルティ』っていうメイド喫茶だよ。」


と答えた。そこまでは良い。いつ私も働いてると察知されるか分からないからホントはあんまり良くないんだが、そこまでは良いんだ。メイド喫茶という言葉に教室が大きく湧いたが、それは桃花ちゃんのメイド姿が見たいだけだろうからいいんだ。その後が問題。


「えー。桃花のメイド姿絶対可愛い!いっぺん見物しにルティ行くから場所教えて!」


という長谷川さんの発言に対し


「来ちゃだめっ!朝比奈さんもいるからっ!」


と答えた。

おおぉぉおい!ソレ言う必要無いよね!?私がシフト入ってない日を指定すればいいだけじゃない!?

聞き耳を立てていた私は唖然とした。再びクラスが湧いた。

「朝比奈がメイド!?意外すぎる!」という声が聞こえる。桃花ちゃんがはっとなって口を押さえるが、もう遅いです。遅すぎます。覆水は盆に返りません。隣で私とだべっていた里穂子ちゃんが私の肩を強く掴んでがくがくと揺すり始めた。


「結衣ちゃああああん!なんで教えてくれないのおおおお!!??」

「だ、だって、見られるの恥ずかしいし?」


ホントのところ言うと、個人的には衣装は見られても良いんだけど「お帰りなさいませ、お嬢様」とか言ってるのを聞かれるのが恥ずかしい。

かくして桃花ちゃんのメイド姿を見物しに行こうツアーが組まれた。どう考えても相当忙しくなる事が予測されるし、周囲の目が痛いのでそのツアーは私がシフト入ってない日にしてもらった。それとは別に里穂子ちゃん、倉持君、林田君、二宗君による朝比奈結衣のメイド姿を見物しに行こうツアーも組まれた。うう。恥ずかしいぜい。



「お帰りなさいませ。旦那様、お嬢様。」


私は里穂子ちゃん、倉持君、林田君、二宗君を迎え入れた。林田君が爆笑したが「他の旦那様方のご迷惑になるので声をお控いただけるようお願い致します。」と絶対零度の視線を送ったらぴたりとおさまった。


「お席へご案内します。」


4人を席へ案内して引っ込んだ。


「今日は結衣ちゃんのお友達?」


春日さんは心なしか疲れた面持ちだ。


「はい。煩くてすいません。」

「まだ静かな方よ。この前なんて桃花ちゃんのお友達が大勢来て大騒ぎ。桃花ちゃんは仕事にならなくてフロアは滞ったし、駄目だって言うのに写真撮って帰ったわよ。他のお客様から『私も写真が撮りたい』って言われて大弱り。何とか謝罪して断ったけど。写真撮って帰った桃花ちゃんのお友達は申し訳ないけど次からは入店拒否するわ。」


桃花ちゃんのメイド姿を見物するツアーの人々は大変なマナー違反をして帰ったらしい。大変だったろうな。写真撮って帰った桃花ちゃんのお友達が入店拒否なら、これからルティの常連になる顔見知りも少なくなるかもしれない。私はちょっとほっとした。

里穂子ちゃん達のオーダーを取って、お客様がいなくなった後のテーブルの片付けに追われる。

里穂子ちゃん達の注文の品ができたので、テーブルに運ぶ。

里穂子ちゃんが「写真撮ってもいい?」と聞いてきたので、写真撮影は禁止されている事、桃花ちゃんの友達が大騒ぎして写真撮って入店拒否リストに載ってる事を話した。


「へー。そうなんだ。マナー違反しないように気をつけようっと。」

「しかしメイド喫茶ってイメージ違うな。」

「だよな。俺もっとぶりっこして媚び媚びで接客するのかと思ってた。」


私もその辺は最初意外に思ったことだ。ここのメイドは秋葉原辺りでチラシ配ってるメイドさんとは趣を異としてるからな。


「まあ、一般的に『メイド喫茶』って呼ばれてるところとは違うと思うよ。お客さんへのサービスタイムも萌え萌えじゃんけんもオムライスへのケチャップお絵かきも無いからね。」

「それってメイド喫茶として何をウリにしてるの?」


里穂子ちゃんの疑問だ。


「一つは内装だね。店内装飾綺麗でしょ?もう一つは衣装。(春日さんがデザイナー業をしているところを見るに)これが一番の売りかもしれない。ヴィクトリアンメイドだけどシックでお洒落でしょ?あとは注文の品を食べたらわかると思うよ。」


ルティは味でも勝負してるのだ。私も時々お客さんとして来て食べたり、新作の味見を頼まれたりして食べるが、かなり美味しい。飲み物も満足できる味だ。味に対するお値段が超良心的なのである。


「朝比奈君、良く似合っていると思うよ。」

「ありがとう。私は仕事に戻るね。」


今日はまあまあお客さんが入ってるのでそんなに暇ではないのだ。

独楽鼠のように働く。里穂子ちゃん達は声を落として雑談したり私の働きぶりを見てあれやこれや言っているようだった。二宗君はなんだかポーッとしているみたいだが、大丈夫だろうか?

会計に立ったようなのでレジで待ち構える。


「別々に会計できる?」


里穂子ちゃんが聞いてきた。割り勘ではなく、個人が頼んだ物は個人が払う形式にしたいようだ。20人とかで来られたら断るところだけど、4人くらいなら良いだろう。


「出来ますよ。」


「○○ご注文のお客様は○○ご会計です」を4回繰り返した。


「ありがとう。とても美味しかったよ。」


二宗君が言う。里穂子ちゃんも即座にコクコク頷く。お気に召していただけたようだ。


「俺常連になっちゃおうかな?」


林田君が言う。出来ればやめてほしい。と言うか私がいる日は来るな。働きにくい。シフトを聞かれたが頑なに口を閉ざした。



春日さんに「結衣ちゃんのお客さんはマナー良かったわね」と褒められた。良かった良かった。それは良いんだけど、それからというもの、ちょいちょい各自がご来店するようになってしまった。泣。


メイド姿の結衣ちゃんに見惚れる二宗君。

お家でお出迎えしてほしいドリーム。

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